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幕間 1『キス・キス・キス』
キス・キス・キス(4)
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「十字架」
「はい?」
陸斗を招いたその夜、思いもかけず抱いて良いと許可されて、貢は自分の部屋のベッドで陸斗を抱いた。
あ、ああ、あ…っ。
何度も女を連れ込んで啼かせたベッドは処分したし、シーツからバスタオル、何から何もまで買い換えて、貫いた貢の下で陸斗は甘い声を上げてよがった。口に出さなくとも、気持ちいいと肌が伝える。吸い付くように指を受け止め、奥深い窪みに誘い込み、眉を寄せて涙を溜められ、何も考えさせたくなくて知っている限りの手管を使った。
一眠りした真夜中、そっと指で突かれ目を開けると、陸斗の指先に銀色の十字架が掛かっていた。
「稽古場に落ちてたぞ」
「……」
「君のだろう?」
優しく確認されて頷き受け取る。
陸斗がモードに入っていると、貢の呼び名は『お前』になる。『君』と呼ぶ間はカークに入っていない。物足りなく感じはするが、プライベートで付き合っていると示されているようで嬉しくもある。
「キリスト教徒ではなさそうだな」
「違います」
苦笑いした。
「形はどうでも良いのかも。素材ですかね」
「素材?」
「銀製。ほら僕って罪深いヒトなんで」
にっと笑ってみせると、思わぬ真摯な瞳で見つめ返された。
「私と付き合うから?」
「あ、違う違う、そんなんじゃなくて」
余計な心配をさせたかと慌てて否定したが、悲しげな色は消えない。
「僕はね、出生不明なんです」
話すつもりがない話をする羽目になった。
「僕の母親は居るはずですが、今は何処にいるのか何をしているのかわかりません。気が付いた時には既に家に居なくて、ああ、でも僕1人がそうじゃなくて、伊谷の人間はほとんどそうです」
「ほとんど?」
訝しげに瞬く陸斗は黒くて丸い目を開いている。今まで見たことのない表情だ。好奇心を剥き出しにして、しかも心底伊谷のことを知りたがっているとわかる素直な瞳。
「父親もそうだったらしいです。気がつけば、父親と名乗る男と暮らしていて、母親は不在。世話をする女はいましたが勿論母じゃない。どうしてなんだろうと子ども心に思っていて、大人になって事業に成功すると、ああこういうことかとわかったと」
「こういうこと…」
「仕事が面白すぎたんですね。やること為すこと成功してお金が入って楽しくて。事業は大きくなればなるほど手の掛かる子どもみたいなもんだとよく話しています。僕もそうだと思います。自分の欲望は適当に処理して、事業の世話に明け暮れて。『適当に』処理しちゃうから子どもができる。できた子どもを押し付けられても、世話をしたいと望む人間は居るから金を払って雇い入れて。その中から1人2人出来の良いのを見繕って、直接世話をするから将来伊谷のために働けと命じる、それだけのことです」
父親の子どもと認められたのは4~5人いるだろう。認められていないが、父親の血だと訴えているものなら10人は軽く越えるのではないか。
だが、出来はあまり良くはなかった。貢が唯一まともに稼げる人間だった。後は伊谷の財産や地位をいずれはもらえると当てにして、努力も勉強も経験を積むこともしない。必然、湯水のように金を使おうと、父親は貢に投資するしかない。
「それのどこが罪深い? 親子の関係が少し違っているというだけだろう?」
「そうではなくて」
貢は少し目を細めた。枕に頭を委ねている陸斗の髪をそっと撫でる。不思議な仕草だ、されたことがないのに、大事だと思うとしてみたくなる。
