『闇を闇から』

segakiyui

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第5章

8.ウォーク・イン・ポーカー(9)

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 温かなベッドで抱き合った後、甘くて柔らかい体をくれるのかと思ったら、丁寧に断られたばかりか、今夜はいいと言うまで駄目ですよ、なんて囁かれて、わくわくした。京介が触れるのではなく、伊吹がキスを始めてくれて、喉から耳も舐めてくれて、感覚が蕩け出して集まり出した頃、握っていてと言われて、ちょっとどきっとしたあたりで要注意だったのかも知れない。
 伊吹が実は密かにかなり怒っていた、とようやく気づいた。
 怪我をしてないからと言ったけれど信じてくれない。
 ベッドの中で、全部確かめてからねと言われて、握らされたまま身体中にキスと舌を這わされて、挙句にうつ伏せになってなんて命じられて。
 背中に脇腹に指と舌が触れていく。胸を指で摘まれ背中を舐められ、崩れて突き上げてしまう。
 そんなところに傷を負うはずないじゃない。
 堪えて堪えて、とんでもないところに近づいていく温かな舌に視界が眩む。
 わかりませんよ。
 静かな伊吹の声は股間から響く。吸い付かれて舌を伸ばされる。その気配だけで限界を超えてしまって、外した掌に溢れ落ちる。
 そんなことをするなら二度と触れませんよ。
 本気に聞こえた。
 慌てて握り締める、滑った感触が背後から伸びた指先に強められる。
 いやだ、入りたい、こんな風に弄ばれて繰り返し極めるだけなんて、もう嫌だ。
 そう思った矢先、そっと不安定な姿勢から横たえられて、背後に寄り添ってくれた体が、柔らかな丸みと温かみで抱きしめてくれた。
「は…」
 ほっとする。と同時に背中に舌と違った濡れた感触があって、どきりとした。
「美並?」
「…ごめんなさい」
「…あ…うん…」
「ごめんなさい」
「うん、さすがにちょっと今のは僕、しんどくて」
「ごめんなさい」
「あ…で、でも、あの、もうちょっとやり方を変えてくれたら、好きになったりするかもだし」
 繰り返される謝罪が涙で滲んでいると気づいてうろたえる。
「ごめんなさい」
「いやあの僕だってちょっと気持ち良かったところもあって」
 何を言ってるんだろう、僕。もっといじめて欲しいって聞こえるよねこれは。
 振り向こうとしたら、きゅむと握られ抱きつかれて固まる。まだ熱を保っているのは、伊吹の中に入りたいからで、それを思うだけで掌を押し返すのは、散々煽られてもまだ終わっていないと主張する体で。
「…美並」
 ごくりと唾を呑む。
「もう許してくれる…? ………僕、入りたい」
「……許せないのは、私です」
「…はい?」
 思ってもいなかった答えが返って慌てて指を外して向きを変えた。
「…美並…」
 瞳いっぱいの涙。
「…今日を、最後にした方が良いのかなって、思って」
 少し微笑む。
 溢れた光に、何を謝られていたのか、ようやく気づいた。
 冷たいことば、冷たい対応、快楽ばかりを追うような抱き方、考えてみれば、京介が嫌がるやり方ばかりを選んでいた。
「なのに、ごめんなさい、未練があって、手放せなかった」
「美並…」
 思わず引き寄せ抱き締める。
 冷汗が出て一気に萎えた。
 阿倍野の話を美並は自分のせいだと考えていた。『羽鳥』を追い詰め切れず、京介を事件に巻き込んだ自分がまずいと考えていた、それを今の今まで気づかなかった。
「美並、違う、何言ってるの」
「ごめんなさい、私、気持ちよくさえしてあげられない」
「違う、違う、美並、違うから」
 腕の中でくしゅくしゅと潰れ薄まり消えていきそうな気配にぞっとした。
「僕は大丈夫だった、僕は」
 ここで間違えるわけにはいかない。こんなところで度量を試される時が来るとは。
 繰り返された傷みの記憶、そっくり同じことを伊吹がしないとは言い切れない、それでも。
「君に何をされても構わない」
 小さな頭を深く抱き込み、寄り添わない冷えた体を強く引き込む。
 いつの間にこんなに冷えてしまっていたのだろう。京介は快楽に溺れていて、伊吹の体が冷えていることにも気づかなかった。
 そっと尋ねるように伊吹が京介のものに触れてくる。勢いこそなくしたけれど、熱を溜めたままのものを押しつけて答え、同時に京介も伊吹のものに触れてみる。
 ああ。
 泣きたくなった。
 硬く強張っていて、指先に譲ってはくれたけど潤む様子さえない。
 こんなに全部諦めて、京介を愛してくれていたのか。さっきのやり方は伊吹の好きなやり方でもない、ただ京介の体が習い覚えた快感を追えるようにと計らっていてくれただけ。
「美並?」
「…はい」
 鎖骨のあたりで聞こえる滲んだ声。
「美並が望むなら、何でもするよ?」
「…」
「一人でやって見せてって言うならやるし、美並が許可するまで駄目だって言うなら我慢するし、この指で」
 そっと京介のものを包んでくれている指を掬う。
「どこに触れてもいいし、何をしても、僕はきっと気持ちいいとしか感じない」
「…京介…」
「でも、それは、美並だから」
 囁いて、耳にキスした。冷たくて辛い。熱を移すように、ちょっと舐めて、またキスする。
「触れられるから気持ちいいんじゃなくて、美並が触れてくれるから、気持ちいいんだ」
 一緒に居て。
 ゆっくりともたげ始めたものを掌で包み起き上がる。
「…美並」
「はい…」
「見てて?」
 声が掠れた。
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