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第1章
8.開かれた過去(1)
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旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。
「……伊吹さん」
何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。
布団の中でこぶしを握り締めていた美並は、唐突に呼び掛けられてそちらを見上げた。
「眠れないんだけど」
「………だから?」
「添い寝してほしいな」
「普通添い寝する方が夜這いに行くんじゃないですか」
「伊吹さん、こないじゃない」
「…………添い寝、してもいいですよ」
美並はごくりと唾を呑んだ。
「質問に一つ、応えて下さい」
「……何?」
「イブキは誰の猫なんですか?」
「……」
真崎はしばらく沈黙したまま立っていたが、やがて深い溜め息をついてゆっくり座り込んだ。眼鏡をかけていない顔に乱れた髪を掻きあげて、
「………予想外に早いな」
「いずれ聞くと思ってた?」
「うん」
頷いてちら、と上目遣いに美並を見た。
「もうわかってるんじゃない?」
「………やっぱり、孝さんの猫、ですか」
「正確に言うと、孝と僕の猫」
「…………ひょっとして、あのお墓」
ふいに気付いて美並は起き上がった。
「埋葬してたの、孝さんと課長、ですか?」
「……恵子さんはね、飼うのは好きなんだけど、死ぬと触るのも嫌なんだって」
「……ひょっとして、課長の好きな相手って………孝さん、だったんですか」
「………んー、厳密に言えばそうじゃない、と思う」
少し考え込んだ顔で真崎は遠い目になった。
「似たような境遇、というか?」
「?」
「………大輔、男も抱けるんだ」
「………はい?」
ぐわっしゃ、と予想外の返答に頭の中の整理棚が崩れた。
「今はああやって大人のふりしてるけど、昔はもっと乱暴でさ」
滲むような暗い笑いが真崎の顔に広がった。
「思春期なんて暴走まっさかりで。でも、女の子をどうこうするといろいろまずいから」
孝とか、僕とか、まあその辺で。
さらりと言われてことばが出なくなった。
「抵抗するともっと酷い目に合うし。小さいころでも猫を殺したぐらいだし」
「……ぼけ?」
「うん」
けれど、親父とかおふくろがそれとなく気付いてくれて、おさまったんだけど。
真崎は淡々とした口調で続ける。
「僕は何だかいろいろだめになっちゃって」
それでも孝がいるから頑張れたんだけど、その孝がようやくちゃんと女の子と付き合っていったら、大輔はそれが面白くなかったみたいだよ、と他人事のように呟く。
「………恵子さん奪ったの、わざとだって言うんですか」
「……僕はそう思ってる」
恵子さんはとにかく嫌な思いとか辛い思いするの嫌いな人なんだ。だから、孝と居ても大輔に嫌がらせされるばっかりなのは我慢できなかったかもしれないね。
「小さいころから何でも好き勝手に持っていくんだよ、大輔は」
大切にしているとわかれば、なおのこと根こそぎ奪っていく。
「本当は、大輔の顔を見ても平気で居られるか自信がなかったけれど」
真崎は頼りない顔で目を細めた。
「伊吹さんが居ると大丈夫だった」
「…………それを確かめに来たんですか」
「……うん」
こくりと頷く幼い仕草の後、ふいに、にこ、と相手が笑った。
「不思議だな」
「え?」
「今なんか……気持ちいいんだよね、僕」
「はい?」
妙に危うい顔、うっすらと頬を染めた顔で真崎が微笑を深める。
「僕ってマゾかもしれない」
「はぁあ?」
なんじゃそりゃ、いきなり。
眉をしかめた美並に真崎がごそごそと寄ってきた。
「え、ちょ、ちょっと待っ…」
た、と言う前にぽたんと真崎は美並の肩に顎を乗せて抱きついてくる。
「本当はこんなこと話すつもりなんてなかったのに」
「……課長」
「もっと聞いて」
「はいいっ?」
「もっと僕のこと暴いて」
「………」
「なんか伊吹さんにあれこれ聞かれると、どんどん気持ちが楽になってくるんだよね」
