66 / 213
37.『子供』
しおりを挟む
びゅんびゅん、びゅん、びゅうおおん、ばしゅっ。
「…アレ?」
部屋の中の巨大なデスクに足を乗せて、手にしていた携帯ゲームに熱中していた男が、ふと視線を上げて意外そうな顔になった。
次の瞬間、
『どぅんっ、ギャアア』
「ちっ」
掌の中で派手な爆発音と金属的な悲鳴が上がって、相手が舌打ちする。
「死んじゃった」
「ラストステージまでもう少しだったのに残念でしたね」
ライヤーは慰めてみる。
「……知ってんの、このゲーム」
「何度かプレイしましたよ」
くるくるとした巻き毛、ふっくらとした明るい色の頬、なのに老獪さを讃えた暗い瞳。子供じみた容貌の男はふて腐れたように唇を尖らせている。
「僕だってしたよ、何度もクリアした」
「でも、そこが一番ややこしいところなんですよね」
ライヤーはにこやかに目を細めた。
「逃げてきた女性があわや助かるかってところで、上下左右のどこか二ケ所から剣が飛んでくる」
「三ケ所だよ、それは古いバージョン」
「そうですか」
「二ケ所なんか簡単すぎるでしょ? 僕が失敗するわけないじゃん」
「そうですね、トラスフィさん相手でも平気ですもんね」
「………嫌な名前出さないでよ」
相手は不快そうに片方の眉を上げて、唇を曲げる。
「ブッブー。いいところまで来たのに、最後でミスったね、ライヤーさん」
「そうみたいですね、出直しましょうか」
「いいよ、いいよ、めんどくさいし、またゲーム邪魔されちゃたまらないし」
ネフェルがぽん、とゲーム機を机の上に放り投げる。
「何しに来たの、ねえ?」
「はい?」
「だからさ、時間省こうよ、お互い忙しいんだし。何しに来たの、『斎京』のダミーが?」
「あの」
ライヤーはもじもじと両手を組み合わせて瞬きしながら微笑んだ。
「できたら、椅子か何かあると」
「話が長いの、嫌いだな、だるいな、時間ないなー」
「二日酔いでしんどいんですよ」
「どこで飲んできたのさ」
「『隊長』さんとこで」
「『隊長』? ファローズんとこ? へえ! へえ、へえ、へえ!」
ネフェルは大きな目を開いて体を起こした。
「あそこに入れたの、そりゃ凄い、意外ー、ねーそう思わない、ルー・レン!」
「そうですね」
声を出さなければ居るとは認識できなかったぐらい静かに、部屋の隅に腰を降ろしていたレンがのそりと立ち上がる。やや猫背気味にライヤーを上目づかいに見ると、
「ファローズさんと仲が良かったと聞きましたが、もういいんですか」
ぽん、と机の上に書類の束を投げてみせた。
「?」
「『斎京』からこっちのあんたの動き、一応拾ってました」
「さぁすが、ルー・レン! さぁすが、僕!」
ネフェルが楽しそうに笑う。
「で、どうなの、どうすんの、ライヤーさん? とんでもないとこに飛び込んじゃった、そう思ってる? 思ってなくても、そこ思うとこ!」
こちらも覗き込むように眉を上げて上目遣いになるネフェルに、ライヤーは少し頭を掻いた。
「あの、ですね」
「うん」
「椅子、欲しいんですけど」
「おおう! そう来る!」
ネフェルがびっくりしたように目を開いた。
「椅子だって、ルー・レン! この人長話する気ですよ、みなさーん!」
両手を振り回して、周囲に居るらしい見えない観客にアピールしてみせる。
派手だなあと思いつつ、その視線を追って部屋の中を見回し、全く誰もいないわけではなかったことに気付いた。
短い銀髪のルカ、同じ長さだが金髪のネモ、顔立ちは違うのに、印象が双子状態の二人の男が揃って壁際に立ち、黒い髪を衣服のように体に添わせた滑る蛇のようなカーノは濃い口紅の唇を結んだまま凝視している。あいかわらず興味があるのかないのか、ひやりと醒めた視線のルー・レンと合わせて、部屋の中でテンションが高いのはネフェルだけ。
それはまるで躾はできていないが口達者な子供を見る目、それもその子供のことを親身になって考えることなど一切しない、動物園の猿を見下す大人の視線だ。
こういう人間達に囲まれて、それでもこれだけのテンションを保てるなんて、これはこれですごいよね、とライヤーはおそるおそる繰り返した。
「あの~、やっぱり椅子欲しいんですけど」
「んもう、じゃあさっさと座ればー、ね、ルー・レン!」
「どうぞ」
ごそりと立ったレンが黒くて固くてそっけない椅子を持ってきた。
