『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第3章 『異世界』

2.ゴーカート 「風になるってこういうこと?」(5)

 陸斗の様子がおかしい。
 貢はキーボードを叩いていた指を止めて、寝室の方を見遣った。
 第二部を撮るに当たって、収録する場面の選択もそうだが、役者連中にできるだけ今までしたことのない経験を積ませるように手配りしている。それぞれから聞き取りをして、どんな場所に行ったことがあるか、どんな物を食べたことがあるか、どんな人間と付き合い話したことがあるかを情報を集め、それらにできるだけ重ならない場所や人、物に関わるようなところへ連れ出している。同時に、その際に礼新にはできるだけ動画を撮らせている。演技していない表情、日常生活での口調、イレギュラーなことが起こった時のとっさの動き。
 そうして見ると、舞台や稽古の中では見えない顔が見えてくる。
 例えば、禄は思った以上に反射神経が鋭く、情報収集力があり、判断も決断も早い。新しい状況に慣れやすく、静かで穏やかな表情とは裏腹に、殺気が溢れることが度々あり、それは意識していない攻撃性の表れだろう。自分にはまだ十分な能力と知識がない、だから反撃しないだけ、けれども一度牙を剥いてからは恐らく誰よりも容赦がない。後半部分のオウライカを演じるには、無意識に自分にかけている制御の鎖を外してやればいいし、きっかけになるのは舜だから、どういう形でも問題なく発現できる。
 舜はその圧倒的なスター性と注目度からは想像しにくいが、実のところ暗闇でじっと蹲って座っているのが好きなのかも知れない。どんな役柄にも染まれると言うより、蹂躙され踏み込まれ貫かれてズタズタにされた瞬間、相手の全てを飲み込んでしまう底知れなさを発揮する。だから舜を準主役級にするのは間違いだ、それこそ舜のカリスマ性が全開になってしまう最低条件だから。徐々に広がってくる影響力を押し留めようとすればするほど、それは舜の中にある被虐性を刺激する。力を加え圧することで最後の噴火を迎えてしまうマグマのようなものだ。後半のカザルは前半の派手な動きと打って変わって、物語の奥へ奥へと吸い込まれていく。天空の竜の上で人々の希望を砕き、月の座でオウライカに貫かれるのを待ち続ける薄暗い存在感、それが最後の瞬間には世界を生み直す金色の卵を抱える母性となるのに相応しく。
 けれど、陸斗は。
 貢は再びパソコンにゴーカートの画像を呼び戻す。
 実はゴーカートに乗せた時、陸斗も別の顔を見せてくれるのではないかと大いに期待した。工場でこの世ならぬ気配を見せた陸斗が、また違う経験を積むことで一皮剥けて、新たなカークに辿り着き、そこで後半部分の転生とも言える凄まじい変化を見せるカークを演じる力を得るのではないかと。
 事実、ゴーカートに乗った陸斗は途中で妙なコースアウトを起こし、もちろんとんでもなくヒヤヒヤしたものの、ついに次の段階への一歩かと胸を躍らせて走り寄ったのも確かで、貢の心配をよそに妙にぽかんとした顔で、風になるとはこう言うことかと聞いて来た相手が、腹立たしいやら嬉しいやら、複雑な思いで罵ったのは確かだけれど。
『い、やぁあああ……っ』
 重ねて開いたもう一つの画像で、奥からゆっくり歩いて来た陸斗が薄く透ける布を纏いつかせた姿で画面の中央に膝を折る。布の下は全裸で、下半身は見えそうで見えない画面の外だ。甘く悲鳴を上げながら、それでも恍惚とした表情で喘ぐ唇から紅の筋が顎に伝う。
『ラ…イヤ…ぁあ……っ』
 カークがライヤーを伴い『塔京』の果ての廃墟を示し、いずれ自分が喰われる白竜について語った夜、ライヤーが見る夢の場面だ。画面の外から咀嚼音が鳴り響き、あっ、と短い悲鳴が上がって画面が暗転し、荒い呼吸音とともに貢の掠れた声が続く。
『僕が……竜……?』
「………風に、なっていないよな」
 貢は呟く。
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