『闇を闇から』

segakiyui

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第5章

3.爪と牙(5)

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「何だ」
「今お聞きした内容は、一介の人事が把握するには詳細すぎませんか?」
「……どう言う意味だ」
「なぜ、赤来課長の幼少期のことまで調べたんですか、高山課長」
「…」
「あなたもまた、赤来課長に何かを感じておられたから、調べられたのではないですか?」
 高山はのっそりと立った。
「茶を淹れ直す。紅茶に替える。苦手なら言え」
「大丈夫です」「いただきます」
「それならこっちへ来い。そこじゃパソコンが見えん」
 京介は伊吹を見やった。伊吹も首を傾げている。
「飲まない気か」
「飲みます」「行きます」
 慌てて二人で隣のリビングダイニングに入った。
 一人暮らしにしては広いテーブルの片隅にデスクトップ型のパソコンが載せられている。
 確か奥さんは病気で亡くなって、それから独身だったよね。子どもさん達も独立して、離れた場所に住んでるはず。
 京介は頭の中の情報を当たったが、椅子の一つにシンプルなエプロンがかかっているのに目を留めた。高山の好みとは合いそうにない。全くの一人というわけでもないらしい。
 高山は意外に巧みに缶の紅茶を振る舞ってくれた。それぞれの席にカップを置く。自然と席を指定した形になるのは、さすが人を動かすことに長けている遣り口だ。
「緑川事件の際、警察に渡る前にパソコンを一部処分した。元々緑川の個人所有のものだったから会社のリストには入っていなかった。中に入ってた映像もろとも、ここにある」
 さらりととんでもないことを口にする。
「事件が事件だけに、後釜が困った人間じゃ先行きが心配だ。社長に黙って興信所で赤来のことを調べた。それがさっきの内容の一部だ」
 パソコンを立ち上げ、ファイルを確認する。
「もう一つ。赤来の新人研修を受け持った時、緑川を『数字に厳しそう』だと表現した。緑川は緩い。社内も社外もそう思っている。だが、実は緑川は数字にも仕事にも細かい人間で、それを知っているのは上層部だけだ。なのに赤来はミスをしないと確約し、緑川の本質を言い当てた。調べていなければできない返答だ。新人研修で赤来が見せたのは、そんなことに気づきそうもないお調子者で元気のいい男だ。妙だろう」
 ファイルを見つけたらしい。京介と伊吹に視線を流し、一瞬ためらった後に開く。
「不愉快な映像だ」
『あ…っあああっ』
 高山の声に被さるように切なげな声が響いてぎょっとした。
「終わったら呼べ。二階に居る」
 気遣ってくれたのか、高山は自分のカップを持って姿を消す。
「京介……」
「うん…」
 思わず寄り添ってくれる伊吹の手を握った。
「……孝だ…」
 どこのホテルだろう。奇妙なものが並んでいる。手摺や柱、拘束具や紐鎖や鏡。ベッドもあるが、今嬌声を上げながら背後から貫かれている孝は、木の箱のようなものを抱え込むように縛られていて、しかも明らかに悦びに浸っている。
『あああ…い、いい…っ…もっと……もっと……っ』
「この男が…緑川課長」
 京介は孝の前に股間を晒して近寄っていく男をのろのろと指差した。
『お願い……っ…もっと……』
 喘ぐ声に背中を向けていた男が振り返って笑う。
『見ろよ、こいつ、際限なしだぜ』
 顔は画面から外されている。けれど、誰が聞いても声でわかる、大輔だ。
『あっあっ……イク…っ…あぐっ』
 緑川が孝の口に突っ込んだ。波打った体が大きく跳ねる。吠える声が交錯し、真っ赤になった顔で嬉しそうに後退った緑川が握ったものを振り回す。飛び散る液体に孝が喘ぎながらもう一度、高く声を響かせる。背後から伸びた手に首を掴まれながら、
『きょお……すけ……えええっ…!』
「っっ」
 ふいに吐き気が襲った。数ヶ月感じなかった、体を裏返しにするような不快感。
「課長!」
 とっさに伊吹が腕を掴んで引っ張り、いつの間に見つけていたのかトイレに突っ込んでくれた。かろうじて間に合って咽せ返りながら、せっかく楽しく伊吹と食べた朝食を全て吐き戻す。
「く、う、うう、っ」
 何が間違っていた。
 どこから狂っていた。
 咳き込み空えずきを繰り返し、溢れ出た涙を堪えきれなくて声を上げた。
「たか…しっ……孝……ったか……!」
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