353 / 517
第4章
8.ワイヤード(11)
恵子には美並のジーパンとシャツを与えて、タクシーで放り出した。
「いやよ、こんな夜にどうやって帰れっていうの」
「警察の方が安心ですか」
「……いやだわ、こんなの、趣味も違うし、サイズも」
ほらここのところがきついし。
胸と腰を指差す恵子に、
「着てこられたものは焼却炉に回しますが、何か?」
「ちょっと」
「その服も好きなように扱ってかまいませんよ」
「あなた」
一体何様のつもりよ。
恵子は再び唇を尖らせる。
シャワーで洗い流された口に新しく引かれた紅の色は鮮やかすぎて、薄白くなった顔色に浮いて見えた。
「何様でもないですね」
ただなりふり構わずというところです。
冷ややかに応じてやると、あら、と恵子は目を見開いて、微笑んだ。
「大輔が気にするのもわかるわね。あなた京ちゃんに似てるわ」
「…」
「大輔と張り合う時の京ちゃんに。屈しそうで屈しない、追い詰めて勝利を確信した最後の瞬間に噛みつかれそうでゾクゾクするって。わかるわね」
趣味が悪い男よ、と恵子は掠れた声で嗤った。
「寝物語に、私に抱いてる男のことを話すのよ」
くつくつ、と今まで聞いたことがないしわがれた声が響いた。
「殺してやりたいと思うのも飽きたわ」
瞬きをして、きつそうな胸を無理矢理シャツに押し詰めてボタンを止める。
「子どもの事、聞いた?」
「いえ」
「二人居るでしょ。どっちも大輔の子どもじゃないわよ」
「……」
「一人は誰か知らないわ、大輔が連れてきた仲間って人」
品が良さそうな穏やかそうな男だったけど。
「女をモノ扱いするのに慣れてた男だった」
恵子はジーンズのチャックを弄った。
「セックスは楽しかったけど、二度とはごめんね。女が惨めになるような抱き方しかできない男」
「もう一人は」
その答えがうっすらと透けて見える。
「孝」
大輔と結婚して、孝と別れて。
「街へ出た孝が、誰でも寝てるって聞いたから」
歪んだ笑みを浮かべて恵子は美並を見返した。
「試したの、うまくなってるか」
男が惨めになるような抱き方。
恵子がさっき口にしたことばが、立場を変えてそのまま鳴り響いた気がした。
「うまかったわよ、夢中になった。何度でも繰り返したかった。夢中になって、夢中にさせたくて、大輔をまねたの、孝ならきっと京ちゃんと同じぐらい悦ぶんじゃないかって」
ひどいことを。
一瞬、ことばが出なかった。
「悦んだわよ、気が狂ったみたいに……叫んだの、大ちゃん、もっと、って」
「、」
「大ちゃん、もっと、って」
繰り返した恵子の瞳が真っ黒に光を吸う。
「京ちゃんも同じ。何度も聞いたわ、悲鳴みたいに叫んでるのを。気持ちよさそうに貫かれて、喘ぎながら何度も何度も駆け上がって、汚した布団の中で薔薇色の体して眠ってるのを見て、ずっと欲しかった」
綺麗だった。涙にまみれて、汗に濡れて。
「伊吹さん」
恵子が薄笑いする。
「あなたが知ってる京ちゃんは、どんな男なの」
私が見たのと同じ、大輔に抱かれてよがってる男じゃないの。
「誰にでも体を重ねて、誰にでも気持ちよくなって、その底にはあの男しか入ってなくて」
それとも、そんなところまでも抱いてないかしら。
「京ちゃんが我を忘れるほども、満たしてあげてないんじゃないの」
恵子は唇を歪める。
「だから、こんなにあっさりと私を迎え入れるのよ」
見せてあげたかったわ、玄関でどんな顔して私の唇を待ってたか。
「ねっからの淫乱よ、あの子は」
抱かれていないとコワレルだけなの。
「孝もそう」
私でなくても、大輔を思わせる誰かに抱かれてさえいればよかった。
「……孝を殺したかったのは、私よ」
言い捨てて、恵子は美並の前を通り過ぎた。
「いやよ、こんな夜にどうやって帰れっていうの」
「警察の方が安心ですか」
「……いやだわ、こんなの、趣味も違うし、サイズも」
ほらここのところがきついし。
胸と腰を指差す恵子に、
「着てこられたものは焼却炉に回しますが、何か?」
「ちょっと」
「その服も好きなように扱ってかまいませんよ」
「あなた」
一体何様のつもりよ。
恵子は再び唇を尖らせる。
シャワーで洗い流された口に新しく引かれた紅の色は鮮やかすぎて、薄白くなった顔色に浮いて見えた。
「何様でもないですね」
ただなりふり構わずというところです。
冷ややかに応じてやると、あら、と恵子は目を見開いて、微笑んだ。
「大輔が気にするのもわかるわね。あなた京ちゃんに似てるわ」
「…」
