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第1章
9.オープン・ザ・ゲイト(5)
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「あの、今なんて?」
まさか、でも、本当に?
まさか、でも、ならどうして一体?
すぐにそれにすがって喜ぼうとしている気持ちと、だって大石圭吾を知っているじゃないかと疑う気持ちの板挟みになって、京介は顔をしかめる。
「聞こえなかったならいいよ」
そうだ、大体大石を好きになった伊吹なら、京介を好いてくれるわけがない。
「どうせ、僕とは違うタイプだし」
恨めしい気持ちがつい零れた。
「はい……??」
伊吹が不思議そうな顔で首を傾げる。
「違う……タイプ?」
そうだ、全く違うタイプじゃないか。伊吹が外見で魅かれてくれるなら、京介だって人気があるのを自覚はしている、女の子に不自由しないぐらいのルックスだとは思っている。
けれど伊吹はそういうものを基準にしてくれない。どちらかというと、京介は警戒され避けられていた方で。
思い出してまた落ち込んだ。
「あの……えーと……」
伊吹は眉を寄せて考え込んでしまっている。さっきまでの怯えた気配がなくなったのは嬉しいけれど、それは京介が大丈夫になったというのではなくて、他のことに気をとられているからだ。
なら今のうちに、さっさと。
容赦ないことを実行しようとする自分に気付いて、京介は焦って口を開いた。
「今でも好きなの」
「は?」
伊吹はまるで東京は月にありますよね、と言われたような奇妙な顔をした。しばらくまた黙った後、おそるおそると言った感じで、
「あの、ですね……おっしゃってる意味が全くわからないんですが」
丁寧な物言いにかちんと来た。
とぼけんなよ。
思わず胸の中で唸る。
何がおっしゃってる、だよ。
「岩倉産業って知ってるでしょう」
「…はい」
伊吹が一瞬固まって、そっと頷いた。
見ろ、やっぱり知ってるんだ。
自分を自分で追い詰めるようなことをしている、とわかっていたけれど、京介は唇を尖らせ、それから強く引き結んだ。
どっちにせよ、もうはっきりさせてしまえばいいのだ、どうせ要らないと言われるならば早い方がいい、お互いのために。思い切ろうとした気持ちを逆撫でするように、伊吹が戸惑った声で呟く。
「私のせいじゃない、とは言えないです」
どくん、と確実に下半身が脈打った。
「伊吹さんも、ってことなんだ」
過った映像がよりはっきりと動く。
「もっと誠実に応対していれば」
誠実に対応、しなかった、と?
じゃあ、大石ばかりが誘ったんじゃなくて、伊吹も?
「誘惑……したんだ」
伊吹が誘惑。
どんなふうに?
喉がひどく渇いてきて、映像がぼやけてはっきりしなくなる。その応えを伊吹の口から聞きたいような聞きたくないような自分に苛立って、京介は伊吹を睨み付けた。
「誘惑……?」
「一方的じゃなかったって」
なるべく冷たく言い捨てる。
「ああ……はい、そうです、私もそれなりに」
身体が震えた。
それなりに、誘惑した、なんて。
清冽で透明な伊吹がどんなふうに誘惑するのか、想像がつかない。
「そんなこと、できたんだ?」
「いい人でしたから」
どんどん熱くなっていく身体に、伊吹の誘惑の仕方など何一つ知らない自分が情けなくてじれったくて、苦しくてたまらない。
「あの時は…ちゃんと役に立つのが正しいと思って…」
「ちゃんと、役に、立つ、ね」
僕には、違ったのに。
誘惑なんかしてくれなかった。
それどころか、あんなに近くに居て一晩一緒に過ごしても、子ども扱いして寝かしつけられて。
それほど自分は男じゃなかったのか、そう思って、大輔の台詞が蘇る。
『あの女、お前を男だと見てると思うか?』
『女にとって、男は自分を抱くもんだ………誰かに抱かれるような男は女にとっちゃ男じゃない』
『あの女がお前のことをどこまで知っているかわからないが、まあ話してみろよ、とっくりと。その上で、付き合ってく気になるかどうか』
そういうことなのか。
結局京介は伊吹にとって男なんかじゃなかったということか。
まさか、でも、本当に?
