侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月

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20 お茶会

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当日。
今日は憂鬱な婚約者との定例のお茶会。もうなくて良いのに。それでも、これは仕事みたいなものだ。淑女らしく笑顔で全ての言葉を聞き流せば良い。と、自分を励まして、サンルームに向かう。

 部屋の下座にあたる側のソファに座って、ジリジリと時間が経つのを待つ。
( 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。もういっそすっぽかしてくれないかしら。会いたくない。見たくない。事故にでも遭わないかしら。……流石にこれはダメね。人の不幸を願ってはダメよリリア。嫌だ嫌嫌嫌。嫌だと思ったら顔に出ちゃうわ。大丈夫。できる。聞き流して笑顔を浮かべておくだけだもの。何でもないわ。できるできる。私はできる。)

 こうやって、自己暗示をかけなくてはオスカーとの時間を耐えられないほどに、嫌になっている。

 部屋でこれをやると、会いたくない気持ちの方がまさって動けなくなる。一度だけ、仮病を使ったが、その後、せっかく会いに行ってやったのに、と嫌味を言われた。それ以降、動けなくなる前に、早く来て座ることにしている。

 しばらくして、メイドがオスカーの来訪を告げた。立ち上がり、彼が部屋に入るのを待つ。いつも通り、偉っそうに大股で部屋に入り、挨拶もせずに、私の向かい側に座る。仕方がないので、挨拶をしてから私も座った。

 メイドがお茶とティースタンドを持ってくる。この辺りになると、私の気持ちも大分落ち着いて、嫌を通り過ぎて、無心になってくる。

私は多分、嫌が大きすぎて、この男を怖いのだと思う。

 「王宮に勤めているのは本当らしいな?」
 「挨拶もなしに、いきなり何ですか?」
 「だから。王宮に勤めているのだろう?まだ信じられないが、陛下について行くのを見てしまったからな。」
 「はあ……そうですか。」

 「何の仕事をしているんだ?」
 「言えません。仕事内容を教えられないのは当然でしょう。」

 「やはり、嘘だから言えないんだろう。父上のことも騙しているのか。この間、陛下について行ったことを不思議に思って父上に聞いたのだ。薄くはあるが、王家の血が流れているそうじゃないか。親戚とかそういうていで陛下を尋ねたのだろう。いやらしいヤツだな!」

 「どうして嘘だと思うのですか?」
 「どうして、本当だと思えるのだ!?」

 「何度も言うが、王宮でお前などが働ける場所など、多くもない。せいぜいメイドくらいだろう。だが俺はお前がメイド服を着ているところを見たことがない!」

 「侍女はメイド服を着ませんよ?」

 「お前のような小賢しい女が侍女などできるわけもないが、もしそうだとしたらマリア様かリチャード王太子の近くで見かけるはずだ!」

 「王宮の仕事はそれだけではありません。」

 「はっ!なら陛下の側に付いているとでも?お前は爵位だけはあるからな。爵位を持ち出せば有り得そうなことだと俺が騙されるとおもったのだろうが、バカにするな。爵位があろうと、陛下の側には未婚の女性は仕えないことくらい知っているんだ!」

 「正確には、王族には、ですが。」
 「そういうところが小賢しいんだ。おれに意見するなんて、婚約者としての自覚がないのか!それに、大方、陛下に注意でも受けたのだろうが、あの日からお前を見なくなった。それが王宮で働いていないという証拠だろぅが!」

 「お前が、私に会うために、あれこれと策を巡らせているのは知っている。そこだけは認めてやっても良いが、相手をしてもらいたいなら、もう少しまともな格好をしたらどうだ?」

 「まとも、ですか?」

 「いつもいつも、その地味な装い。ただでさえ地味な顔がますます貧相に見える。マリア様はいつも綺麗にしているぞ!マリア様に仕える俺の妻がそんなのでは、示しがつかないだろう!髪を巻けと言ったのに、またそうやって適当にひっつめているのか!」

 「ドレスコードには違反しておりません。」

 「そういう問題ではないと言っているだろう!マリア様ほども美しくなれとは言わないが、私の妻になるのら、反抗しないで、もっと身なりを整えろ!そんなことすらもできないで、のこのこ会いにきやがって。おまけに俺を立てずに蔑ろにするなど!」
 
 「蔑ろになど、しておりません。」

 「しただろう!それも陛下の前で!だいたい、妻ならば、夫の仕事を支えるのが当然だろう!せっかく王家との血の繋がりがあるならば、それを利用して、俺を押し上げる手伝いをするのが当然じゃないか?あの場で大人しく俺に届け物を渡していれば、妻からですと、陛下に渡してやったのに!それすれば俺の株も上がるんだぞ!?頼むから、もう少しでいいから頭を使ってくれ!その頭は飾りなのか?ああ、だから、何の飾りもついていないのか。その頭自体が飾りだったんだな!」

 「」
 
 「いいか。婚約者だと思うからこそ、情で目を瞑っていたが、もう、お遊びは許さない。これ以上は、俺にも庇えないからな。」

 「何から庇ってくだったのです?」

 「お前が、王宮で勤めているという嘘のことに決まっているだろう!早急に正式に撤回して、手をついて謝れ。そうしたら今ならまだ許してやる。ああ、父上にもキチンと謝るんだぞ!」

 「それから、俺が恥ずかしいから、その格好でうろうろするな!身なりを整えられたら見せにこい。チェックしてやるから。もちろん、王宮にではなく、家にだ!合格できるまで、結婚はしてやらないからな!」


いつも通り、怒るだけ怒って帰っていくオスカーを見送り、ようやく終わったと、リリアはお父様のいる部屋へ向かった。

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