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111.『都市』(1)
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復興が始まった。まるで新たな世界が芽吹くように。
「ユン」
呼ばれてファローズは振り返り、『隊長』が大きな木材を肩に担ぎながらやってくるのを見つけた。
「もうすぐ昼飯になるぞ、食いに来るか?」
期待を込めて笑顔を向けられ、一瞬怯んで頷く。
「お、おお、そうだな、そうすっか」
片付けていた場所を未練がましく見やると、どこ行くんすか、とレッグが尋ねて来るから、あいつんとこだ、と顎で示した。
「あ、なんだ、てっきりライヤーが誘いに来たのかと」
それなら是非お相伴したいなと思ってたんすけどね。
わらわらと他の面子も顔を揃える。あれだけの災害の中、ほとんど欠けなかったのは奇跡だ。
「んなの、来るかよ」
『隊長』が不愉快そうに唇を捻じ曲げる。
「中央庁の再建で手一杯だろ」
「…だよな」
ファローズは一瞬彼方に視線をやり、首を振った。
何もかも、なんだか夢のようだと思う。
突然やって来たライヤーのことも、その後『塔京』を襲った異変も。
けれど夢でないのは、体の中の違和感が続いているからで。
「調子、悪いのか?」
覗き込んで来る『隊長』に苦笑いして肩を竦める。
「悪いも何も、絶好調なのはわかってっだろ」
「ああ」
ライヤーと最後に出会って体の中に黄金の卵を感じた後、ファローズは別人のように頭角を現し始めた。とにかく治安や保全に関する発案が途切れることなく生まれて来る。今まで取り締まれなかった犯罪や事件に、次々と新しい発想を思いつき、全く別視点の展開で問題を解決できる。
何があったんだと周囲に聞かれても、『妙な感じがある』としか答えられない。
「とにかくよ、気になってることがあるだろ、だからそれを考えてると、急にああしたらいいんじゃねえか、こうしたらよくなっだろ、って思いついちまうんだよ」
頬を紅潮させるファローズに、『隊長』は少し溜め息をつく。
「…飯を食いに行こう」
「あ、ああ、そうだな、うん、そうすっか」
お前なのか、ライヤー。
ファローズは胸の中で、まだあちらこちら崩れている場所を補修中の中央庁に潜む男を思う。
お前が俺の中に、妙な種を植え付けたのか。
『塔京』の支配者、リフト・カークには、素早くて容赦のない『影』が付き従うと囁かれるようになったのはいつからだろう。
『影』の姿は見えるようで見えない。穏やかで優しげな男らしい。だが、誰もその容姿を語ろうとすると、不安げに口を噤む。やがては曖昧に笑って言い訳を始める、どうしたんだろう、うまく思い出せない、と。
一つわかっていることは、その『影』の補佐の元、ほとんどの重鎮が(あのダグラス・ハイトさえ死んでしまっているのに)消え失せた『塔京』を、リフト・カークは見事に再生しつつあるということだ。
より強く、より大きくなる『塔京』は、抱えていた闇をも災害で壊し尽くしてしまったのか、多くの優秀な人材を中央庁に迎え入れ、新たな形を得つつある。
「…ダルク」
「あん?」
「あいつ、本当に、居たのかな」
「何が」
配給所に向かいながら、隣の『隊長』を見上げる。
「ライヤー」
「何を言ってる」
『隊長』は呆れた顔で顎をしゃくった。
「だから『塔京』がこんなことになってるんだろうが」
示された先では、忙しく炊き出しに走り回る青年や、途方に暮れた子どもを見守る老人、今後のことについて相談所に並ぶ人々が見える。
「まあこれから頑張るしかないよ!」
「そうかな、シズンさん」
「そうとも! おじさんだってね、一からやり直すんだから、大丈夫、あんたならきっともっとうまくやれるよ!」
中から若々しい声が響いている。
「あいつが全部ぶっ壊したんだろうが、腐った『塔京』も、毒花のカークも」
けどな。
「俺達が後始末を手伝ってやらねえと、いろんな人が泣くからな!」
「…だな」
腹の辺りに感じるむず痒い感覚が、また小さな声を上げる。
「なあ、ダルク」
「うん」
「飯食ったら、一つ案があるんだけどな」
「…」
一瞬何か言いたげにファローズを振り返った『隊長』は溜め息をついてぽん、とファローズの頭を叩く。
「何だよ」
「安心しろ、ずっと付き合ってやっから」
