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第5章
5.過去からのトロフィ(3)
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「覚えておられますか、あのコンビニ」
「あの…って、あのコンビニですか」
驚きに尋ね返す。
「そうです、あなたを捕まえかけて、『羽鳥』を逃がしたあのコンビニ」
有沢が楽しそうに笑った。
「ホテルの近くのコンビニの店主は、あの時期に多発したコンビニ強盗事件に巻き込まれた一人だったんです。夫婦でやって来た店が、事件のせいで資金繰りができなくなって閉店した。その後、妻が亡くなって息子夫婦と同居して、もう一度コンビニを始めることになって、店番中心になった彼は、同じ目に遭うのは二度とごめんだと決めて、何をしたと思います?」
「……映像を残した…?」
「ええ」
息子夫婦に意味もないことをと詰られながら、コンビニに設置されたカメラの映像を日時を付けつつ保存し続けた、10年間。
「映像の中に、いつか『犯人』の姿が映るかもしれないと思って」
有沢はくすりと笑った。
「思わぬ収入源にもなったようですよ」
「え?」
「前の道を通り、コンビニを利用し、ホテルを利用する人間の姿が長期間保存されているとして、密かに名前が知れて、情報が欲しい人間が訪れるようになった。警察もまた情報提供をお願いしたことがあったそうです。私は知らなかったが、檜垣は聞いたことがあった」
その中に。
「あのDVDに該当する時間、『羽鳥』いや、赤来を含む数人がホテルに出入りしていたことが確認できました。今、それ以外の時間帯に『羽鳥』が出入りしたかどうか調べていますが、時間はかかります」
孝もまた、あのホテルで殺されていた。覚醒剤がらみか売春組織、裏社会に伸ばされた捜査の手は、おそらくは太田などの動きもあって、『羽鳥』からは巧みに逸らされ外されたのかも知れない。注目さえされなければ、『羽鳥』はどこにでもいる普通の会社員だ。勤務態度に問題もない、犯罪に関わるとも思えない。
微妙な物言いの理由はわかった。冤罪を起こしてはならないからだ。
「出入りした人間を特定し、裏を取っていますが、そこからでは赤来には辿り着かないでしょう。大輔を面に立たせて、自分は裏子に徹底していた節がある。不愉快な映像は男達の顔を画像処理されて欲しいものに与えられていたらしい。お互い疚しい身の上だ、まさか『原本』をそのまま残してはおかないだろうとは、素人集団の発想です。自分の保証のために、仲間の画像を確保しておく人間もいなかったようだ」
裏社会の人間なら、当然しているバックアップですが。
「だが、赤来を混ぜた写真を見せて、この中に一緒に居た男はいるか、と確認することはできます」
有沢の目が光った。
「記憶があやふやでも、思い出すのはいるでしょう、『その男』だ、と」
「では、その追加として」
美並はバッグからUSBを取り出した。
「同じホテルだと思います。緑川と孝さん、大輔さんが関わっていた映像があります。大輔さんの顔は映っていませんが、声で確認できるでしょう。他に幾つか赤来課長に関わる画像があるので、調べてもらえれば何か見つかるかも知れません」
「えええっ」
突然、ドアの外で耳を澄ませていたらしい檜垣が飛び込んで来た。
「そんなものをどこでっ」
オカルト巫女にしてもやりすぎだろっ。
摑みかかるように美並に迫るから、差し出した。
「檜垣っ」
「…緑川課長のPCから。でも」
どうして手に入れたかは話せません。
「聞きたい聞きたい、けど聞いちまうとあんたの信者になりそうだから聞かないっ!」
ひったくるように掴んだ檜垣がすぐに身を翻す。
「有沢さん、行って来ます!」
「頼む」
廊下を走る足音が遠ざかる。
その瞬間。
「あ」
思い出した。
「伊吹さん?」
問いかける有沢の声と重なる、もう一つの声。
伊吹ちゃん。
「……宇野さん…」
