『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

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第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王

2.悩みの種は尽きない(2)

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「ダスカスと来たら、まあ姫様、驚くじゃありませんか、あの遺跡の中に温泉が見つかったそうでございますよ!」
「温泉?」
 シャルンは頭の中から必死に知識を探した。
 確か温かくて体にいい湯が自然に溢れていると言う不思議な場所だ。
「見たことがないわ……ダスカスにあったとも聞かなかったけれど」
「何の気まぐれか、見つけたんでございますよ。それを見せびらかしに呼ぶんですよ!」
「見せびらかし…」
 温泉に……例えば、入っても、いいのだろうか。
 気持ちいいかもしれない…?
「どんな…ものなの…かしら」
「それにアリシア!」
「え?」
 さっきまで上がって来なかった名前にシャルンは瞬いた。
「アリシア王国?」
「はい、それがまた、呆れ果てて物も言えません。武闘会に来いとのことだそうです!」
「舞踏会? では別のドレスも必要なのね?」
「そうじゃありません、姫様。剣術の大会です。何でもアリシア王国女王ミラルシア様の妹君は剣の腕が優れているとのことで、レダン王に武闘会を誘い、姫様に見物願おうと言って来てるそうです」
「まあ」
 レダンが剣で戦うところが見られるの?
 シャルンはどきどきと走り出した胸を指で軽く押さえ、はっとした。
「待って、それはもしかすると、陛下がお怪我をされたりすると言うこと?」
「もしかしなくても、そうですよ。カースウェルは戦場になったことがありませんからね、さて陛下はどれほど剣がお得意でいらっしゃるか……おっと、申し訳ございません!」
 口が滑ったと言う顔のルッカに、大丈夫、と微笑み返して、シャルンは気づく。
「6つも、と言うことは、まだ1つあるのね。どちらに行かなくてはならないのかしら」
「それが…姫様」
 ルッカが急に言いづらそうに口を噤む。
「聞いた時には、耳を疑いました」
「どこなの?」
「ダフラムです」
「ダフラム……」
 シャルンの顔から音を立てて血の気が引いて行く。
「あのダフラムよね?」
「ええ、ええ、世界の侵略者、ダフラムですよ」
「…陛下はご訪問を決めておられるのね?」
「渋ってはおられたようですが」
「……行かざるを得ない、事情がある、と言うことね…」
「博覧会、だそうでございます」
「博覧会………どんな会なのかしら」
「たくさんの珍しいお品が並べられるそうでございます」
「珍しい品物の…展覧会、のようなものね…」
 シャルンは唇を噛む。
 舞踏会に軍事パレード、夜の古い祭りに遺跡の温泉、武闘会に博覧会。
 全てにレダンは出向き、シャルンは付き従うのだろう。
 そしておそらく、それぞれの催しにはそれぞれ違う立ち居振る舞いが求められ、知識と教養が試され、品格が品定めされる、カースウェルの王妃として。
 小さく震えている指先に気づいて、ルッカがそっと手を握りしめてくれた。
「姫様」
「大丈夫、私は大丈夫、でも」
 たとえシャルンは評価されなくてもいい、レダンが恥ずかしい思いをするようなことはしたくない。
「一つ一つ、始めましょう」
 シャルンは立ち上がった。
「まずは舞踏会……ルッカ」
「はい」
「ガストに相談して、私が礼儀作法に詳しい先生とダンスの先生を欲しがっていると伝えてくれる?」
「承知しました、姫様」
 急ぎ足に出て行くルッカを見送って、シャルンは寝室に戻り、備え付けられた鏡の前に立った。
 ふわふわとした金髪は今薄紅のリボンを編み込まれて結い上げられ、花を象った美しい髪飾りが差し込まれている。ドレスは淡い水色で瞳に合わせた色合いだ。引きずるほどに長い裳裾には数指ごとに小さなレースの花が縫い付けられている。
 不安そうにこちらを見返す顔に、シャルンは両手をそっと上げ、顔を包んで言い聞かせた。
「頑張って、シャルン。もらってくださった恩義に報いる時よ」
 
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