421 / 510
第5章
3.爪と牙(5)
しおりを挟む
「何だ」
「今お聞きした内容は、一介の人事が把握するには詳細すぎませんか?」
「……どう言う意味だ」
「なぜ、赤来課長の幼少期のことまで調べたんですか、高山課長」
「…」
「あなたもまた、赤来課長に何かを感じておられたから、調べられたのではないですか?」
高山はのっそりと立った。
「茶を淹れ直す。紅茶に替える。苦手なら言え」
「大丈夫です」「いただきます」
「それならこっちへ来い。そこじゃパソコンが見えん」
京介は伊吹を見やった。伊吹も首を傾げている。
「飲まない気か」
「飲みます」「行きます」
慌てて二人で隣のリビングダイニングに入った。
一人暮らしにしては広いテーブルの片隅にデスクトップ型のパソコンが載せられている。
確か奥さんは病気で亡くなって、それから独身だったよね。子どもさん達も独立して、離れた場所に住んでるはず。
京介は頭の中の情報を当たったが、椅子の一つにシンプルなエプロンがかかっているのに目を留めた。高山の好みとは合いそうにない。全くの一人というわけでもないらしい。
高山は意外に巧みに缶の紅茶を振る舞ってくれた。それぞれの席にカップを置く。自然と席を指定した形になるのは、さすが人を動かすことに長けている遣り口だ。
「緑川事件の際、警察に渡る前にパソコンを一部処分した。元々緑川の個人所有のものだったから会社のリストには入っていなかった。中に入ってた映像もろとも、ここにある」
さらりととんでもないことを口にする。
「事件が事件だけに、後釜が困った人間じゃ先行きが心配だ。社長に黙って興信所で赤来のことを調べた。それがさっきの内容の一部だ」
パソコンを立ち上げ、ファイルを確認する。
「もう一つ。赤来の新人研修を受け持った時、緑川を『数字に厳しそう』だと表現した。緑川は緩い。社内も社外もそう思っている。だが、実は緑川は数字にも仕事にも細かい人間で、それを知っているのは上層部だけだ。なのに赤来はミスをしないと確約し、緑川の本質を言い当てた。調べていなければできない返答だ。新人研修で赤来が見せたのは、そんなことに気づきそうもないお調子者で元気のいい男だ。妙だろう」
ファイルを見つけたらしい。京介と伊吹に視線を流し、一瞬ためらった後に開く。
「不愉快な映像だ」
『あ…っあああっ』
高山の声に被さるように切なげな声が響いてぎょっとした。
「終わったら呼べ。二階に居る」
気遣ってくれたのか、高山は自分のカップを持って姿を消す。
「京介……」
「うん…」
思わず寄り添ってくれる伊吹の手を握った。
「……孝だ…」
どこのホテルだろう。奇妙なものが並んでいる。手摺や柱、拘束具や紐鎖や鏡。ベッドもあるが、今嬌声を上げながら背後から貫かれている孝は、木の箱のようなものを抱え込むように縛られていて、しかも明らかに悦びに浸っている。
『あああ…い、いい…っ…もっと……もっと……っ』
「この男が…緑川課長」
京介は孝の前に股間を晒して近寄っていく男をのろのろと指差した。
『お願い……っ…もっと……』
喘ぐ声に背中を向けていた男が振り返って笑う。
『見ろよ、こいつ、際限なしだぜ』
顔は画面から外されている。けれど、誰が聞いても声でわかる、大輔だ。
『あっあっ……イク…っ…あぐっ』
緑川が孝の口に突っ込んだ。波打った体が大きく跳ねる。吠える声が交錯し、真っ赤になった顔で嬉しそうに後退った緑川が握ったものを振り回す。飛び散る液体に孝が喘ぎながらもう一度、高く声を響かせる。背後から伸びた手に首を掴まれながら、
『きょお……すけ……えええっ…!』
「っっ」
ふいに吐き気が襲った。数ヶ月感じなかった、体を裏返しにするような不快感。
「課長!」
とっさに伊吹が腕を掴んで引っ張り、いつの間に見つけていたのかトイレに突っ込んでくれた。かろうじて間に合って咽せ返りながら、せっかく楽しく伊吹と食べた朝食を全て吐き戻す。
「く、う、うう、っ」
何が間違っていた。
どこから狂っていた。
咳き込み空えずきを繰り返し、溢れ出た涙を堪えきれなくて声を上げた。
「たか…しっ……孝……ったか……!」
「今お聞きした内容は、一介の人事が把握するには詳細すぎませんか?」
「……どう言う意味だ」
「なぜ、赤来課長の幼少期のことまで調べたんですか、高山課長」
「…」
「あなたもまた、赤来課長に何かを感じておられたから、調べられたのではないですか?」
高山はのっそりと立った。
「茶を淹れ直す。紅茶に替える。苦手なら言え」
「大丈夫です」「いただきます」
「それならこっちへ来い。そこじゃパソコンが見えん」
京介は伊吹を見やった。伊吹も首を傾げている。
「飲まない気か」
「飲みます」「行きます」
慌てて二人で隣のリビングダイニングに入った。
一人暮らしにしては広いテーブルの片隅にデスクトップ型のパソコンが載せられている。
確か奥さんは病気で亡くなって、それから独身だったよね。子どもさん達も独立して、離れた場所に住んでるはず。
京介は頭の中の情報を当たったが、椅子の一つにシンプルなエプロンがかかっているのに目を留めた。高山の好みとは合いそうにない。全くの一人というわけでもないらしい。
高山は意外に巧みに缶の紅茶を振る舞ってくれた。それぞれの席にカップを置く。自然と席を指定した形になるのは、さすが人を動かすことに長けている遣り口だ。
「緑川事件の際、警察に渡る前にパソコンを一部処分した。元々緑川の個人所有のものだったから会社のリストには入っていなかった。中に入ってた映像もろとも、ここにある」
さらりととんでもないことを口にする。
