剣閃

小林 広平

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第壱幕

4-3

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「まあ、御前おまえはもううちに帰んな。後はおいちゃんが何とかすっから」

 男は少年に背を向けると、颯爽さっそうと林の奥へと消えてく。はずったが、何かが着物のすそに引っ掛かり、行動をはばまれた。すそつかんだのは、小刻こきざみにふるえる少年の手でった。

「無理だよ。一人じゃ食べられてしまうよ」

 格好かっこうを付けそこねた男は眉間みけんしわせると、少年を振りほどこうとこころみた。しかし、背水はいすい覚悟かくごの為か、しっかりと力が入ってる。中々なかなか振りほどけない。

「分かった、分かった。ほら、此奴こいつろう。これ大丈夫だいじょうぶだろう?」

 観念かんねんした男は腰から短い方の刀を抜いた。抜いたとは言えど少年相手。無論むろん鞘毎さやごとる。

 少年の手に脇差わきざしわたる。ずしりと重いれは刀身とうしんしゃく近くはろう業物わざもので、打刀うちかたな見紛みまごう、脇差わきざしと言うよりは小太刀こだちと言った方が相応ふさわしい得物えものった。うるしかさりされみがき込まれたつややかな漆黒しっこくさやに、手の込んだおに彫物ほりものほどこされた鉄地てつじつば刀身とうしんおがまずとも、相当そうとうる刀と見受けられる。

「でも、良いの?刀は武士ぶしたましいなんでしょう?」

 悪意あくいの無い眼差まなざしを向ける少年に、男は少しいやな顔をすると、深く溜息ためいきいた。

武士ぶしは食わねど高楊枝たかようじってな。背に腹は変えられねえ。しかも、ほら、物干ものほ竿ざおみてえな長い方が、だ残ってらあな」

 男は少し落ち込だ様子ようすったが、無理に背をり胸をると、天に向かって、からからと高笑たかわらいをした。
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