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過去にも色々ありました

第84話 [シェルシェーレ過去編]シュバルツの悪魔⑧

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あれから1週間が経った。

つい昨日奴隷商の元締めだったフックス侯爵家の裁判が行われて、お父様の言ったように爵位の剥奪と国外追放が言い渡された。

皇帝は今回の件についてかなり怒り心頭だったらしく、一時は処刑するという話も出ていたけど、なんだかんだでそれはなしになったらしい。

それで、リナの両親と言えば、今は帝国城内の牢屋に入れられている。

あれからさらに調べてみると、リナは当主である子爵とその妾との子どもであり、そんな彼女をかねてから目障りに思っていた母親が奴隷商に売り払ったということがわかった。

愛人を作る旦那も旦那だけど、仮にも自分の家の子どもをそんな私情で売りに出すとは、正気の沙汰とは思えない。それに、父親の方もリナが消えたのにも関わらず特に捜索はしなかったらしい。

ちなみに、当の2人はそのことを認めてはいない。この期に及んで言い逃れしようとしてるのか…

そして今、私はそのリナの両親の元へと向かっている。

「シェルシェーレお嬢様」

すると、ハンネスさんに声をかけられた。

「着きました。」

私が考え事をしているうちに、リナの両親の元へと着いたらしい。

「わかった、ありがとう。ハンネスさんは入口辺りで待ってて。」
「承知しました。」

ハンネスさんは来た道を戻っていく。

私は牢屋の前に立つ。

「き、貴様、何者だ!」

牢屋にいる男女のうち、男の方が声を上げる。これがリナの父親だ。

「シュバルツ侯爵家長女、シェルシェーレ・シュバルツです。」
「シュバルツ!?まさか、あの忌々しい宰相の娘か!一体何の用だ!」
「…報告と、交渉のために来ました。」
「報告?交渉!?…そんなことより、早くここから出しなさいよ!!」

今度はリナの母親である子爵夫人がわめく。

「そうだ!私だけでも出せ!私はリナのことはなにも知らなかったのだぞ!」
「なっ!私のことを見捨てる気!?」

夫妻は私の目の前で喧嘩を始める。

ちなみに、父親の方は確かにリナの件については無実だけど、前々から横領やら奴隷商の黙認やらはしていたので、どのみち帰す訳にはいかない。

「…まず報告ですが、リナは私たちシュバルツ侯爵家の養子にすることになりました。」
「な、何を勝手に!」
「囚人の子どもは親の許可がなくとも本人の許可さえあれば養子に迎えることが可能です。それに、一方は自ら手放し、もう一方は探すこともしなかったのですから別に構いませんよね?」
「ふざけるな!勝手にそんな」
「次に、交渉です。あなた方はこのままだと爵位を剥奪され、犯罪者夫婦として普通の平民よりも惨めな生活を送ることになるわけですが、私が提示する条件を飲んでくれれば、爵位こそ戻らないまでも今回の件を世間に知られることなく、それなりの生活を保証して差し上げます。」
「そ、そんな言葉を信じるわけがないだろう!」
「別に、信じないならそれで構いません。この話はこれで終わりです。」

私は入口の方へ足を向ける。

「ま、待て!」
「まだ何か?」
「条件とはなんだ!私は交渉を受け入れないとは言っていないぞ!」
「はあ…わかりました。条件というのは、あなた方が爵位を失ったのは犯罪を犯したからではなく、私に商売で出し抜かれ多額の借金を背負ったからということにして欲しいのです。そして、私が借金をどうにかする代わりにリナを養子に寄越せと言われたと。」

私がこの前お父様に提案したのはこのことだ。こうすることでリナの肩書きを"親に売られた犯罪者の娘"から"シュバルツ家に無理やりさらわれた可哀想な令嬢"に変えられる。もちろん風当たりが強いことに変わりはないだろうけど、やらないよりは大分マシなはずだ。それに、こうしておけば私の噂が多く飛び交い、リナに関する噂はある程度減らせるだろう。

「この私がお前のようなガキに負けたと言わせるのか!?どこまで私のプライドを傷つけるつもりだ!」
「………」
「何か言ったらどうだ!」

………

私は無言で牢屋の方にさらに近づき、子爵と目線があうように腰をかがめる。

「…勘違いしないでください。別に、あなたの使えもしないプライドも、あなたがたの命ですら、私からしたらどうだっていいんですよ。」

私の口から発せられた声は、思ったよりも大分低い声だった。目つきも今までで1番と言えるくらい冷たい目をしていると思う。

私はそのまま話を続ける。

「ただ、これ以上我々やリナの足を引っ張らないでください。でないと…強引にでも切り落としますよ。」
「ヒィッ…」

子爵が情けなく声を上げる。

「…わ、分かった、あなたの条件飲むわ!」

すると、今まで黙っていた夫人が声をあげた。

「な、何を言って…」ボソッ
「だって、逆らったらきっと殺されるわよ!」ボソッ
「そ、それは…」ボソッ

何やらボソボソと言い合っている。

「では、子爵殿も条件を飲んでいただけるということでよろしいでしょうか?」

私はニコッと笑ってみせる。

「あ、ああ…」
「ありがとうございます。では、あとはこちらでどうにかしますので、失礼します。」

私はそのまま牢屋の前を後にした。

「あれは、悪魔だ。シュバルツの悪魔だ…」

シェルシェーレが去った後、子爵はそう呟いた。
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