「他の子ども達に、僕は繰り返し話してきたんですよ」
君は僕と違って優秀で立派だ。父が期待しているのは君だけだ。他の奴らより抜きん出ているから、君は彼らを見下して良いんだって常々僕に話しているよ。そうできるのが後継者の器だって。
「出来てもいないことを褒め続けると、子どもはあっさり傲慢になります。努力をやめて、今の自分でいいんだって、無能で空っぽなまま自信だけが増える。そういう人間が社会に出たらどうなるか、わかりますよね?」
出来ていないことを出来ていないと教えてくれる優しい人は敵になり、金や名前を見る中身のないものだけが友となる。孤独で侘しい関係に、本人だけが気づかない。
「出来が良くなかったんじゃない、僕が蹴落としたんですよ。自分が生き残るために」
「伊谷…」
陸斗の静かな声に胸が痛んだ。同時に、軽蔑されたと甘い切なさに体が疼いた。
「そういう意味では、ライヤーは良くわかるかも」
のし上がるためにあらゆる手段を使い、辿り着いた先で足りないと知って全てを失う覚悟で堕ちる。
「貢」
ふいと陸斗が唇を寄せてきて、少し驚いた。
「あれ、何? 同情してくれた? もう1回していいの?」
「……同情なんて求めてないだろう」
「…っ」
首筋を冷えた唇で辿られる。そのまま胸に降ろされて、先端を咥えこまれて舌で探られる。
「…は、ヤバイ、ですね、この感覚。って言うか、ああ…気持ち、いいな……っく」
かりっと噛まれて仰け反ってしまった。下半身が起き上がる。ずり下がっていった陸斗が柔らかい舌で引き入れて含んでくれてほっとする。どんな顔でしているのか見たいと視線を下ろすと、見上げている目とぶつかった。
「ああ…陸斗………って、あ、待って、何っ」
硬さを増していくものを愛してくれていた指先が滑り込んで握り込む、のではなく、もっと後ろまで回ってぎょっとする。
「ちょ、陸斗、そこは僕」
「未経験だろ?」
つるりと口元から零した陸斗が目を細めて笑う。
「悪くないって教えてやるよ」
「え、いや別に今ので僕は十分満足してるし新しい感覚も新しい世界も開きたくないし…っはっ」
あむ、と大きく咥え込まれて吸い上げられ、ぞくぞくしながら陸斗の頭を押さえつけた。
「ダメ、もうそんなことしたらイクから……っへあっ」
慌てて口を押さえる。一瞬おかしな奇妙な蕩けるような声が出そうになった。中心を強く弱く舌と唇で扱かれながら、切羽詰まっていく感覚と並行して、背後に指が触れる。入ってこない、撫で回すようにくすぐるように指先で触られて、醒めるどころかどんどん追い上げられてきて焦った。
「何…っ……あ…っ……あ……あ」
「ちょっとだけね」
「はうっ」
びくりと仰け反った瞬間、確かに駆け上がりかけてうろたえた。締め上げた後ろが陸斗の指を咥えている。ぬるりと動かされて視界が眩んだ。
「いや…ダメ……やめて……そんなの……ちが……ああっんんんんっんーっ!」
陸斗が強く吸い上げる、同時に指が深くに入る。痛みに涙を振りまきながら、それでも貢は確実に快感に擂り潰されて駆け上がり………ぐったりした。
「…気持ち、良かった?」
始末をしてずり上がってきてくれた陸斗が覗き込んでくるのに、恥ずかしくて目が開けられない。片腕で顔を隠しているのを、そっと押し退けられたから、涙目で見返すと、可愛い、とキスされた。
「貢」
「何ですか」
「これから増やしていけばいいから」
「え?」
「おかしな親子関係に拘らなくても、君は私を抱いてくれるぐらい、人を愛せるんだから」
陸斗が微笑み、額にそっとキスをくれる。
「必ず抱いてくれなくていい。こうやって時々私が抱いてあげるから」
心配しなくていいよ。
「人を愛するやり方を覚えていこう」
「…陸……」
