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囚われた姫
しおりを挟む私は自由。いろんな場所へ行って、いろんな物を見る。
この広い世界で、ひと所に留まるなんて勿体無い。
いつか、全ての場所へ行き尽くすまで、私は飛び回る。
ある日、いつものように旅行をしていた私は、1人の青年に出会った。そこはとても暗い路地。建物が密集しているのに、居るのはその青年だけ。独りぼっちのその青年は、なんだか、とても寂しそうだった。
私は思わず、声をかけた。
「ひとりで何をしているの?」
青年はこっちを見て返事をした。
「わからない。気づいたらここに居たんだ。」
とても綺麗な青年だった。
「ふうん。どこか他の場所へ行けば良いのに」
「どうやっても、ここから出られないんだ。」
「そうなの。手伝ってあげましょうか。」
姫はここから出るのを手伝ってあげようと、手を伸ばした。しかし、青年は動こうとしない。
「出たくないの?」
「他の場所へ行くのは怖いんだ。行きたくない!ここに居たいんだ!」
何故だか、急に怒りだした青年を姫はとても嫌いだと思った。
「そう。じゃあ好きにすれば良いわ。ずっとそうやって怒っていれば良い。私はもう行くわね。」
姫は早く次の場所へ行きたくて、移動しようとした。振り返って走り出そうとしたら、後ろから手を掴まれた。
「何をするの?」
「ここに居てよ。」
「嫌よ。私は旅行がしたいの。」
「君は綺麗だから僕の物にしたい。」
「嫌よ。私は誰の物にもならないわ。」
一生懸命逃げようとするが、青年の力はとても強くて逃げられない。
「離して」
「絶対嫌だ。君が居てくれると、何だか落ち着くんだ。」
「そんなの知らないわ。私はひと所に留まらない。」
姫は行こうとするが、青年はなおも引き止める力を弱めない。だんだんその力は強くなって、とうとう抱きすくめられてしまう。
「嫌よ!離して!」
「君が行ったら僕はまた独りぼっちになってしまう。」
「そんなの知らないわ。私は行くの!」
どんなに強く抵抗しても、青年からは逃げられない。
ジタバタやっていると、服が脱げた。
それは長い長い羽衣。
クルクルと羽衣が姫の体から解けていく。
脱げた拍子に体が離れたので、姫は青年と距離を取る。
それはとても大切な羽衣だったが、今や羽衣の端は青年の手に。
「これを置いていってくれるんだね。ありがとう。もう行っていいよ。」
青年は端を引っ張って自らの体に巻き付ける。
「それはとても大切な衣なの。返して。」
「知らないよ。これはもう僕のものだ。」
「着ないで!返して!」
「取りにおいでよ。ここまで近寄って。」
羽衣の、3分の1が姫の体に巻き付いたまま、
3分の1が青年の体に、
残りの3分の1ほどの距離が2人の間にあった。
姫は青年が恐ろしくて近付けない。
姫はまだ自分に巻き付いている羽衣の端をしっかりと握って、奪い返そうと引っ張る。
しかし羽衣はしっかりと青年の体に巻き付いている。
「ここを切れば離れるよ。」
「母から譲られた大切な衣を切るなんてとんでもない。離して!返して!」
グイグイ必死に引っ張る。
しかし、羽衣は外れず、姫は、引っ張りながら青年の周りをグルグル周るばかり。青年に背を向けて必死に引っ張る。
それに合わせて青年もグルグル周る。
「はははメリーゴウランドみたいで楽しいね!」
「はーなーしーてー!」
グルグルグルグル。
青年は姫の背中を見続ける。
姫は青年に背中を見せて引っ張り続ける。
青年は思った。
——もう、背中しか見ることはできないけれど。君をずっと離さない。
羽衣は引っ張られて少しずつ伸びていく。
いつか、どちらかが奪い取るか、千切れるまで。
毎年、4センチほど離れる月は、地球に盗られた自分の一部を取り返そうと、一生懸命引っ張っている。
——のかもね。
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