『闇を闇から』

segakiyui

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第4章

5.三人と四人(7)

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「……」
 檜垣が緩やかに目を伏せ、腕を組み、そろそろと背後にもたれた。
「檜垣…」
「教えてもらえませんか、檜垣さん」
 美並は相手の周囲に揺らめく黄色の炎を見つめた。
「なぜそこまで太田さんに怒ってるんですか?」
「…怒ってる?」
 檜垣が?
 有沢が困惑した顔になる。
「……………オカルト巫女ってニセもんばかりかと思ってたけど」
 やるじゃん、あんた。
 檜垣は冷笑した。
「あの場に……居た、のか」
 有沢が呆然とした顔で囁く。
「ガキんちょでしたけど」
「あの、中に」
「『飯島』さんは面倒見はよかったっすよ」
 檜垣は平然と嘯いた。
「でも太田さん刺したのは俺じゃないっすから」
「けれど、刺されることは、予想してた…?」
 有沢が苦い声で唸る。
「まあね。いろんな裏取引も知ってたし」
「お前が…『羽鳥』なのか…?」
 じわじわと暗い怒りを溜め込みながら有沢が体を起こす。
「お前が味方の顔をして、俺達を」
「誤解ですって」
 檜垣がひょいと肩をすくめる。
「俺がやったのは、言われた通りに太田さんのライターを受け取っただけ。その時一緒に落ちた記事、今更だけど、妹の顔が移った写真じゃむちゃくちゃできないでしょ」
「妹…?」
「大園ひろみ。俺は母親に引き取られたんで、檜垣になってますけど」
 血は繋がってる。
「………やめろって言われましたけどね。こんな奴らの仲間になってもいいことないぞって。仕事ドジして妹死なせた野郎、しかもほどほどに『飯島』さんと仲良くやってる腐った警官が、何説教してやがるって。俺もガキだったっすね」
 つまり、檜垣は昔太田が絡んだ事件の被害者家族で、太田を恨んでいた。『飯島』と一緒にうろうろしていたのを太田は見つけ、自分に責めもあることだからと有沢を追い払い、檜垣を『飯島』から切り離そうとしたということか。
「あいつはそのうちどこかで吐く、特に有沢さんには要注意、そういうことで太田さんを始末しようということになったみたいだけど」
 俺は知らねえっす。
「そういうのに『羽鳥』さんは下っ端を関わらせねえから」
「『羽鳥』……『飯島』が『羽鳥』なのか」
 のっそりと立ち上がった有沢に檜垣は薄笑いする。
「そうっすよ。けど、あんたには手を出せない」
 俺は犯罪を犯しちゃいない。『飯島』が『羽鳥』だという証拠もない。
「ライターを盗ったじゃないか」
「違いますって。受け取っただけ。出したのは太田さんすよ」
 まあどっちでももう証明はできないっすけど。
「部屋にライターを戻したのは」
「ああ、あの時太田さんの下で働いていたヤツ……でももう警察辞めてクニ帰ってます」
 だからさ、もう諦めて。
「俺と一緒に真崎大輔の方、やりましょう、有沢さん」
 檜垣がうっそりと顔を上げて笑った。
「残った短い命、何かの結果を残しとかないと、意味ない………っぐ!」
 有沢の一撃は檜垣の顔をまともに捉えた。椅子から檜垣が吹っ飛び、壁に叩きつけられ崩れ落ちる。
「……伊吹さん…」
 掠れた声が、殴られた檜垣を伊吹に見せまいとするように、背中を向けた有沢から響いた。
「俺は今」
 泣いていいのか、怒っていいのか、わかりません。
「太田さんを信じる方が正しいのか、信じない方が正しいのか」
 そもそも……正義なんて、この世界にあるのかどうか。
「信頼、なんて、どこに、あるのか」
 この世界は、ほんとに生きるに価するんですか。
 滲んだ声が呻くように尋ねた。

 檜垣の犯罪は立証されない。
 『飯島』が『羽鳥』だということもまた。
 静まり返った部屋の中で、有沢は無言で目を閉じている。
 自分の体の中に広がる病巣と同じものが、自分の属する組織の中にも広がっていると理解した有沢は、流れ出た鼻血をハンカチで押さえつつ、居直ったように床に座り込んでいる檜垣に目もくれない。伊吹に問うて、その答えを求め切らないまま椅子に座り、そのまま小一時間が経過している。
「……檜垣さん」
 犯罪者にさん付けっすか、お優しいこったね、オカルト巫女さん。
 檜垣は美並の声にくつくつ嗤った。
「もう一つお尋ねしていいですか」
「いいっすよ」
 もう隠してることはねえし。
「そうですか?」
 美並は静かに続けた。
「じゃあ教えて下さい。なぜ、あなたは警官になったんですか?」
「え?」
 一瞬瞳が揺らいだ。
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