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第3章
8.スタック(6)
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案の定下着はべたべたで、京介は慌てて脱ぎ捨ててスラックスもついでに洗濯機の中に放り込む。クリーニングに出すにせよ、このまま出せるわけもない。
冷えた浴室に滑り込んで、熱い湯を頭から浴びた。体中がしっとり濡れてて、自分がとても卑猥な生き物になった気がする。もちろんそれは俯いて視界に入るものでも明らかで。
「…」
ごくんと唾を呑み込んで、軽く勃ち上がってきたものに触れた。指でそっと撫でる。伊吹の指先に感触を重ねると、すぐにまた膨れ上がり、心臓がもう一つそこに現れたようだ。
「は…」
いきなりこんなのってやっぱりまずいかな。
よっぽど餓えてるみたいでみっともないかな。
でも。
「欲しい…」
過熱し始めた体を手早くボディシャンプーで洗い、肝心のところも丁寧に洗っているうちに、また頭がくらりとしてシャワーを水に切り替えた。
「う…」
さすがにいっきに冷えて急いで止め、バスタオルで水気を拭きながら部屋に戻ると、室内が柔らかく温まっている。
「伊吹さん、シャワー、あいたから」
「はい」
キッチンから現れた伊吹はコーヒーを手にしていた。
「京介ほどうまく淹れられませんが」
「ありがと」
受け取ってその熱さにほっとすると、するりと伸びてきた伊吹の指が腰にバスタオル一枚巻いただけの素肌を撫でて硬直する。
「、っ」
「水を浴びたの?」
鎖骨の少し下、ほら冷たい、と指を見せてくれたのは水滴、慌てたから拭き残したらしい。
「なんか、暑くて」
「どこが?」
ここですか、と尋ねられながら指がゆっくり肌を伝って降りていく。水滴が伝うよりも強い、けれどすぐにどこかへ消えてしまいそうな頼りない動きでのろのろと胸へ。
「い、ぶき…」
「コーヒー零れますよ」
「あ…」
気がついて斜めに傾ぎかけたカップを支えたとたん、伊吹の指先が胸の先へ辿りついて震えた。
「水なんて浴びるから」
「あ…っ」
するりとさりげなく通り過ぎただけで、触れられたそこが緊張したのがわかった。
「尖ってます」
「う…」
やだ、と掠れた声になったのは、そのままゆっくり指が戻ってきたから。
「寒かったの?」
「……っ」
指が手前で止まって京介は息を呑んだ。今にももう一度触れそうな、なのにそこから全く動かなくなって、意識がどんどん集まっていく。伊吹の指の下に神経が集められていくようだ。体が熱を上げて、喉が干上がっていく。
まさかこのままずっとこうしている気じゃないよね?
バスタオルの下がじりじりと引き上げられていくのに気付いて見下ろすと、
「それとも、こうして触れて欲しかったの?」
「あ、ぁ」
伊吹もそれを見ていたのかと思うぐらいのタイミングで囁かれて、止まっていた指が優しく胸を摘む。
「コーヒー…こぼれ…ちゃ…」
与えられる刺激に体が揺れる。息が弾んで京介は呻く。
「京介はここも弱いの?」
「う…ん…」
「じゃあ、ここも触ってほしい?」
「………ん…」
どんなふうに?
