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54.『陥落』(2)
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数日後。
「どちらへ」
「……視察だ」
「御一緒に」
カークが頷くと、ブルームは無言で車の後部座席のドアを開けた。運転席に乗り込むライヤーを物言いた気に見遣ってきたが、カークは無視して、出せ、と短く命じる。
走らせだした車の行き先は、『塔京』の下町をさらに抜けて離れた郊外、訝し気な顔をするライヤーに、面白いものを見せてやる、と笑う。
やがて車は小高い丘陵を登り、小さな平地に止まった。
「ここだ」
促して車を降り、ちょっとした崖になっている端まで進む。背後からやってくるライヤーが突き落とす気になればすぐに果たせる場所だが、ライヤーは殺す前にはもう一度、カークを気を失うまで抱いてくれると約束した。『斎京』の刺客、オウライカの子飼いならば、そうそうことばを翻さないだろうと思っていた。
風が唸って巻いている。体調が回復したとは言え、まだ本調子ではないカークが足下を揺らすのに、ライヤーがすいと側に寄ってきて、風から守るように立ってくれた。
「……あそこだ」
カークは彼方を指差す。乱れた前髪に邪魔されて見えにくいが、見失うことなどない。『塔京』支配に入ってから、何度も何度も見に来ている。
指差したところは灰色と黒の見捨てられた建物群にも見える廃虚だった。周囲には緑が一切ない。
「あそこ?」
「あそこに『塔京』の白竜が居る」
「……」
「『斎京』には赤竜。昔栄えた『伽京』には青竜が、『獄京』には黒竜が居たそうだ。青竜と黒竜は自らのエネルギーで都市と自分を焼き滅ぼして消えたという………それぞれの都を支配する代償にオウライカさんは赤竜に、私は白竜に喰われる運命にある」
ライヤーは棒を呑んだように立ち竦んで凝視している。オウライカはそこまで話していなかったのか、と苦笑した。
やっぱりあなたは最後まで一人で背負う気なんですね。
胸の蝶がずきりと痛んだ。
「なぜ……私を殺しに来た?」
「……」
「オウライカさんが殺せ、と命じたか」
ライヤーは答えない。廃虚からカークへ移した表情の読めない目で凝視したままだ。
「殺すより、攫えばいい」
「……」
「私を攫って『斎京』の竜に喰わせろ。そうすればオウライカさんは助かる」
どちらで喰われても同じことだ、そう嗤うカークにようやくライヤーが口を開く。
「『塔京』はどうするんです」
「滅びてもいいだろう」
こんな虚飾の愚かな都。
そう吐いたカークにライヤーがためらった顔になる。
「………殺したく、ない人達も居る」
「無理な話だ」
カークは切り捨てた。
「二つに一つしかない。オウライカさんを助けて『塔京』を見捨てるか」
振り返ってライヤーの顔を正面から見返す。
「オウライカさんを贄にして『塔京』を守るか」
「……も」
「え?」
風にライヤーの声が聞こえず眉を寄せると、ふいと近付いてきたライヤーが両手を伸ばしてきた。崖から突き落とされるのか、そう思ったけれど動かずに見上げると、そのまま静かに抱き込まれて、唇を重ねられる。
甘やかで温かなキス。
誰も与えてくれたことのないいたわりを満たした唇。
吐息を漏らしながら何度か重ねる。
どちらも、救う方法を、考えます。
「…ん?」
一旦離れた唇が低い声で囁いて、カークは目を開けた。自分を覗き込む相手の目に、猛々しい欲望を見てとって身体の奥が熱くなる。
「……無理だ」
冷笑したらまた口を塞がれた。そのまま深く貪られて、カークも目を閉じ首を引き寄せてライヤーの唇を味わった。
「どちらへ」
「……視察だ」
「御一緒に」
カークが頷くと、ブルームは無言で車の後部座席のドアを開けた。運転席に乗り込むライヤーを物言いた気に見遣ってきたが、カークは無視して、出せ、と短く命じる。
走らせだした車の行き先は、『塔京』の下町をさらに抜けて離れた郊外、訝し気な顔をするライヤーに、面白いものを見せてやる、と笑う。
やがて車は小高い丘陵を登り、小さな平地に止まった。
「ここだ」
促して車を降り、ちょっとした崖になっている端まで進む。背後からやってくるライヤーが突き落とす気になればすぐに果たせる場所だが、ライヤーは殺す前にはもう一度、カークを気を失うまで抱いてくれると約束した。『斎京』の刺客、オウライカの子飼いならば、そうそうことばを翻さないだろうと思っていた。
風が唸って巻いている。体調が回復したとは言え、まだ本調子ではないカークが足下を揺らすのに、ライヤーがすいと側に寄ってきて、風から守るように立ってくれた。
「……あそこだ」
カークは彼方を指差す。乱れた前髪に邪魔されて見えにくいが、見失うことなどない。『塔京』支配に入ってから、何度も何度も見に来ている。
指差したところは灰色と黒の見捨てられた建物群にも見える廃虚だった。周囲には緑が一切ない。
「あそこ?」
「あそこに『塔京』の白竜が居る」
「……」
「『斎京』には赤竜。昔栄えた『伽京』には青竜が、『獄京』には黒竜が居たそうだ。青竜と黒竜は自らのエネルギーで都市と自分を焼き滅ぼして消えたという………それぞれの都を支配する代償にオウライカさんは赤竜に、私は白竜に喰われる運命にある」
ライヤーは棒を呑んだように立ち竦んで凝視している。オウライカはそこまで話していなかったのか、と苦笑した。
やっぱりあなたは最後まで一人で背負う気なんですね。
胸の蝶がずきりと痛んだ。
「なぜ……私を殺しに来た?」
「……」
「オウライカさんが殺せ、と命じたか」
ライヤーは答えない。廃虚からカークへ移した表情の読めない目で凝視したままだ。
「殺すより、攫えばいい」
「……」
「私を攫って『斎京』の竜に喰わせろ。そうすればオウライカさんは助かる」
どちらで喰われても同じことだ、そう嗤うカークにようやくライヤーが口を開く。
「『塔京』はどうするんです」
「滅びてもいいだろう」
こんな虚飾の愚かな都。
そう吐いたカークにライヤーがためらった顔になる。
「………殺したく、ない人達も居る」
「無理な話だ」
カークは切り捨てた。
「二つに一つしかない。オウライカさんを助けて『塔京』を見捨てるか」
振り返ってライヤーの顔を正面から見返す。
「オウライカさんを贄にして『塔京』を守るか」
「……も」
「え?」
風にライヤーの声が聞こえず眉を寄せると、ふいと近付いてきたライヤーが両手を伸ばしてきた。崖から突き落とされるのか、そう思ったけれど動かずに見上げると、そのまま静かに抱き込まれて、唇を重ねられる。
甘やかで温かなキス。
誰も与えてくれたことのないいたわりを満たした唇。
吐息を漏らしながら何度か重ねる。
どちらも、救う方法を、考えます。
「…ん?」
一旦離れた唇が低い声で囁いて、カークは目を開けた。自分を覗き込む相手の目に、猛々しい欲望を見てとって身体の奥が熱くなる。
「……無理だ」
冷笑したらまた口を塞がれた。そのまま深く貪られて、カークも目を閉じ首を引き寄せてライヤーの唇を味わった。
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