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19.『快楽』(2)
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ふらつきながらカークが官舎の廊下を戻っていると、ブルームに会った。
「………シュガットか」
「……」
微かに笑ってやると、不愉快そうに顔を歪めて側を通り過ぎようとする。
「ブルーム」
「手を放せ」
腕を掴んでやれば、くっきりと眉を寄せた。
「オウライカのまねですか」
「部屋でシャワーを浴びろ」
「臭いますか」
「……馬鹿やろう」
「ふ、ふふ」
カークは手を放し、ぐらりと揺れた足下に歯を食いしばって踏み止まった。咄嗟に今度はブルームが腕を握って支えてくれる。
「すみ、ません」
「もうやめろ」
「嫌です」
「危なすぎる」
「まだまだですよ」
汗と得体のしれないものでべたべたした髪を掻きあげ、ブルームの手を振り解く。ちら、と横目で見遣って、
「それとも、あなたが満足させてくれますか」
「………俺には無理だ」
ブルームは妻を得てからそういう意味ではカークに触れない。それを知って誘うカークに、不快そうな表情が一層広がる。
「……じゃあ、いつもみたいに、誰か見繕って下さい」
「カーク」
「このままじゃ……眠れない」
「やめとけ」
「ちゃんとシャワーも浴びて、小奇麗にして迎えますよ? 準備万端、そのまま即始めてもらってもいい。何なら、どこかで拾ってきて下さい」
「自分でやれよ」
「………やっておさまるぐらいなら」
低く吐いて目を背けた。
「とっくにやってますよ」
始めのころはレグルの責めも穏やかで、シュガットもただ軽く嬲るだけだった。半端に放り出された疼きは、オウライカを思って慰めた。
けれど、今はもう、オウライカの穏やかな笑みだけでは駆け上がれない。蹂躙され犯しつくされ奪いつくされる妄想の中でかろうじて意識を手放せるのに、それだけの妄想さえ、二人が次々試す方法の前では子どもじみていて種切れだ。
「三日にあげず責められて、自分でどうしろって言うんです」
甘えているとはわかっていたが、つい苦しさが口を突いた。
「いっそ、このままもう一度レグルのところへ行こうかと思うぐらいです」
「カーク……」
「……しませんよ」
暗く嗤った。
「そんなことをしたら、ほんとうに、もたない」
「………オウライカを」
「連絡を入れたりしたら、殺すって言いませんでしたか」
ブルームが唸るのに目を上げた。
「………どうせなら、私が壊れてからにして下さい。その方がオウライカもあの馬鹿どもに容赦なくやってくれる」
あの人はどうしても甘いですからね、と苦笑した。
「しかし」
「………それに今さらどんな顔を」
オウライカに合わせろと言うんです、と目を伏せて笑いながら呟くと、さすがにブルームも口を噤んだ。
「これからどうするつもりなんだ」
「……レグルとシュガットは噛み合わせましたが……問題はマジェスですね」
「あれはさすがに」
「色には無縁の人ですから、今地位と金で釣ってるんですが、ネフェルが妙な動きをしてるんです。ひょっとすると」
「……ハイト、が動いてるか」
「そうなると、私のやってることなんて道化です」
カークの笑みに、ふいとブルームが向きを変えた。
「……抱いてくれるんですか?」
しなだれかかってみたが、今度は拒まれなかった。むしろよろめいた足取りを気にするように抱えてくれながら、ぶっきらぼうな声で、
「部屋まで送ってやる、それだけだ」
「………すみません」
カークは俯き、小さく吐息をついた。
「………シュガットか」
「……」
微かに笑ってやると、不愉快そうに顔を歪めて側を通り過ぎようとする。
「ブルーム」
「手を放せ」
腕を掴んでやれば、くっきりと眉を寄せた。
「オウライカのまねですか」
「部屋でシャワーを浴びろ」
「臭いますか」
「……馬鹿やろう」
「ふ、ふふ」
カークは手を放し、ぐらりと揺れた足下に歯を食いしばって踏み止まった。咄嗟に今度はブルームが腕を握って支えてくれる。
「すみ、ません」
「もうやめろ」
「嫌です」
「危なすぎる」
「まだまだですよ」
汗と得体のしれないものでべたべたした髪を掻きあげ、ブルームの手を振り解く。ちら、と横目で見遣って、
「それとも、あなたが満足させてくれますか」
「………俺には無理だ」
ブルームは妻を得てからそういう意味ではカークに触れない。それを知って誘うカークに、不快そうな表情が一層広がる。
「……じゃあ、いつもみたいに、誰か見繕って下さい」
「カーク」
「このままじゃ……眠れない」
「やめとけ」
「ちゃんとシャワーも浴びて、小奇麗にして迎えますよ? 準備万端、そのまま即始めてもらってもいい。何なら、どこかで拾ってきて下さい」
「自分でやれよ」
「………やっておさまるぐらいなら」
低く吐いて目を背けた。
「とっくにやってますよ」
始めのころはレグルの責めも穏やかで、シュガットもただ軽く嬲るだけだった。半端に放り出された疼きは、オウライカを思って慰めた。
けれど、今はもう、オウライカの穏やかな笑みだけでは駆け上がれない。蹂躙され犯しつくされ奪いつくされる妄想の中でかろうじて意識を手放せるのに、それだけの妄想さえ、二人が次々試す方法の前では子どもじみていて種切れだ。
「三日にあげず責められて、自分でどうしろって言うんです」
甘えているとはわかっていたが、つい苦しさが口を突いた。
「いっそ、このままもう一度レグルのところへ行こうかと思うぐらいです」
「カーク……」
「……しませんよ」
暗く嗤った。
「そんなことをしたら、ほんとうに、もたない」
「………オウライカを」
「連絡を入れたりしたら、殺すって言いませんでしたか」
ブルームが唸るのに目を上げた。
「………どうせなら、私が壊れてからにして下さい。その方がオウライカもあの馬鹿どもに容赦なくやってくれる」
あの人はどうしても甘いですからね、と苦笑した。
「しかし」
「………それに今さらどんな顔を」
オウライカに合わせろと言うんです、と目を伏せて笑いながら呟くと、さすがにブルームも口を噤んだ。
「これからどうするつもりなんだ」
「……レグルとシュガットは噛み合わせましたが……問題はマジェスですね」
「あれはさすがに」
「色には無縁の人ですから、今地位と金で釣ってるんですが、ネフェルが妙な動きをしてるんです。ひょっとすると」
「……ハイト、が動いてるか」
「そうなると、私のやってることなんて道化です」
カークの笑みに、ふいとブルームが向きを変えた。
「……抱いてくれるんですか?」
しなだれかかってみたが、今度は拒まれなかった。むしろよろめいた足取りを気にするように抱えてくれながら、ぶっきらぼうな声で、
「部屋まで送ってやる、それだけだ」
「………すみません」
カークは俯き、小さく吐息をついた。
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