まさか、でも、ならどうして一体?
すぐにそれにすがって喜ぼうとしている気持ちと、だって大石圭吾を知っているじゃないかと疑う気持ちの板挟みになって、京介は顔をしかめる。
「聞こえなかったならいいよ」
そうだ、大体大石を好きになった伊吹なら、京介を好いてくれるわけがない。
「どうせ、僕とは違うタイプだし」
恨めしい気持ちがつい零れた。
「はい……??」
伊吹が不思議そうな顔で首を傾げる。
「違う……タイプ?」
そうだ、全く違うタイプじゃないか。伊吹が外見で魅かれてくれるなら、京介だって人気があるのを自覚はしている、女の子に不自由しないぐらいのルックスだとは思っている。
けれど伊吹はそういうものを基準にしてくれない。どちらかというと、京介は警戒され避けられていた方で。
思い出してまた落ち込んだ。
「あの……えーと……」
伊吹は眉を寄せて考え込んでしまっている。さっきまでの怯えた気配がなくなったのは嬉しいけれど、それは京介が大丈夫になったというのではなくて、他のことに気をとられているからだ。
なら今のうちに、さっさと。
容赦ないことを実行しようとする自分に気付いて、京介は焦って口を開いた。
「今でも好きなの」
「は?」
伊吹はまるで東京は月にありますよね、と言われたような奇妙な顔をした。しばらくまた黙った後、おそるおそると言った感じで、
「あの、ですね……おっしゃってる意味が全くわからないんですが」
丁寧な物言いにかちんと来た。
とぼけんなよ。
思わず胸の中で唸る。
何がおっしゃってる、だよ。
「岩倉産業って知ってるでしょう」
「…はい」
伊吹が一瞬固まって、そっと頷いた。
見ろ、やっぱり知ってるんだ。
自分を自分で追い詰めるようなことをしている、とわかっていたけれど、京介は唇を尖らせ、それから強く引き結んだ。
どっちにせよ、もうはっきりさせてしまえばいいのだ、どうせ要らないと言われるならば早い方がいい、お互いのために。思い切ろうとした気持ちを逆撫でするように、伊吹が戸惑った声で呟く。
「私のせいじゃない、とは言えないです」
どくん、と確実に下半身が脈打った。
「伊吹さんも、ってことなんだ」
過った映像がよりはっきりと動く。
「もっと誠実に応対していれば」
誠実に対応、しなかった、と?
じゃあ、大石ばかりが誘ったんじゃなくて、伊吹も?
「誘惑……したんだ」
伊吹が誘惑。
どんなふうに?
喉がひどく渇いてきて、映像がぼやけてはっきりしなくなる。その応えを伊吹の口から聞きたいような聞きたくないような自分に苛立って、京介は伊吹を睨み付けた。
「誘惑……?」
「一方的じゃなかったって」
なるべく冷たく言い捨てる。
「ああ……はい、そうです、私もそれなりに」
身体が震えた。
それなりに、誘惑した、なんて。
清冽で透明な伊吹がどんなふうに誘惑するのか、想像がつかない。
「そんなこと、できたんだ?」
「いい人でしたから」
どんどん熱くなっていく身体に、伊吹の誘惑の仕方など何一つ知らない自分が情けなくてじれったくて、苦しくてたまらない。
「あの時は…ちゃんと役に立つのが正しいと思って…」
「ちゃんと、役に、立つ、ね」
僕には、違ったのに。
誘惑なんかしてくれなかった。
それどころか、あんなに近くに居て一晩一緒に過ごしても、子ども扱いして寝かしつけられて。
それほど自分は男じゃなかったのか、そう思って、大輔の台詞が蘇る。
『あの女、お前を男だと見てると思うか?』
『女にとって、男は自分を抱くもんだ………誰かに抱かれるような男は女にとっちゃ男じゃない』
『あの女がお前のことをどこまで知っているかわからないが、まあ話してみろよ、とっくりと。その上で、付き合ってく気になるかどうか』
そういうことなのか。
結局京介は伊吹にとって男なんかじゃなかったということか。
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