「大輔と張り合う時の京ちゃんに。屈しそうで屈しない、追い詰めて勝利を確信した最後の瞬間に噛みつかれそうでゾクゾクするって。わかるわね」
趣味が悪い男よ、と恵子は掠れた声で嗤った。
「寝物語に、私に抱いてる男のことを話すのよ」
くつくつ、と今まで聞いたことがないしわがれた声が響いた。
「殺してやりたいと思うのも飽きたわ」
瞬きをして、きつそうな胸を無理矢理シャツに押し詰めてボタンを止める。
「子どもの事、聞いた?」
「いえ」
「二人居るでしょ。どっちも大輔の子どもじゃないわよ」
「……」
「一人は誰か知らないわ、大輔が連れてきた仲間って人」
品が良さそうな穏やかそうな男だったけど。
「女をモノ扱いするのに慣れてた男だった」
恵子はジーンズのチャックを弄った。
「セックスは楽しかったけど、二度とはごめんね。女が惨めになるような抱き方しかできない男」
「もう一人は」
その答えがうっすらと透けて見える。
「孝」
大輔と結婚して、孝と別れて。
「街へ出た孝が、誰でも寝てるって聞いたから」
歪んだ笑みを浮かべて恵子は美並を見返した。
「試したの、うまくなってるか」
男が惨めになるような抱き方。
恵子がさっき口にしたことばが、立場を変えてそのまま鳴り響いた気がした。
「うまかったわよ、夢中になった。何度でも繰り返したかった。夢中になって、夢中にさせたくて、大輔をまねたの、孝ならきっと京ちゃんと同じぐらい悦ぶんじゃないかって」
ひどいことを。
一瞬、ことばが出なかった。
「悦んだわよ、気が狂ったみたいに……叫んだの、大ちゃん、もっと、って」
「、」
「大ちゃん、もっと、って」
繰り返した恵子の瞳が真っ黒に光を吸う。
「京ちゃんも同じ。何度も聞いたわ、悲鳴みたいに叫んでるのを。気持ちよさそうに貫かれて、喘ぎながら何度も何度も駆け上がって、汚した布団の中で薔薇色の体して眠ってるのを見て、ずっと欲しかった」
綺麗だった。涙にまみれて、汗に濡れて。
「伊吹さん」
恵子が薄笑いする。
「あなたが知ってる京ちゃんは、どんな男なの」
私が見たのと同じ、大輔に抱かれてよがってる男じゃないの。
「誰にでも体を重ねて、誰にでも気持ちよくなって、その底にはあの男しか入ってなくて」
それとも、そんなところまでも抱いてないかしら。
「京ちゃんが我を忘れるほども、満たしてあげてないんじゃないの」
恵子は唇を歪める。
「だから、こんなにあっさりと私を迎え入れるのよ」
見せてあげたかったわ、玄関でどんな顔して私の唇を待ってたか。
「ねっからの淫乱よ、あの子は」
抱かれていないとコワレルだけなの。
「孝もそう」
私でなくても、大輔を思わせる誰かに抱かれてさえいればよかった。
「……孝を殺したかったのは、私よ」
言い捨てて、恵子は美並の前を通り過ぎた。
あなたにおすすめの小説
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ソロキャンプと男と女と
狭山雪菜
恋愛
篠原匠は、ソロキャンプのTV特集を見てキャンプをしたくなり、初心者歓迎の有名なキャンプ場での平日限定のツアーに応募した。
しかし、当時相部屋となったのは男の人で、よく見たら自分の性別が男としてツアーに応募している事に気がついた。
とりあえず黙っていようと、思っていたのだが…?
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
生徒会の期間限定雑用係 ~庶民の私が王子に囮役としてスカウトされたら、学園の事件に巻き込まれました~
piyo
恋愛
平凡な庶民の少女クィアシーナは、フォボロス学園への転校初日、いきなりこの国の第二王子にして生徒会長ダンテに目をつけられる。
彼が求めたのは、生徒会での“囮役”。
学園で起きているある事件のためだった。
褒美につられて引き受けたものの、
小さないやがらせから王位継承問題まで巻き込まれていき――。
鋭すぎるツッコミを武器に、美形の生徒会の仲間たちと奮闘する庶民女子。
これは、無自覚な恋を抱えながら学園の事件に首を突っ込んでいく少女の物語。
※全128話
前半ラブコメ、後半第二章以降シリアスの三部構成です。
※「私にキスしたのは誰ですか?」と同じ世界感ですが、単品で読めます。
※アルファポリス先行で他サイトにも掲載中
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。