途切れた声の後を貢は覚えていない。
ただその夜は、一晩中泣きじゃくって陸斗にしがみついていた。
「はい?」
陸斗を招いたその夜、思いもかけず抱いて良いと許可されて、貢は自分の部屋のベッドで陸斗を抱いた。
あ、ああ、あ…っ。
何度も女を連れ込んで啼かせたベッドは処分したし、シーツからバスタオル、何から何もまで買い換えて、貫いた貢の下で陸斗は甘い声を上げてよがった。口に出さなくとも、気持ちいいと肌が伝える。吸い付くように指を受け止め、奥深い窪みに誘い込み、眉を寄せて涙を溜められ、何も考えさせたくなくて知っている限りの手管を使った。
一眠りした真夜中、そっと指で突かれ目を開けると、陸斗の指先に銀色の十字架が掛かっていた。
「稽古場に落ちてたぞ」
「……」
「君のだろう?」
優しく確認されて頷き受け取る。
陸斗がモードに入っていると、貢の呼び名は『お前』になる。『君』と呼ぶ間はカークに入っていない。物足りなく感じはするが、プライベートで付き合っていると示されているようで嬉しくもある。
「キリスト教徒ではなさそうだな」
「違います」
苦笑いした。
「形はどうでも良いのかも。素材ですかね」
「素材?」
「銀製。ほら僕って罪深いヒトなんで」
にっと笑ってみせると、思わぬ真摯な瞳で見つめ返された。
「私と付き合うから?」
「あ、違う違う、そんなんじゃなくて」
余計な心配をさせたかと慌てて否定したが、悲しげな色は消えない。
「僕はね、出生不明なんです」
話すつもりがない話をする羽目になった。
「僕の母親は居るはずですが、今は何処にいるのか何をしているのかわかりません。気が付いた時には既に家に居なくて、ああ、でも僕1人がそうじゃなくて、伊谷の人間はほとんどそうです」
「ほとんど?」
訝しげに瞬く陸斗は黒くて丸い目を開いている。今まで見たことのない表情だ。好奇心を剥き出しにして、しかも心底伊谷のことを知りたがっているとわかる素直な瞳。
「父親もそうだったらしいです。気がつけば、父親と名乗る男と暮らしていて、母親は不在。世話をする女はいましたが勿論母じゃない。どうしてなんだろうと子ども心に思っていて、大人になって事業に成功すると、ああこういうことかとわかったと」
「こういうこと…」
「仕事が面白すぎたんですね。やること為すこと成功してお金が入って楽しくて。事業は大きくなればなるほど手の掛かる子どもみたいなもんだとよく話しています。僕もそうだと思います。自分の欲望は適当に処理して、事業の世話に明け暮れて。『適当に』処理しちゃうから子どもができる。できた子どもを押し付けられても、世話をしたいと望む人間は居るから金を払って雇い入れて。その中から1人2人出来の良いのを見繕って、直接世話をするから将来伊谷のために働けと命じる、それだけのことです」
父親の子どもと認められたのは4~5人いるだろう。認められていないが、父親の血だと訴えているものなら10人は軽く越えるのではないか。
だが、出来はあまり良くはなかった。貢が唯一まともに稼げる人間だった。後は伊谷の財産や地位をいずれはもらえると当てにして、努力も勉強も経験を積むこともしない。必然、湯水のように金を使おうと、父親は貢に投資するしかない。
「それのどこが罪深い? 親子の関係が少し違っているというだけだろう?」
「そうではなくて」
貢は少し目を細めた。枕に頭を委ねている陸斗の髪をそっと撫でる。不思議な仕草だ、されたことがないのに、大事だと思うとしてみたくなる。
「他の子ども達に、僕は繰り返し話してきたんですよ」
君は僕と違って優秀で立派だ。父が期待しているのは君だけだ。他の奴らより抜きん出ているから、君は彼らを見下して良いんだって常々僕に話しているよ。そうできるのが後継者の器だって。