「…アレ?」
部屋の中の巨大なデスクに足を乗せて、手にしていた携帯ゲームに熱中していた男が、ふと視線を上げて意外そうな顔になった。
次の瞬間、
『どぅんっ、ギャアア』
「ちっ」
掌の中で派手な爆発音と金属的な悲鳴が上がって、相手が舌打ちする。
「死んじゃった」
「ラストステージまでもう少しだったのに残念でしたね」
ライヤーは慰めてみる。
「……知ってんの、このゲーム」
「何度かプレイしましたよ」
くるくるとした巻き毛、ふっくらとした明るい色の頬、なのに老獪さを讃えた暗い瞳。子供じみた容貌の男はふて腐れたように唇を尖らせている。
「僕だってしたよ、何度もクリアした」
「でも、そこが一番ややこしいところなんですよね」
ライヤーはにこやかに目を細めた。
「逃げてきた女性があわや助かるかってところで、上下左右のどこか二ケ所から剣が飛んでくる」
「三ケ所だよ、それは古いバージョン」
「そうですか」
「二ケ所なんか簡単すぎるでしょ? 僕が失敗するわけないじゃん」
「そうですね、トラスフィさん相手でも平気ですもんね」
「………嫌な名前出さないでよ」
相手は不快そうに片方の眉を上げて、唇を曲げる。
「ブッブー。いいところまで来たのに、最後でミスったね、ライヤーさん」
「そうみたいですね、出直しましょうか」
「いいよ、いいよ、めんどくさいし、またゲーム邪魔されちゃたまらないし」
ネフェルがぽん、とゲーム機を机の上に放り投げる。
「何しに来たの、ねえ?」
「はい?」
「だからさ、時間省こうよ、お互い忙しいんだし。何しに来たの、『斎京』のダミーが?」
「あの」
ライヤーはもじもじと両手を組み合わせて瞬きしながら微笑んだ。
「できたら、椅子か何かあると」
「話が長いの、嫌いだな、だるいな、時間ないなー」
「二日酔いでしんどいんですよ」
「どこで飲んできたのさ」
「『隊長』さんとこで」
「『隊長』? ファローズんとこ? へえ! へえ、へえ、へえ!」
ネフェルは大きな目を開いて体を起こした。
「あそこに入れたの、そりゃ凄い、意外ー、ねーそう思わない、ルー・レン!」
「そうですね」
声を出さなければ居るとは認識できなかったぐらい静かに、部屋の隅に腰を降ろしていたレンがのそりと立ち上がる。やや猫背気味にライヤーを上目づかいに見ると、
「ファローズさんと仲が良かったと聞きましたが、もういいんですか」
ぽん、と机の上に書類の束を投げてみせた。
「?」
「『斎京』からこっちのあんたの動き、一応拾ってました」
「さぁすが、ルー・レン! さぁすが、僕!」
ネフェルが楽しそうに笑う。
「で、どうなの、どうすんの、ライヤーさん? とんでもないとこに飛び込んじゃった、そう思ってる? 思ってなくても、そこ思うとこ!」
こちらも覗き込むように眉を上げて上目遣いになるネフェルに、ライヤーは少し頭を掻いた。
「あの、ですね」
「うん」
「椅子、欲しいんですけど」
「おおう! そう来る!」
ネフェルがびっくりしたように目を開いた。
「椅子だって、ルー・レン! この人長話する気ですよ、みなさーん!」
両手を振り回して、周囲に居るらしい見えない観客にアピールしてみせる。
派手だなあと思いつつ、その視線を追って部屋の中を見回し、全く誰もいないわけではなかったことに気付いた。
短い銀髪のルカ、同じ長さだが金髪のネモ、顔立ちは違うのに、印象が双子状態の二人の男が揃って壁際に立ち、黒い髪を衣服のように体に添わせた滑る蛇のようなカーノは濃い口紅の唇を結んだまま凝視している。あいかわらず興味があるのかないのか、ひやりと醒めた視線のルー・レンと合わせて、部屋の中でテンションが高いのはネフェルだけ。
それはまるで躾はできていないが口達者な子供を見る目、それもその子供のことを親身になって考えることなど一切しない、動物園の猿を見下す大人の視線だ。
こういう人間達に囲まれて、それでもこれだけのテンションを保てるなんて、これはこれですごいよね、とライヤーはおそるおそる繰り返した。
「あの~、やっぱり椅子欲しいんですけど」
「んもう、じゃあさっさと座ればー、ね、ルー・レン!」
「どうぞ」
ごそりと立ったレンが黒くて固くてそっけない椅子を持ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる