侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月

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34 初めてのデート

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 「おはようございます。ああ、そういう装いも良くお似合いです。」
 「おはようございます。サイラー様も素敵です。」
 
 約束通りの時間に迎えにきてくれたサイラーは、街歩きのための軽いワンピース姿を褒めてくれる。今日は仕事ではないので、髪をおろそうかとも思ったが、何か気恥ずかしさが優って、せめて、軽くふわっと纏めてもらった。

 エスコートされて馬車に誘導され、街への道を進む間も会話を繋げてくれる。

 「今日の髪型は、どこか華やかですね。」
 「はい。少しだけ柔らかく纏めて欲しいと頼んだのです。変ですか?」
 「とんでもない。新しい貴女を見られて嬉しいです。」
 
 リリアは、ふと、気になって、聞いてみることにした。
 「以前、例え話の時に、髪は纏めていない方がお好きだと言ったのは、本心ですか?」
 「ああ、いいえ。あれは本当に例えなのです。どれが好きだという好みはありません。もちろん、色んなリリアを見たいと思っていますから、質素な貴女も、飾った貴女も、色んな髪型の貴女も見せてください。」

 この人は、こういうことを平気で口にする。何と返せば良いのかわからずに、照れて赤くなってしまった顔を見られたくなくて窓から外を見る振りをしたら、
 「おや?機嫌を損ねてしまいましたか?」
 と、追撃してくる。
 
 そのおかげで、会話が続くのだから、大人の余裕というものかもしれないが、
 「いいえ。他の女性にもそんなことを仰っているのかと思って。」
 思わずチクッと嫌味を言ってしまう自分がいる。

 「それは、不安にさせてしまっているということでしょうか?」
 「あっ!いいえ!すみません。忘れてください。」
 「忘れません。そのことは、後で話しましょう。今は、これから行くお店で美味しくケーキを食べていただきたいですからね。」
 
 「はい。楽しみです。」

 自分が、こんな少女のような反応をしてしまうことが、嬉しいような恥ずかしいような。無縁だと思っていた胸の高鳴りを感じることが新鮮で、楽しくて、ほんの少しだけ感じる不安すら、幸せを感じることに、リリアは浮かれてしまう。

 ( これじゃあ、まるで恋しているみたい。 )
 
 サイラー様も窓を少し覗き込んでから
 「良い天気に恵まれて良かった。でも、初めてのデートが雨だったら、一生印象に残って覚えていて貰えるかもしれないから、悩ましいところです。」
 と言う。

 「初めてのデート……。」
 「私とリリアの、初めてのデートです。」

 ——そうだ。デートだこれ。それも生まれて初めての。

 「私、男性と出掛けるのが、初めてです。」
 「それはリリアの初めての相手が私ということですね。とても光栄です。」

 「恥ずかしいからもうやめてください。」
 思わず顔を両手で覆ったリリアに、

 はは、と笑ってから、
 「こうやって、ひとつずつ、私とリリアの思い出を作っていきましょう。」
 と、サイラー様は言った。


 
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