134 / 510
第2章
6.バッド・ビート(8)
しおりを挟む
きっとそうだろう、京介では駄目なのだ。伊吹を幸せにしてやれない、恵子が言った通りなのかもしれない。
それでも。
それなら。
せめて、君が一番綺麗に見えるように。
それがたとえ、他の男の手によったとしても。
「じゃあ、これ、下さい。両方、帽子もセットで」
僕は伊吹が大事だから。
切ない思いで、その揃いを頼んだとたん、
「か……、京介」
伊吹が名前を呼んでくれて思わず振り向く。首を傾げてしまったのは、胸に広がった疑問から。
まだ、僕でもいいの?
「何? 他の色がいい?」
「あ、いえ」
違うのか、と揺れた気持ちがまた沈む。
伊吹は『Brechen』を買うのを拒まなかった。
京介は唇を噛んだ。
自分がどんどん思いつめていってしまうのがわかって、やたらと喉が渇いてくる。
「課長?」
「何、伊吹さん」
「今の、あれ、計算ずく、ですか?」
計算ずく。
そうやって落ちてくれるなら、どんな手だって使うけれど、君はきっと落ちてくれない。
歩きながら真崎は微かに笑う。
むしろその計算を感じて、京介を拒む可能性の方が遥かに高い。
店から出て、また少し歩いてから一休みしてカフェでコーヒーとカフェラテを頼んで向き合った。
ほっとした顔でカフェラテを口にする伊吹の、唇についた甘い色の泡を舐めて、そのまま中まで舌を押し込みたい。
危ない発想をよそに伊吹と普通の会話をしている自分に呆れる。
「もうしばらく付き合ってね」
「それはいいですけど……課長こそ大丈夫ですか」
「週明けにはプランを示さなくちゃならない」
その結果如何で本当に伊吹を失ってしまうかもしれないから。
気を抜くわけにはいかないよね、しかもこちらが圧倒的不利、そう自分に言い聞かせて立ち上がると、
「私は? 被らなくていいんですか?」
京介の被った『Brechen』に伊吹が不審そうに尋ねてきた。
そんなこと、言うんだ。
肩越しに見遣った伊吹はきょとんとしている。また思う、きっと伊吹には『Brechen 』がよく似合う、と。
「いいよ、そのままで」
背中を向けながら言い放つと、伊吹がなおもことばを重ねてくる。
「じゃあ、何でペアで買ったんですか?」
鈍感。
舌打ちしそうになって、京介は答える。
「商品研究のためだから」
わからないの、本当に。僕がそんなことを許すとでも?
「大石がデザインしたものを君に着せるわけがないでしょう」
背中を向けたまま呟いて、競り上がってくる疼きを踏み降ろすように歩き出す。
欲しい。欲しい。欲しい。
けれど伊吹は京介を欲しがってくれない。
伊吹が欲しい。全部欲しい。隅々まで欲しい。大石が知らないところ、大石が触れていないところ、大石がこの先も辿りつけない部分まで伊吹を。
暴きたい。
「っ」
身体の内側に溢れた声に京介は息を呑んだ。
それでも。
それなら。
せめて、君が一番綺麗に見えるように。
それがたとえ、他の男の手によったとしても。
「じゃあ、これ、下さい。両方、帽子もセットで」
僕は伊吹が大事だから。
切ない思いで、その揃いを頼んだとたん、
「か……、京介」
伊吹が名前を呼んでくれて思わず振り向く。首を傾げてしまったのは、胸に広がった疑問から。
まだ、僕でもいいの?
「何? 他の色がいい?」
「あ、いえ」
違うのか、と揺れた気持ちがまた沈む。
伊吹は『Brechen』を買うのを拒まなかった。
京介は唇を噛んだ。
自分がどんどん思いつめていってしまうのがわかって、やたらと喉が渇いてくる。
「課長?」
「何、伊吹さん」
「今の、あれ、計算ずく、ですか?」
計算ずく。
そうやって落ちてくれるなら、どんな手だって使うけれど、君はきっと落ちてくれない。
歩きながら真崎は微かに笑う。
むしろその計算を感じて、京介を拒む可能性の方が遥かに高い。
店から出て、また少し歩いてから一休みしてカフェでコーヒーとカフェラテを頼んで向き合った。
ほっとした顔でカフェラテを口にする伊吹の、唇についた甘い色の泡を舐めて、そのまま中まで舌を押し込みたい。
危ない発想をよそに伊吹と普通の会話をしている自分に呆れる。
「もうしばらく付き合ってね」
「それはいいですけど……課長こそ大丈夫ですか」
「週明けにはプランを示さなくちゃならない」
その結果如何で本当に伊吹を失ってしまうかもしれないから。
気を抜くわけにはいかないよね、しかもこちらが圧倒的不利、そう自分に言い聞かせて立ち上がると、
「私は? 被らなくていいんですか?」
京介の被った『Brechen』に伊吹が不審そうに尋ねてきた。
そんなこと、言うんだ。
肩越しに見遣った伊吹はきょとんとしている。また思う、きっと伊吹には『Brechen 』がよく似合う、と。
「いいよ、そのままで」
背中を向けながら言い放つと、伊吹がなおもことばを重ねてくる。
「じゃあ、何でペアで買ったんですか?」
鈍感。
舌打ちしそうになって、京介は答える。
「商品研究のためだから」
わからないの、本当に。僕がそんなことを許すとでも?
「大石がデザインしたものを君に着せるわけがないでしょう」
背中を向けたまま呟いて、競り上がってくる疼きを踏み降ろすように歩き出す。
欲しい。欲しい。欲しい。
けれど伊吹は京介を欲しがってくれない。
伊吹が欲しい。全部欲しい。隅々まで欲しい。大石が知らないところ、大石が触れていないところ、大石がこの先も辿りつけない部分まで伊吹を。
暴きたい。
「っ」
身体の内側に溢れた声に京介は息を呑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う
ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身
大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。
会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮
「明日から俺の秘書な、よろしく」
経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。
鏑木 蓮 二十六歳独身
鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。
親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。
蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......
望月 楓 二十六歳独身
蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。
密かに美希に惚れていた。
蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。
蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。
「麗子、俺を好きになれ」
美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。
面倒見の良い頼れる存在である。
藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。
社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く
実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。
そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......
教師と生徒とアイツと俺と
本宮瑚子
恋愛
高校教師1年目、沢谷敬介。
教師という立場にありながら、一人の男としては屈折した感情を持て余す。
そんな敬介が、教師として男として、日に日に目で追ってしまうのは……、一人の女であり、生徒でもあった。
★教師×生徒のストーリーながら、中身は大人風味の恋愛仕立て。
★未成年による飲酒、喫煙の描写が含まれますが、あくまでストーリー上によるものであり、法令をお守り下さい。
★こちらの作品は、他サイトでも掲載中のものに、加筆・修正を加えたものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる