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第4章
10.ホール・カード(5)
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自分には人にはない特殊な感覚がある。
それは苦痛をもたらしてきたけれど、どこかでそれでも自負があったのかもしれない、能力を使うことによる優越感。
けれど真崎はどれほど美並が向かい合っても「足りない」と訴えてくる。
美並が、足りない。
それはきっと、真崎にしてみれば、美並にもっと側に居てほしいということだったのだろうけど、美並の心はこう聞いていた、お前の存在では真崎の孤独を満たせない、と。
ふいに、目の前の視界に、はらはらと白い花びらが散るのが見えた。
現実ではない、それはいつも感じる、雪の上に落ちた山椿の光景だ。
真白に積る雪、混じることなく死を宿して紅を落とす花、一つ。
繰り返し見えたそれは、今までずっと自分だった。
けれど今感じる光景は、紅に傷ついた真崎の心に降り落ちる白い花びらとしての自分。
隠せるわけではない、覆いきれるわけでもない、それでも傷みに満ちる赤とめったに出会わぬ花が自らの身を削ぎ落として辿りつく、地上。
なるほど足りない。
美並の存在はあまりにも軽く、あまりにも無意味で、あまりにも儚いものだろう。
雪に埋まる方が紅の花は美しくあり、凍りついていくのも死にかけている身では容易いのかもしれない。
美並は足りない。
真崎の傷みを満たすには、足りない。
けれど。
「……惚れて、ます」
ぼそりと呟いた自分の声が掠れていた。
そうだ、惚れている、身も世もあらぬほど、一世一代、その相手に足りないと詰られる傷みに、自分を曲げて誰かを利用しようとするほどに。
「…なんだ」
くっ、と嗤った。
「怖かっただけか」
真崎を失いたくないから。
「ふざけてんな」
美並はたまたま能力で真崎の内側へ入りやすかっただけだ。そこで得た信頼と好意を、今度は外に出てきた真崎からは得られないだろうと、いつかの明の予言に重ねて怯えているだけだ。
「失うも何も」
まだ何も得てないじゃないか、真崎を。
ごくり、とコーヒーを飲み下した。
苦い、ぬるい、香りがなくなってる、けれど喉の渇きを少しは癒す。
真崎にとっての美並の存在は、今その程度なのだろう。
「ゼロより少しはましってか」
いい加減にしろ。
自分を叱咤して、空のカップを置き、着替えにかかった。そっと丁寧に置いておいた指輪を鎖から外して指にはめる。
美しいアメジストの紫を眺めながら自覚する。
そうだ、美並は怖かっただけだ、真崎を失うのが。
けれど本当は、まだ「本当の真崎」に出逢い始めたばかり、まだ何も得てはいないのだ。
癒そうなんておこがましい。慰めようなんて傲慢だ。役立とうなんてどこの何様。
「何が、できる?」
美並は今何ができるだろう。
「私は何だ?」
今、美並は真崎にとってどういう存在なのか、はっきりさせておこう。
指輪を返せと言われるならそれでいい。
たとえどう扱われようと、まずそこから始めよう。
鏡を覗き込むと、さっきより覇気の出た目が強く輝いて見返す。
顔を洗い直し、化粧を始める、いつもより気をつけて、自分の一番気に入っている顔に。口紅は薄紅、全体に薄め、けど、何度も見直して、自分が一番好きな表情を作る。
「よし」
にやり、と零れた笑みは、今まで自分で見たことのない不敵さで、思わず笑う。
明、信じられる?
バッグを手に玄関を出ながら、ふと弟に連絡を入れたくなった。
私、初めて自分で誰かを欲しいと思っている。
初めて、自分で誰かを手に入れようとしているよ。
自分が足りないことも、奇妙な力のことも、全部全部抱えて晒して、今このままの、私で。
真崎京介を、手に入れたいんだ、明。
それは苦痛をもたらしてきたけれど、どこかでそれでも自負があったのかもしれない、能力を使うことによる優越感。
けれど真崎はどれほど美並が向かい合っても「足りない」と訴えてくる。
美並が、足りない。
それはきっと、真崎にしてみれば、美並にもっと側に居てほしいということだったのだろうけど、美並の心はこう聞いていた、お前の存在では真崎の孤独を満たせない、と。
ふいに、目の前の視界に、はらはらと白い花びらが散るのが見えた。
現実ではない、それはいつも感じる、雪の上に落ちた山椿の光景だ。
真白に積る雪、混じることなく死を宿して紅を落とす花、一つ。
繰り返し見えたそれは、今までずっと自分だった。
けれど今感じる光景は、紅に傷ついた真崎の心に降り落ちる白い花びらとしての自分。
隠せるわけではない、覆いきれるわけでもない、それでも傷みに満ちる赤とめったに出会わぬ花が自らの身を削ぎ落として辿りつく、地上。
なるほど足りない。
美並の存在はあまりにも軽く、あまりにも無意味で、あまりにも儚いものだろう。
雪に埋まる方が紅の花は美しくあり、凍りついていくのも死にかけている身では容易いのかもしれない。
美並は足りない。
真崎の傷みを満たすには、足りない。
けれど。
「……惚れて、ます」
ぼそりと呟いた自分の声が掠れていた。
そうだ、惚れている、身も世もあらぬほど、一世一代、その相手に足りないと詰られる傷みに、自分を曲げて誰かを利用しようとするほどに。
「…なんだ」
くっ、と嗤った。
「怖かっただけか」
真崎を失いたくないから。
「ふざけてんな」
美並はたまたま能力で真崎の内側へ入りやすかっただけだ。そこで得た信頼と好意を、今度は外に出てきた真崎からは得られないだろうと、いつかの明の予言に重ねて怯えているだけだ。
「失うも何も」
まだ何も得てないじゃないか、真崎を。
ごくり、とコーヒーを飲み下した。
苦い、ぬるい、香りがなくなってる、けれど喉の渇きを少しは癒す。
真崎にとっての美並の存在は、今その程度なのだろう。
「ゼロより少しはましってか」
いい加減にしろ。
自分を叱咤して、空のカップを置き、着替えにかかった。そっと丁寧に置いておいた指輪を鎖から外して指にはめる。
美しいアメジストの紫を眺めながら自覚する。
そうだ、美並は怖かっただけだ、真崎を失うのが。
けれど本当は、まだ「本当の真崎」に出逢い始めたばかり、まだ何も得てはいないのだ。
癒そうなんておこがましい。慰めようなんて傲慢だ。役立とうなんてどこの何様。
「何が、できる?」
美並は今何ができるだろう。
「私は何だ?」
今、美並は真崎にとってどういう存在なのか、はっきりさせておこう。
指輪を返せと言われるならそれでいい。
たとえどう扱われようと、まずそこから始めよう。
鏡を覗き込むと、さっきより覇気の出た目が強く輝いて見返す。
顔を洗い直し、化粧を始める、いつもより気をつけて、自分の一番気に入っている顔に。口紅は薄紅、全体に薄め、けど、何度も見直して、自分が一番好きな表情を作る。
「よし」
にやり、と零れた笑みは、今まで自分で見たことのない不敵さで、思わず笑う。
明、信じられる?
バッグを手に玄関を出ながら、ふと弟に連絡を入れたくなった。
私、初めて自分で誰かを欲しいと思っている。
初めて、自分で誰かを手に入れようとしているよ。
自分が足りないことも、奇妙な力のことも、全部全部抱えて晒して、今このままの、私で。
真崎京介を、手に入れたいんだ、明。
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