懐かしいような悲しいような、それもそのはず、記憶の中で笑いかける老婦人は、もうこの世には存在しない。
「あの…って、あのコンビニですか」
驚きに尋ね返す。
「そうです、あなたを捕まえかけて、『羽鳥』を逃がしたあのコンビニ」
有沢が楽しそうに笑った。
「ホテルの近くのコンビニの店主は、あの時期に多発したコンビニ強盗事件に巻き込まれた一人だったんです。夫婦でやって来た店が、事件のせいで資金繰りができなくなって閉店した。その後、妻が亡くなって息子夫婦と同居して、もう一度コンビニを始めることになって、店番中心になった彼は、同じ目に遭うのは二度とごめんだと決めて、何をしたと思います?」
「……映像を残した…?」
「ええ」
息子夫婦に意味もないことをと詰られながら、コンビニに設置されたカメラの映像を日時を付けつつ保存し続けた、10年間。
「映像の中に、いつか『犯人』の姿が映るかもしれないと思って」
有沢はくすりと笑った。
「思わぬ収入源にもなったようですよ」
「え?」
「前の道を通り、コンビニを利用し、ホテルを利用する人間の姿が長期間保存されているとして、密かに名前が知れて、情報が欲しい人間が訪れるようになった。警察もまた情報提供をお願いしたことがあったそうです。私は知らなかったが、檜垣は聞いたことがあった」
その中に。
「あのDVDに該当する時間、『羽鳥』いや、赤来を含む数人がホテルに出入りしていたことが確認できました。今、それ以外の時間帯に『羽鳥』が出入りしたかどうか調べていますが、時間はかかります」
孝もまた、あのホテルで殺されていた。覚醒剤がらみか売春組織、裏社会に伸ばされた捜査の手は、おそらくは太田などの動きもあって、『羽鳥』からは巧みに逸らされ外されたのかも知れない。注目さえされなければ、『羽鳥』はどこにでもいる普通の会社員だ。勤務態度に問題もない、犯罪に関わるとも思えない。
微妙な物言いの理由はわかった。冤罪を起こしてはならないからだ。
「出入りした人間を特定し、裏を取っていますが、そこからでは赤来には辿り着かないでしょう。大輔を面に立たせて、自分は裏子に徹底していた節がある。不愉快な映像は男達の顔を画像処理されて欲しいものに与えられていたらしい。お互い疚しい身の上だ、まさか『原本』をそのまま残してはおかないだろうとは、素人集団の発想です。自分の保証のために、仲間の画像を確保しておく人間もいなかったようだ」
裏社会の人間なら、当然しているバックアップですが。
「だが、赤来を混ぜた写真を見せて、この中に一緒に居た男はいるか、と確認することはできます」
有沢の目が光った。
「記憶があやふやでも、思い出すのはいるでしょう、『その男』だ、と」
「では、その追加として」
美並はバッグからUSBを取り出した。
「同じホテルだと思います。緑川と孝さん、大輔さんが関わっていた映像があります。大輔さんの顔は映っていませんが、声で確認できるでしょう。他に幾つか赤来課長に関わる画像があるので、調べてもらえれば何か見つかるかも知れません」
「えええっ」
突然、ドアの外で耳を澄ませていたらしい檜垣が飛び込んで来た。
「そんなものをどこでっ」
オカルト巫女にしてもやりすぎだろっ。
摑みかかるように美並に迫るから、差し出した。
「檜垣っ」
「…緑川課長のPCから。でも」
どうして手に入れたかは話せません。
「聞きたい聞きたい、けど聞いちまうとあんたの信者になりそうだから聞かないっ!」
ひったくるように掴んだ檜垣がすぐに身を翻す。
「有沢さん、行って来ます!」
「頼む」
廊下を走る足音が遠ざかる。
その瞬間。
「あ」
思い出した。
「伊吹さん?」
問いかける有沢の声と重なる、もう一つの声。
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「……宇野さん…」
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