おいおい、なんだかどんどん壊れていってませんか、あんた。
まるでくまのぬいぐるみに甘える子どものように、真崎は美並をぎゅっと抱き締めた。
「……伊吹さん」
何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。
布団の中でこぶしを握り締めていた美並は、唐突に呼び掛けられてそちらを見上げた。
「眠れないんだけど」
「………だから?」
「添い寝してほしいな」
「普通添い寝する方が夜這いに行くんじゃないですか」
「伊吹さん、こないじゃない」
「…………添い寝、してもいいですよ」
美並はごくりと唾を呑んだ。
「質問に一つ、応えて下さい」
「……何?」
「イブキは誰の猫なんですか?」
「……」
真崎はしばらく沈黙したまま立っていたが、やがて深い溜め息をついてゆっくり座り込んだ。眼鏡をかけていない顔に乱れた髪を掻きあげて、
「………予想外に早いな」
「いずれ聞くと思ってた?」
「うん」
頷いてちら、と上目遣いに美並を見た。
「もうわかってるんじゃない?」
「………やっぱり、孝さんの猫、ですか」
「正確に言うと、孝と僕の猫」
「…………ひょっとして、あのお墓」
ふいに気付いて美並は起き上がった。
「埋葬してたの、孝さんと課長、ですか?」
「……恵子さんはね、飼うのは好きなんだけど、死ぬと触るのも嫌なんだって」
「……ひょっとして、課長の好きな相手って………孝さん、だったんですか」
「………んー、厳密に言えばそうじゃない、と思う」
少し考え込んだ顔で真崎は遠い目になった。
「似たような境遇、というか?」
「?」
「………大輔、男も抱けるんだ」
「………はい?」
ぐわっしゃ、と予想外の返答に頭の中の整理棚が崩れた。
「今はああやって大人のふりしてるけど、昔はもっと乱暴でさ」
滲むような暗い笑いが真崎の顔に広がった。
「思春期なんて暴走まっさかりで。でも、女の子をどうこうするといろいろまずいから」
孝とか、僕とか、まあその辺で。
さらりと言われてことばが出なくなった。
「抵抗するともっと酷い目に合うし。小さいころでも猫を殺したぐらいだし」
「……ぼけ?」
「うん」
けれど、親父とかおふくろがそれとなく気付いてくれて、おさまったんだけど。
真崎は淡々とした口調で続ける。
「僕は何だかいろいろだめになっちゃって」
それでも孝がいるから頑張れたんだけど、その孝がようやくちゃんと女の子と付き合っていったら、大輔はそれが面白くなかったみたいだよ、と他人事のように呟く。
「………恵子さん奪ったの、わざとだって言うんですか」
「……僕はそう思ってる」
恵子さんはとにかく嫌な思いとか辛い思いするの嫌いな人なんだ。だから、孝と居ても大輔に嫌がらせされるばっかりなのは我慢できなかったかもしれないね。
「小さいころから何でも好き勝手に持っていくんだよ、大輔は」
大切にしているとわかれば、なおのこと根こそぎ奪っていく。
「本当は、大輔の顔を見ても平気で居られるか自信がなかったけれど」
真崎は頼りない顔で目を細めた。
「伊吹さんが居ると大丈夫だった」
「…………それを確かめに来たんですか」
「……うん」
こくりと頷く幼い仕草の後、ふいに、にこ、と相手が笑った。
「不思議だな」
「え?」
「今なんか……気持ちいいんだよね、僕」
「はい?」
妙に危うい顔、うっすらと頬を染めた顔で真崎が微笑を深める。
「僕ってマゾかもしれない」
「はぁあ?」
なんじゃそりゃ、いきなり。
眉をしかめた美並に真崎がごそごそと寄ってきた。
「え、ちょ、ちょっと待っ…」
た、と言う前にぽたんと真崎は美並の肩に顎を乗せて抱きついてくる。
「本当はこんなこと話すつもりなんてなかったのに」
「……課長」
「もっと聞いて」
「はいいっ?」
「もっと僕のこと暴いて」
「………」
「なんか伊吹さんにあれこれ聞かれると、どんどん気持ちが楽になってくるんだよね」
おいおい、なんだかどんどん壊れていってませんか、あんた。
まるでくまのぬいぐるみに甘える子どものように、真崎は美並をぎゅっと抱き締めた。
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