魔王の娘としては大変不本意ではございますが、勇者と結婚することになりました。

春音優月

文字の大きさ
2 / 31

2、融和の時代

しおりを挟む
「戦う準備も覚悟も、私はいつでも出来ています」
 
 迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
 
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
 
 先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
 
 魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
 
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
 
 魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
 
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
 
 理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
 
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
 
 ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
 
 しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
 
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
 
 どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
 
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
 
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
 
 兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
 
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
 
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
 
 勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
 
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
 
 心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
 
 ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
 
 魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
 
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
 
 うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
 
「……はい」
 
 口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
 
 かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...