そいつがすっきりするまで、好きなだけ暴れてみろや。
「…頼む」
ファローズは小さく呟いて、はにかんだ。
「ユン」
呼ばれてファローズは振り返り、『隊長』が大きな木材を肩に担ぎながらやってくるのを見つけた。
「もうすぐ昼飯になるぞ、食いに来るか?」
期待を込めて笑顔を向けられ、一瞬怯んで頷く。
「お、おお、そうだな、そうすっか」
片付けていた場所を未練がましく見やると、どこ行くんすか、とレッグが尋ねて来るから、あいつんとこだ、と顎で示した。
「あ、なんだ、てっきりライヤーが誘いに来たのかと」
それなら是非お相伴したいなと思ってたんすけどね。
わらわらと他の面子も顔を揃える。あれだけの災害の中、ほとんど欠けなかったのは奇跡だ。
「んなの、来るかよ」
『隊長』が不愉快そうに唇を捻じ曲げる。
「中央庁の再建で手一杯だろ」
「…だよな」
ファローズは一瞬彼方に視線をやり、首を振った。
何もかも、なんだか夢のようだと思う。
突然やって来たライヤーのことも、その後『塔京』を襲った異変も。
けれど夢でないのは、体の中の違和感が続いているからで。
「調子、悪いのか?」
覗き込んで来る『隊長』に苦笑いして肩を竦める。
「悪いも何も、絶好調なのはわかってっだろ」
「ああ」
ライヤーと最後に出会って体の中に黄金の卵を感じた後、ファローズは別人のように頭角を現し始めた。とにかく治安や保全に関する発案が途切れることなく生まれて来る。今まで取り締まれなかった犯罪や事件に、次々と新しい発想を思いつき、全く別視点の展開で問題を解決できる。
何があったんだと周囲に聞かれても、『妙な感じがある』としか答えられない。
「とにかくよ、気になってることがあるだろ、だからそれを考えてると、急にああしたらいいんじゃねえか、こうしたらよくなっだろ、って思いついちまうんだよ」
頬を紅潮させるファローズに、『隊長』は少し溜め息をつく。
「…飯を食いに行こう」
「あ、ああ、そうだな、うん、そうすっか」
お前なのか、ライヤー。
ファローズは胸の中で、まだあちらこちら崩れている場所を補修中の中央庁に潜む男を思う。
お前が俺の中に、妙な種を植え付けたのか。
『塔京』の支配者、リフト・カークには、素早くて容赦のない『影』が付き従うと囁かれるようになったのはいつからだろう。
『影』の姿は見えるようで見えない。穏やかで優しげな男らしい。だが、誰もその容姿を語ろうとすると、不安げに口を噤む。やがては曖昧に笑って言い訳を始める、どうしたんだろう、うまく思い出せない、と。
一つわかっていることは、その『影』の補佐の元、ほとんどの重鎮が(あのダグラス・ハイトさえ死んでしまっているのに)消え失せた『塔京』を、リフト・カークは見事に再生しつつあるということだ。
より強く、より大きくなる『塔京』は、抱えていた闇をも災害で壊し尽くしてしまったのか、多くの優秀な人材を中央庁に迎え入れ、新たな形を得つつある。
「…ダルク」
「あん?」
「あいつ、本当に、居たのかな」
「何が」
配給所に向かいながら、隣の『隊長』を見上げる。
「ライヤー」
「何を言ってる」
『隊長』は呆れた顔で顎をしゃくった。
「だから『塔京』がこんなことになってるんだろうが」
示された先では、忙しく炊き出しに走り回る青年や、途方に暮れた子どもを見守る老人、今後のことについて相談所に並ぶ人々が見える。
「まあこれから頑張るしかないよ!」
「そうかな、シズンさん」
「そうとも! おじさんだってね、一からやり直すんだから、大丈夫、あんたならきっともっとうまくやれるよ!」
中から若々しい声が響いている。
「あいつが全部ぶっ壊したんだろうが、腐った『塔京』も、毒花のカークも」
けどな。
「俺達が後始末を手伝ってやらねえと、いろんな人が泣くからな!」
「…だな」
腹の辺りに感じるむず痒い感覚が、また小さな声を上げる。
「なあ、ダルク」
「うん」
「飯食ったら、一つ案があるんだけどな」
「…」
一瞬何か言いたげにファローズを振り返った『隊長』は溜め息をついてぽん、とファローズの頭を叩く。
「何だよ」
「安心しろ、ずっと付き合ってやっから」
そいつがすっきりするまで、好きなだけ暴れてみろや。
「…頼む」
ファローズは小さく呟いて、はにかんだ。
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