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第4章
11.六人と七人(5)
一瞬、『村野』を出た直後にかかってきた真崎の連絡が実はフェイクで、真崎本人が間近まできていた、『村野』から密かに自分の後をつけていたのかと思った。
だが、腕を掴んだ掌は真崎より大きくがっしりしている。掴まれた感覚にも覚えがあった。
「伊吹さん」
「…有沢さん」
「…どちらへ?」
鋭い視線が美並の全身を素早く検分する。尋ねながら、確信している顔つきだ。
「人と会う約束があって」
「これから…いや、会って来られたのか」
有沢は苦い笑みを浮かべた。
「もう既に耳にされている表情ですね」
「……真崎大輔と桜木通販に手が入る、と聞きました」
「…」
有沢が静かに腕を離す。歩道の信号は赤になり、車の音が響き始める。高速ですぐ側を走り抜けたバイクの風にスカートを煽られながら、美並はじっと有沢を眺めた。
「まだ動かない、とおっしゃっていたようですが」
「事情が変わりました」
有沢は暗く笑った。
「あなたもご存知の大人の事情という奴です」
「恵子さんですか」
横断歩道前に立ち止まる二人に周囲の視線がチラチラと投げられる。
「…それだけじゃない」
横断歩道が青に変わる。側にいた人々が名残惜しげに離れて行き、道路を渡ってくる新たな野次馬が辿り着く前に、有沢は顔を歪めた。
「社会正義の名の下に、喜田村会長が彼を横領の罪で内部告発しました」
「…横領?」
「『ニット・キャンパス』に関わる市の助成金を個人流用していたのを発見した、と」
美並は有沢の顔に浮かんだ苦悩に気づいた。
「……切られそう、なんですね?」
「ええ」
「『羽鳥』のことも」
「ええ」
「太田さんのことも全部」
「ええ」
「あの人一人に背負わせられる?」
「ええ!」
有沢は苦しそうに唸った。
「……思っていたよりも深く、警察内部に影響力があるようで」
自嘲する有沢の目がますます暗い。
「…真崎大輔は、学生時代から行っていた暴行恐喝脅迫傷害、それに家族へのDVによる人権侵害と傷害、『ニット・キャンパス』に関わる詐欺と横領容疑で逮捕されます。その先に追及は、及ばない…っ」
吐き捨てた口調の激しさに通りがかった女性が慌てて立ち去って行く。心配そうに美並を見遣ったが、苦しげに顔を背けて足を速める。
「……ああ、そういう、こと」
美並も察した。
『ハイウィンド・リール』に喜田村が居たのは偶然ではない。彼らもまた、大輔の恩恵に与っていたことがあるのだ。だからこそ、今回の動きが速くなる。自分達に事件の余波が及ばないうちに、少しでも早く、穢れを払いおとす必要がある。そして、その構造をなお深く掘り起こそうとする有沢を、放置もできなくなってきた。
「伊吹さんっ」
ふいにもう一度強い力で有沢は美並の腕を掴んだ。
「っ」
「力を貸してください!」
「どういうことですか」
「飯島のパソコンにはたくさんの画像が保存されていた」
有沢が体を近づける。
「あなたなら、何か読み取れるかもしない」
「有沢さん」
「あなたならこの先の道を見つけ出せるかもしれない」
「あり、さわさんっ」
腕が軋む。力一杯握りしめられて指先が痺れる。
だが、腕を掴んだ掌は真崎より大きくがっしりしている。掴まれた感覚にも覚えがあった。
「伊吹さん」
「…有沢さん」
「…どちらへ?」
鋭い視線が美並の全身を素早く検分する。尋ねながら、確信している顔つきだ。
「人と会う約束があって」
「これから…いや、会って来られたのか」
有沢は苦い笑みを浮かべた。
「もう既に耳にされている表情ですね」
「……真崎大輔と桜木通販に手が入る、と聞きました」
「…」
有沢が静かに腕を離す。歩道の信号は赤になり、車の音が響き始める。高速ですぐ側を走り抜けたバイクの風にスカートを煽られながら、美並はじっと有沢を眺めた。
「まだ動かない、とおっしゃっていたようですが」
「事情が変わりました」
有沢は暗く笑った。
「あなたもご存知の大人の事情という奴です」
「恵子さんですか」
横断歩道前に立ち止まる二人に周囲の視線がチラチラと投げられる。
「…それだけじゃない」
横断歩道が青に変わる。側にいた人々が名残惜しげに離れて行き、道路を渡ってくる新たな野次馬が辿り着く前に、有沢は顔を歪めた。
「社会正義の名の下に、喜田村会長が彼を横領の罪で内部告発しました」
「…横領?」
「『ニット・キャンパス』に関わる市の助成金を個人流用していたのを発見した、と」
美並は有沢の顔に浮かんだ苦悩に気づいた。
「……切られそう、なんですね?」
「ええ」
「『羽鳥』のことも」
「ええ」
「太田さんのことも全部」
「ええ」
「あの人一人に背負わせられる?」
「ええ!」
有沢は苦しそうに唸った。
「……思っていたよりも深く、警察内部に影響力があるようで」
自嘲する有沢の目がますます暗い。
「…真崎大輔は、学生時代から行っていた暴行恐喝脅迫傷害、それに家族へのDVによる人権侵害と傷害、『ニット・キャンパス』に関わる詐欺と横領容疑で逮捕されます。その先に追及は、及ばない…っ」
吐き捨てた口調の激しさに通りがかった女性が慌てて立ち去って行く。心配そうに美並を見遣ったが、苦しげに顔を背けて足を速める。
「……ああ、そういう、こと」
美並も察した。
『ハイウィンド・リール』に喜田村が居たのは偶然ではない。彼らもまた、大輔の恩恵に与っていたことがあるのだ。だからこそ、今回の動きが速くなる。自分達に事件の余波が及ばないうちに、少しでも早く、穢れを払いおとす必要がある。そして、その構造をなお深く掘り起こそうとする有沢を、放置もできなくなってきた。
「伊吹さんっ」
ふいにもう一度強い力で有沢は美並の腕を掴んだ。
「っ」
「力を貸してください!」
「どういうことですか」
「飯島のパソコンにはたくさんの画像が保存されていた」
有沢が体を近づける。
「あなたなら、何か読み取れるかもしない」
「有沢さん」
「あなたならこの先の道を見つけ出せるかもしれない」
「あり、さわさんっ」
腕が軋む。力一杯握りしめられて指先が痺れる。
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