『DRAGON NET』

segakiyui

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37.『子供』

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 びゅんびゅん、びゅん、びゅうおおん、ばしゅっ。
「…アレ?」
 部屋の中の巨大なデスクに足を乗せて、手にしていた携帯ゲームに熱中していた男が、ふと視線を上げて意外そうな顔になった。
 次の瞬間、
『どぅんっ、ギャアア』
「ちっ」
 掌の中で派手な爆発音と金属的な悲鳴が上がって、相手が舌打ちする。
「死んじゃった」
「ラストステージまでもう少しだったのに残念でしたね」
 ライヤーは慰めてみる。
「……知ってんの、このゲーム」
「何度かプレイしましたよ」
 くるくるとした巻き毛、ふっくらとした明るい色の頬、なのに老獪さを讃えた暗い瞳。子供じみた容貌の男はふて腐れたように唇を尖らせている。
「僕だってしたよ、何度もクリアした」
「でも、そこが一番ややこしいところなんですよね」
 ライヤーはにこやかに目を細めた。
「逃げてきた女性があわや助かるかってところで、上下左右のどこか二ケ所から剣が飛んでくる」
「三ケ所だよ、それは古いバージョン」
「そうですか」
「二ケ所なんか簡単すぎるでしょ? 僕が失敗するわけないじゃん」
「そうですね、トラスフィさん相手でも平気ですもんね」
「………嫌な名前出さないでよ」
 相手は不快そうに片方の眉を上げて、唇を曲げる。
「ブッブー。いいところまで来たのに、最後でミスったね、ライヤーさん」
「そうみたいですね、出直しましょうか」
「いいよ、いいよ、めんどくさいし、またゲーム邪魔されちゃたまらないし」
 ネフェルがぽん、とゲーム機を机の上に放り投げる。
「何しに来たの、ねえ?」
「はい?」
「だからさ、時間省こうよ、お互い忙しいんだし。何しに来たの、『斎京』のダミーが?」
「あの」
 ライヤーはもじもじと両手を組み合わせて瞬きしながら微笑んだ。
「できたら、椅子か何かあると」
「話が長いの、嫌いだな、だるいな、時間ないなー」
「二日酔いでしんどいんですよ」
「どこで飲んできたのさ」
「『隊長』さんとこで」
「『隊長』? ファローズんとこ? へえ! へえ、へえ、へえ!」
 ネフェルは大きな目を開いて体を起こした。
「あそこに入れたの、そりゃ凄い、意外ー、ねーそう思わない、ルー・レン!」
「そうですね」
 声を出さなければ居るとは認識できなかったぐらい静かに、部屋の隅に腰を降ろしていたレンがのそりと立ち上がる。やや猫背気味にライヤーを上目づかいに見ると、
「ファローズさんと仲が良かったと聞きましたが、もういいんですか」
 ぽん、と机の上に書類の束を投げてみせた。
「?」
「『斎京』からこっちのあんたの動き、一応拾ってました」
「さぁすが、ルー・レン! さぁすが、僕!」
 ネフェルが楽しそうに笑う。
「で、どうなの、どうすんの、ライヤーさん? とんでもないとこに飛び込んじゃった、そう思ってる? 思ってなくても、そこ思うとこ!」
 こちらも覗き込むように眉を上げて上目遣いになるネフェルに、ライヤーは少し頭を掻いた。
「あの、ですね」
「うん」
「椅子、欲しいんですけど」
「おおう! そう来る!」
 ネフェルがびっくりしたように目を開いた。
「椅子だって、ルー・レン! この人長話する気ですよ、みなさーん!」
 両手を振り回して、周囲に居るらしい見えない観客にアピールしてみせる。
 派手だなあと思いつつ、その視線を追って部屋の中を見回し、全く誰もいないわけではなかったことに気付いた。
 短い銀髪のルカ、同じ長さだが金髪のネモ、顔立ちは違うのに、印象が双子状態の二人の男が揃って壁際に立ち、黒い髪を衣服のように体に添わせた滑る蛇のようなカーノは濃い口紅の唇を結んだまま凝視している。あいかわらず興味があるのかないのか、ひやりと醒めた視線のルー・レンと合わせて、部屋の中でテンションが高いのはネフェルだけ。
 それはまるで躾はできていないが口達者な子供を見る目、それもその子供のことを親身になって考えることなど一切しない、動物園の猿を見下す大人の視線だ。
 こういう人間達に囲まれて、それでもこれだけのテンションを保てるなんて、これはこれですごいよね、とライヤーはおそるおそる繰り返した。
「あの~、やっぱり椅子欲しいんですけど」
「んもう、じゃあさっさと座ればー、ね、ルー・レン!」
「どうぞ」
 ごそりと立ったレンが黒くて固くてそっけない椅子を持ってきた。
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