「出来てもいないことを褒め続けると、子どもはあっさり傲慢になります。努力をやめて、今の自分でいいんだって、無能で空っぽなまま自信だけが増える。そういう人間が社会に出たらどうなるか、わかりますよね?」
出来ていないことを出来ていないと教えてくれる優しい人は敵になり、金や名前を見る中身のないものだけが友となる。孤独で侘しい関係に、本人だけが気づかない。
「出来が良くなかったんじゃない、僕が蹴落としたんですよ。自分が生き残るために」
「伊谷…」
陸斗の静かな声に胸が痛んだ。同時に、軽蔑されたと甘い切なさに体が疼いた。
「そういう意味では、ライヤーは良くわかるかも」
のし上がるためにあらゆる手段を使い、辿り着いた先で足りないと知って全てを失う覚悟で堕ちる。
「貢」
ふいと陸斗が唇を寄せてきて、少し驚いた。
「あれ、何? 同情してくれた? もう1回していいの?」
「……同情なんて求めてないだろう」
「…っ」
首筋を冷えた唇で辿られる。そのまま胸に降ろされて、先端を咥えこまれて舌で探られる。
「…は、ヤバイ、ですね、この感覚。って言うか、ああ…気持ち、いいな……っく」
かりっと噛まれて仰け反ってしまった。下半身が起き上がる。ずり下がっていった陸斗が柔らかい舌で引き入れて含んでくれてほっとする。どんな顔でしているのか見たいと視線を下ろすと、見上げている目とぶつかった。
「ああ…陸斗………って、あ、待って、何っ」
硬さを増していくものを愛してくれていた指先が滑り込んで握り込む、のではなく、もっと後ろまで回ってぎょっとする。
「ちょ、陸斗、そこは僕」
「未経験だろ?」
つるりと口元から零した陸斗が目を細めて笑う。
「悪くないって教えてやるよ」
「え、いや別に今ので僕は十分満足してるし新しい感覚も新しい世界も開きたくないし…っはっ」
あむ、と大きく咥え込まれて吸い上げられ、ぞくぞくしながら陸斗の頭を押さえつけた。
「ダメ、もうそんなことしたらイクから……っへあっ」
慌てて口を押さえる。一瞬おかしな奇妙な蕩けるような声が出そうになった。中心を強く弱く舌と唇で扱かれながら、切羽詰まっていく感覚と並行して、背後に指が触れる。入ってこない、撫で回すようにくすぐるように指先で触られて、醒めるどころかどんどん追い上げられてきて焦った。
「何…っ……あ…っ……あ……あ」
「ちょっとだけね」
「はうっ」
びくりと仰け反った瞬間、確かに駆け上がりかけてうろたえた。締め上げた後ろが陸斗の指を咥えている。ぬるりと動かされて視界が眩んだ。
「いや…ダメ……やめて……そんなの……ちが……ああっんんんんっんーっ!」
陸斗が強く吸い上げる、同時に指が深くに入る。痛みに涙を振りまきながら、それでも貢は確実に快感に擂り潰されて駆け上がり………ぐったりした。
「…気持ち、良かった?」
始末をしてずり上がってきてくれた陸斗が覗き込んでくるのに、恥ずかしくて目が開けられない。片腕で顔を隠しているのを、そっと押し退けられたから、涙目で見返すと、可愛い、とキスされた。
「貢」
「何ですか」
「これから増やしていけばいいから」
「え?」
「おかしな親子関係に拘らなくても、君は私を抱いてくれるぐらい、人を愛せるんだから」
陸斗が微笑み、額にそっとキスをくれる。
「必ず抱いてくれなくていい。こうやって時々私が抱いてあげるから」
心配しなくていいよ。
「人を愛するやり方を覚えていこう」
「…陸……」
途切れた声の後を貢は覚えていない。
ただその夜は、一晩中泣きじゃくって陸斗にしがみついていた。
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