184 / 213
101.『炎熱に侵されるなかれ』(1)
しおりを挟む
「あれは、もう一つの時間だったんじゃないかと思う」
床に横たえられたカザルの枕元で、オウライカはレシン、ミコト、トラスフィに口を開く。
「うまく言えないが、二つに分かれた竜がそれぞれに持っていた別の世界の結末、というか」
レシンと一緒に見た『紋章』は現実と僅かにずれていたが、全く違う現実ではなかった、とレシンも認めた。
もし、オウライカが目覚めなければ起こっていた、もう一つの展開。
「竜が六体居るってことか?」
「いや…一体の竜は双頭だった、という可能性だ」
それは『塔京』の白竜ではないし、『斎京』の赤竜でもない。
「カザルは竜に属する贄の一人で、『黒竜』か『青竜』か、ということか?」
「想像でしかないが」
そしてこれもうまく説明できないが、
「カザルの中身は、あそこにあるような気がする」
「あそこって……え、あの」
「お月様…?」
「ああ…なるほど」
レシンだけがはっとした顔で頷く。
「そういう読み解きか」
「いや待て、待てって」
トラスフィが混乱した様子で手を振った。
「中身がってのも随分な話けどよ、月にあるって言われても、どうやって取り返すよ?」
さすがにお月さんまで打ち出せる銃なんてのはねえしよ。
「外側はお前が連れ戻してくれた」
「ああ、蔦のジャングルに宙ぶらりんになってて大変だったけどな」
「呼吸はしている、体温もある、まだ今は」
「『夢喰い』にやられたようなもんだよな」
「そうだ」
取り戻さなければ、遅かれ早かれ全てが持っていかれる。
オウライカはそっとカザルの額に触れた。
凍ったように冷たい、だがまだ固まったりしていない。
「…取り戻す」
「わかった、けど、どうやって」
「幸に通路がある」
にやりと笑って左目の眼帯を指先で叩いて見せると、トラスフィががくんと口を開いた。
「待て」
「左半分手渡し済みだ、嫌とは言うまい」
「嫌どころか諸手上げて迎えるだろうさ、けどよ、オウライカ」
トラスフィが必死に言葉を継ぐ。
「カザルが帰って来た時、あんたがいなけりゃ同じことだぜ?」
「…」「…」
「何、何だよ、おかしな顔して、レシン、オウライカ」
同時にトラスフィを見た二人は、またも同時にお互いを見遣った。
「同じこと、か」
「だな、見事に重なってるぜ」
「どういうことだってよ!」
「はいはい、子どもはきゃんきゃん騒がないの」
ミコトがひらひらと手を振った。
「あんたにしちゃ、珍しくまともなことを言ったと思ったのに、無意識だったのね、かわいそうに」
「可哀想って何だよ!」
「安心しろ、トラスフィ」
オウライカは微笑んだ。
「やるべきことも手法もわかっている。ちゃんとカザルを連れて戻ってくる」
「お、おう」
「それまで『斎京』の護りを頼めるか」
時間がかかるかも知れない。
言い放つと、トラスフィは一瞬口を噤み、座り直した。正座した両膝に拳を置き、深々と頭を下げる。
「『紅蓮』隊長、シード・トラスフィ、確かに『斎京』の守護を請け負った。主オウライカ帰還まで、『塔京』は元より、この『斎京』には如何なる敵も侵入を許さない」
「頼む」
オウライカは立ち上がった。
「ミコト」
「はい」
「湯を整えてくれ」
「ご用意しております」
着替えてきたミコトの薄紫の着物に、オウライカは静かに頷いた。
床に横たえられたカザルの枕元で、オウライカはレシン、ミコト、トラスフィに口を開く。
「うまく言えないが、二つに分かれた竜がそれぞれに持っていた別の世界の結末、というか」
レシンと一緒に見た『紋章』は現実と僅かにずれていたが、全く違う現実ではなかった、とレシンも認めた。
もし、オウライカが目覚めなければ起こっていた、もう一つの展開。
「竜が六体居るってことか?」
「いや…一体の竜は双頭だった、という可能性だ」
それは『塔京』の白竜ではないし、『斎京』の赤竜でもない。
「カザルは竜に属する贄の一人で、『黒竜』か『青竜』か、ということか?」
「想像でしかないが」
そしてこれもうまく説明できないが、
「カザルの中身は、あそこにあるような気がする」
「あそこって……え、あの」
「お月様…?」
「ああ…なるほど」
レシンだけがはっとした顔で頷く。
「そういう読み解きか」
「いや待て、待てって」
トラスフィが混乱した様子で手を振った。
「中身がってのも随分な話けどよ、月にあるって言われても、どうやって取り返すよ?」
さすがにお月さんまで打ち出せる銃なんてのはねえしよ。
「外側はお前が連れ戻してくれた」
「ああ、蔦のジャングルに宙ぶらりんになってて大変だったけどな」
「呼吸はしている、体温もある、まだ今は」
「『夢喰い』にやられたようなもんだよな」
「そうだ」
取り戻さなければ、遅かれ早かれ全てが持っていかれる。
オウライカはそっとカザルの額に触れた。
凍ったように冷たい、だがまだ固まったりしていない。
「…取り戻す」
「わかった、けど、どうやって」
「幸に通路がある」
にやりと笑って左目の眼帯を指先で叩いて見せると、トラスフィががくんと口を開いた。
「待て」
「左半分手渡し済みだ、嫌とは言うまい」
「嫌どころか諸手上げて迎えるだろうさ、けどよ、オウライカ」
トラスフィが必死に言葉を継ぐ。
「カザルが帰って来た時、あんたがいなけりゃ同じことだぜ?」
「…」「…」
「何、何だよ、おかしな顔して、レシン、オウライカ」
同時にトラスフィを見た二人は、またも同時にお互いを見遣った。
「同じこと、か」
「だな、見事に重なってるぜ」
「どういうことだってよ!」
「はいはい、子どもはきゃんきゃん騒がないの」
ミコトがひらひらと手を振った。
「あんたにしちゃ、珍しくまともなことを言ったと思ったのに、無意識だったのね、かわいそうに」
「可哀想って何だよ!」
「安心しろ、トラスフィ」
オウライカは微笑んだ。
「やるべきことも手法もわかっている。ちゃんとカザルを連れて戻ってくる」
「お、おう」
「それまで『斎京』の護りを頼めるか」
時間がかかるかも知れない。
言い放つと、トラスフィは一瞬口を噤み、座り直した。正座した両膝に拳を置き、深々と頭を下げる。
「『紅蓮』隊長、シード・トラスフィ、確かに『斎京』の守護を請け負った。主オウライカ帰還まで、『塔京』は元より、この『斎京』には如何なる敵も侵入を許さない」
「頼む」
オウライカは立ち上がった。
「ミコト」
「はい」
「湯を整えてくれ」
「ご用意しております」
着替えてきたミコトの薄紫の着物に、オウライカは静かに頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる