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第5章
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最終電車に飛び乗って、真崎のマンションへ向かいながら、携帯の充電が切れているのに気づいた。自分の余裕のなさに呆れたが、辿り着いたマンションで出迎えてくれた真崎は、もっと余裕がなかった。
『とにかく入って』
引きずり込まれて抱きしめられて、玄関から連れ去るようにベッドに連れて行かれて。
喘ぎながら奪うようなキス、汗の匂いに途中で気づいたのか、慌てた顔で浴室へ飛び込み、すぐに飛び出してきた後は、縺れ合うように抱きしめ合って。
『美並…っ、美並…っ』
名前を呼びながら押し込んできて、
『一人でいっちゃダメだから…っ』
この前のお返し、快感を堪えろと言っているのかと思ったが、すぐに溢れ出した美並の腰を嬉しそうに掴み、
『もっと気持ち良いところ、探してみる?』
『そんな顔してもダメ、まだ大丈夫だよね?』
甘い笑みを広げて、何度も何度も駆け上がらせた。
『美並、美並、可愛い、もっと啼いて』
際どい台詞も真崎が吐くと違和感がないのは怖い。
声と同時に胸を掴まれ、抱え込まれながら押し広げられ、深くまで体を穿たれる。
あ、あっ。
濡れて敏感になっている粒を探られた瞬間に腰を引いてしまい、耳元で吐息で笑われた。
『ここ?』
い、っ。
『ここに僕のが入ってて……美並のここがこんなに固くて…』
囁く声と一緒に指先でなぞられ顔が熱くなる。摘まれた部分を指先で柔らかく嬲られて逃げ場のない快感に仰け反る。背後から貫かれながら声を上げると、
『待って、一緒に行こ…』
囁かれて一旦抜かれたものが、もう一度、質量を確認させるように入り込んできて、委ねて駆け上がった。
結局、その後の寝物語で、真崎が檜垣からの連絡を受け取り、美並の暴走を心配していたのだとはわかったけれど。
『僕を殺したいの? もう赤来に関わらないで』
ベッドでは滅多に見せない鋭い視線で言い渡されたが、孝の件を依頼してきたのは真崎だ。
『…他の事件は始末が付きますが、孝さんの一件は詰められないかもしれません』
言い返した美並に、真崎は思わぬ一言で応じた。
『孝の事件は、終わったんだよ』
何が終わったのか、解明は始まってもいないのに。
不審がる伊吹に頷いて、
『僕はずっと怖かったんだ……自分が孝そっくりで、いつか大輔に繋がれたまま、孝みたいにどこかのホテルで殺されるんじゃないかって』
でも。
『今、君が、ここに居る……それだけで、僕は生きていて良かったんだとわかる』
静かな声は、今までにない落ち着きがあった。
『孝には君がいなくて、恵子さんしかいなかった』
少し唇を噛む。
吹っ切るように続けた。
『僕は孝にはならない』
分かったから、もういいんだ。
見上げた顔は静謐だった。今までの熱をどこかに捨て去ったように、けれど内側に確かな力を漲らせて。
美並にも通じた。
理由はわからないけれど、真崎の中で孝の事件が一つの形に収まった。どのように扱っても置き所のなかった傷みが、真崎の心の中に居場所を得て、形を整え収められた。
それはわかったけど。
目の前に膨らんだ粒に思わず噛み付いてしまった。あっ、と切ない声が上がり、落ち着きかけていたものが力を取り戻していくのに誘われて、含む。
なんだか置き去られた気がする。
『んっ、んんっ』
唇の中で膨らみが固くなり、呼吸を乱した真崎が腰を抱えてくる。
ふっと有沢のことを思い出した。有沢の人生を支配した『羽鳥』の事件。それは今や終わりを告げようとしている。有沢は美並を望んでいるが、『羽鳥』の事件が終わってしまえば、美並は有沢との接点を失うだろう。有沢は美並と寄り添って歩くためには、あまりにも美並の傷みを知らなさすぎる。だから共に歩く未来はない、それを有沢は理解しない。
同じ過去を共有し、傷みもまた重なっているけれど、真崎は孝にはなり得ないと確信できたのなら、その後の繋がりはどこにあるのだろう。
『京介は…孝さんの人生をどうにもできないって言ってるんですね?』
美並が有沢の人生をどうにもできないとわかっているように。
そうか、と気づく。
有沢が美並を望むのは、美並の存在で理不尽で納得できない人生を変えられると感じたからだ。
けれど本当はそうじゃない。
誰にも他の人間に人生を変えてもらうことなどできはしない。
『……うん』
見上げた真崎の目がみるみる涙を溢れさせる。
同じ境遇だけじゃなく……バスケが好きだとか……学校帰りに……買い食いするとか。
もっと…べつ…の……ことを……もっと……別の……話をもっと。
友達……親友として。
何も……できなかった……何も……してやれ……なくて……っ。
僕は…無力だった……っ。