「事件が事件だけに、後釜が困った人間じゃ先行きが心配だ。社長に黙って興信所で赤来のことを調べた。それがさっきの内容の一部だ」
パソコンを立ち上げ、ファイルを確認する。
「もう一つ。赤来の新人研修を受け持った時、緑川を『数字に厳しそう』だと表現した。緑川は緩い。社内も社外もそう思っている。だが、実は緑川は数字にも仕事にも細かい人間で、それを知っているのは上層部だけだ。なのに赤来はミスをしないと確約し、緑川の本質を言い当てた。調べていなければできない返答だ。新人研修で赤来が見せたのは、そんなことに気づきそうもないお調子者で元気のいい男だ。妙だろう」
ファイルを見つけたらしい。京介と伊吹に視線を流し、一瞬ためらった後に開く。
「不愉快な映像だ」
『あ…っあああっ』
高山の声に被さるように切なげな声が響いてぎょっとした。
「終わったら呼べ。二階に居る」
気遣ってくれたのか、高山は自分のカップを持って姿を消す。
「京介……」
「うん…」
思わず寄り添ってくれる伊吹の手を握った。
「……孝だ…」
どこのホテルだろう。奇妙なものが並んでいる。手摺や柱、拘束具や紐鎖や鏡。ベッドもあるが、今嬌声を上げながら背後から貫かれている孝は、木の箱のようなものを抱え込むように縛られていて、しかも明らかに悦びに浸っている。
『あああ…い、いい…っ…もっと……もっと……っ』
「この男が…緑川課長」
京介は孝の前に股間を晒して近寄っていく男をのろのろと指差した。
『お願い……っ…もっと……』
喘ぐ声に背中を向けていた男が振り返って笑う。
『見ろよ、こいつ、際限なしだぜ』
顔は画面から外されている。けれど、誰が聞いても声でわかる、大輔だ。
『あっあっ……イク…っ…あぐっ』
緑川が孝の口に突っ込んだ。波打った体が大きく跳ねる。吠える声が交錯し、真っ赤になった顔で嬉しそうに後退った緑川が握ったものを振り回す。飛び散る液体に孝が喘ぎながらもう一度、高く声を響かせる。背後から伸びた手に首を掴まれながら、
『きょお……すけ……えええっ…!』
「っっ」
ふいに吐き気が襲った。数ヶ月感じなかった、体を裏返しにするような不快感。
「課長!」
とっさに伊吹が腕を掴んで引っ張り、いつの間に見つけていたのかトイレに突っ込んでくれた。かろうじて間に合って咽せ返りながら、せっかく楽しく伊吹と食べた朝食を全て吐き戻す。
「く、う、うう、っ」
何が間違っていた。
どこから狂っていた。
咳き込み空えずきを繰り返し、溢れ出た涙を堪えきれなくて声を上げた。
「たか…しっ……孝……ったか……!」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う
ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身
大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。
会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮
「明日から俺の秘書な、よろしく」
経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。
鏑木 蓮 二十六歳独身
鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。
親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。
蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......
望月 楓 二十六歳独身
蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。
密かに美希に惚れていた。
蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。
蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。
「麗子、俺を好きになれ」
美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。
面倒見の良い頼れる存在である。
藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。
社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く
実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。
そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......
教師と生徒とアイツと俺と
本宮瑚子
恋愛
高校教師1年目、沢谷敬介。
教師という立場にありながら、一人の男としては屈折した感情を持て余す。
そんな敬介が、教師として男として、日に日に目で追ってしまうのは……、一人の女であり、生徒でもあった。
★教師×生徒のストーリーながら、中身は大人風味の恋愛仕立て。
★未成年による飲酒、喫煙の描写が含まれますが、あくまでストーリー上によるものであり、法令をお守り下さい。
★こちらの作品は、他サイトでも掲載中のものに、加筆・修正を加えたものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる