ぴかぴか学園のこころのルールブック

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第二章:観察

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たろうくんは、最初の三日間、一言も話さなかった。  
ノートに絵を描くことだけを許された。  
でも、描く絵は、すべて「自分」ではなかった。  
彼は、まず隣のさくらちゃんの鉛筆の持ち方を、十回、二十回と観察した。  
彼女の目線が黒板からノートへ移るタイミング、  
ノートをめくるときの指の動きの角度、  
消しゴムをかけるときの、わずかな息の吐き方——  
すべてを、記録するように、自分の体に刻んだ。  

彼が学んだ最初のルールは、これだった。  

> 「観察とは、自分を消す技術である。  
> 自分の感情、自分のリズム、自分の声——それらを、一時的に『オフ』にする練習だ。  
> なぜなら、集団のテンポを読むには、まず自分のノイズを消さなければならないから。」

彼は、お弁当の時間、黙って食べ続けた。  
でも、その目は、周囲の動きを捉えていた。  
誰が何を食べ、どのタイミングで箸を置き、どのタイミングで水を飲み、どのタイミングで視線を上げるか——  
すべてを、脳の隅に記録していた。  

彼は、ある日、クラスの「呼吸の周期」を発見した。  
朝の会の始まりから、授業が終わるまで、クラスには、約11分ごとに、集団の緊張がほんの少しだけ緩む瞬間がある。  
そのとき、誰かがそっと笑い、誰かが肩をほぐし、誰かが窓の外を一瞬だけ見る。  
その「緩み」のタイミングで、さくらちゃんが、自分のおにぎりの海苔を、そっと剥がしていた。  
たろうくんは、その翌日、自分のおにぎりの海苔を、同じタイミングで、同じ指の動きで剥がした。  

誰も気づかなかった。  
でも、その日の昼休み、さくらちゃんが、彼の隣の席に座った。  
ただ座っただけ。  
何も話さなかった。  
でも、その存在が、たろうくんの隣に「ある」という事実だけが、空気を、ほんの少し、温かくした。  

これが、たろうくんの「最初の適応」だった。  
「同調」は、相手を変えることではなく、自分を調整すること。
「和」は、誰かが譲ることで成り立つのではなく、全員が、自分の周波数を、ほんの少しだけ合わせることで生まれる。
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