誰にも変えられない他人の人生の終末に、何かの形で関わりたかったと泣く、この人に。
目を閉じて、嘆きしゃくりあげる真崎に抱き締められる。
遠く微かな声が聞こえる。
出会えて、幸福だった。
『とにかく入って』
引きずり込まれて抱きしめられて、玄関から連れ去るようにベッドに連れて行かれて。
喘ぎながら奪うようなキス、汗の匂いに途中で気づいたのか、慌てた顔で浴室へ飛び込み、すぐに飛び出してきた後は、縺れ合うように抱きしめ合って。
『美並…っ、美並…っ』
名前を呼びながら押し込んできて、
『一人でいっちゃダメだから…っ』
この前のお返し、快感を堪えろと言っているのかと思ったが、すぐに溢れ出した美並の腰を嬉しそうに掴み、
『もっと気持ち良いところ、探してみる?』
『そんな顔してもダメ、まだ大丈夫だよね?』
甘い笑みを広げて、何度も何度も駆け上がらせた。
『美並、美並、可愛い、もっと啼いて』
際どい台詞も真崎が吐くと違和感がないのは怖い。
声と同時に胸を掴まれ、抱え込まれながら押し広げられ、深くまで体を穿たれる。
あ、あっ。
濡れて敏感になっている粒を探られた瞬間に腰を引いてしまい、耳元で吐息で笑われた。
『ここ?』
い、っ。
『ここに僕のが入ってて……美並のここがこんなに固くて…』
囁く声と一緒に指先でなぞられ顔が熱くなる。摘まれた部分を指先で柔らかく嬲られて逃げ場のない快感に仰け反る。背後から貫かれながら声を上げると、
『待って、一緒に行こ…』
囁かれて一旦抜かれたものが、もう一度、質量を確認させるように入り込んできて、委ねて駆け上がった。
結局、その後の寝物語で、真崎が檜垣からの連絡を受け取り、美並の暴走を心配していたのだとはわかったけれど。
『僕を殺したいの? もう赤来に関わらないで』
ベッドでは滅多に見せない鋭い視線で言い渡されたが、孝の件を依頼してきたのは真崎だ。
『…他の事件は始末が付きますが、孝さんの一件は詰められないかもしれません』
言い返した美並に、真崎は思わぬ一言で応じた。
『孝の事件は、終わったんだよ』
何が終わったのか、解明は始まってもいないのに。
不審がる伊吹に頷いて、
『僕はずっと怖かったんだ……自分が孝そっくりで、いつか大輔に繋がれたまま、孝みたいにどこかのホテルで殺されるんじゃないかって』
でも。
『今、君が、ここに居る……それだけで、僕は生きていて良かったんだとわかる』
静かな声は、今までにない落ち着きがあった。
『孝には君がいなくて、恵子さんしかいなかった』
少し唇を噛む。
吹っ切るように続けた。
『僕は孝にはならない』
分かったから、もういいんだ。
見上げた顔は静謐だった。今までの熱をどこかに捨て去ったように、けれど内側に確かな力を漲らせて。
美並にも通じた。
理由はわからないけれど、真崎の中で孝の事件が一つの形に収まった。どのように扱っても置き所のなかった傷みが、真崎の心の中に居場所を得て、形を整え収められた。
それはわかったけど。
目の前に膨らんだ粒に思わず噛み付いてしまった。あっ、と切ない声が上がり、落ち着きかけていたものが力を取り戻していくのに誘われて、含む。
なんだか置き去られた気がする。
『んっ、んんっ』
唇の中で膨らみが固くなり、呼吸を乱した真崎が腰を抱えてくる。
ふっと有沢のことを思い出した。有沢の人生を支配した『羽鳥』の事件。それは今や終わりを告げようとしている。有沢は美並を望んでいるが、『羽鳥』の事件が終わってしまえば、美並は有沢との接点を失うだろう。有沢は美並と寄り添って歩くためには、あまりにも美並の傷みを知らなさすぎる。だから共に歩く未来はない、それを有沢は理解しない。
同じ過去を共有し、傷みもまた重なっているけれど、真崎は孝にはなり得ないと確信できたのなら、その後の繋がりはどこにあるのだろう。
『京介は…孝さんの人生をどうにもできないって言ってるんですね?』
美並が有沢の人生をどうにもできないとわかっているように。
そうか、と気づく。
有沢が美並を望むのは、美並の存在で理不尽で納得できない人生を変えられると感じたからだ。
けれど本当はそうじゃない。
誰にも他の人間に人生を変えてもらうことなどできはしない。
『……うん』
見上げた真崎の目がみるみる涙を溢れさせる。
同じ境遇だけじゃなく……バスケが好きだとか……学校帰りに……買い食いするとか。
もっと…べつ…の……ことを……もっと……別の……話をもっと。
友達……親友として。
何も……できなかった……何も……してやれ……なくて……っ。
僕は…無力だった……っ。
誰にも変えられない他人の人生の終末に、何かの形で関わりたかったと泣く、この人に。
目を閉じて、嘆きしゃくりあげる真崎に抱き締められる。
遠く微かな声が聞こえる。
出会えて、幸福だった。
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