微笑んで尋ねてくる伊吹が潤んだ視界に揺れる。
「もっと…きつくして…」
「こう?」
「…っ、う、ん…っ」
カップを支えて零さないようにしているから伊吹の指から逃げられない。神経の先端を集めた指が乳首を撫でて時折きつく摘んでくるのが気持ちよくて、逃げたくない。
何もかも違う。
蕩けた頭の中で京介は呟く。
大輔とも、恵子とも、全部違う。
仕掛けられてくる愛撫も、シチュエーションも、囁かれることばも、京介自身の感じ方も、今まで経験したことがない熱を体の隅々まで送り込まれて、受け取るだけで他に考えられなくなる。
「っ」
「シャワー浴びてきますね」
もう少しで駆け上がりそうなほど煽られたのに、いきなり伊吹が指を引いてしまって、無意識に閉じていた目を開いた。相手はさっさと浴室に消えたのだろう、部屋のどこにもいない。必死にコーヒーのカップを握って立ち竦んでいる自分に気付き、渇ききった喉にコーヒーを含む。
「甘い…」
苦味が消えていてたっぷり砂糖が入っている。いつもなら苦手かもしれないけれど、その甘味が舌をくすぐるようでぞくぞくする。舐めるように飲み干してテーブルに置き、ふらふらと寝室へ入っていった。
「計算、ずく…?」
これは大輔のコーヒーではない。
抱かれること、愛撫されることとコーヒーがセットになっているのはそのままだけど、今大輔の愛撫が思い出せなくなっている。
新しいシーツになっているベッドにバスタオルを巻いたまま崩れるように腰を落とした。
自分がとても敏感になっている。シーツのひやりとした肌触りがもう背筋に響く。
「コーヒー呑んだ?」
浴室から出て来た伊吹が寝室に入ってくるその動きで空気が揺れる。
「……うん…」
その瞬間、自分が貪る顔になったのを自覚した。
冷えた浴室に滑り込んで、熱い湯を頭から浴びた。体中がしっとり濡れてて、自分がとても卑猥な生き物になった気がする。もちろんそれは俯いて視界に入るものでも明らかで。
「…」
ごくんと唾を呑み込んで、軽く勃ち上がってきたものに触れた。指でそっと撫でる。伊吹の指先に感触を重ねると、すぐにまた膨れ上がり、心臓がもう一つそこに現れたようだ。
「は…」
いきなりこんなのってやっぱりまずいかな。
よっぽど餓えてるみたいでみっともないかな。
でも。
「欲しい…」
過熱し始めた体を手早くボディシャンプーで洗い、肝心のところも丁寧に洗っているうちに、また頭がくらりとしてシャワーを水に切り替えた。
「う…」
さすがにいっきに冷えて急いで止め、バスタオルで水気を拭きながら部屋に戻ると、室内が柔らかく温まっている。
「伊吹さん、シャワー、あいたから」
「はい」
キッチンから現れた伊吹はコーヒーを手にしていた。
「京介ほどうまく淹れられませんが」
「ありがと」
受け取ってその熱さにほっとすると、するりと伸びてきた伊吹の指が腰にバスタオル一枚巻いただけの素肌を撫でて硬直する。
「、っ」
「水を浴びたの?」
鎖骨の少し下、ほら冷たい、と指を見せてくれたのは水滴、慌てたから拭き残したらしい。
「なんか、暑くて」
「どこが?」
ここですか、と尋ねられながら指がゆっくり肌を伝って降りていく。水滴が伝うよりも強い、けれどすぐにどこかへ消えてしまいそうな頼りない動きでのろのろと胸へ。
「い、ぶき…」
「コーヒー零れますよ」
「あ…」
気がついて斜めに傾ぎかけたカップを支えたとたん、伊吹の指先が胸の先へ辿りついて震えた。
「水なんて浴びるから」
「あ…っ」
するりとさりげなく通り過ぎただけで、触れられたそこが緊張したのがわかった。
「尖ってます」
「う…」
やだ、と掠れた声になったのは、そのままゆっくり指が戻ってきたから。
「寒かったの?」
「……っ」
指が手前で止まって京介は息を呑んだ。今にももう一度触れそうな、なのにそこから全く動かなくなって、意識がどんどん集まっていく。伊吹の指の下に神経が集められていくようだ。体が熱を上げて、喉が干上がっていく。
まさかこのままずっとこうしている気じゃないよね?
バスタオルの下がじりじりと引き上げられていくのに気付いて見下ろすと、
「それとも、こうして触れて欲しかったの?」
「あ、ぁ」
伊吹もそれを見ていたのかと思うぐらいのタイミングで囁かれて、止まっていた指が優しく胸を摘む。
「コーヒー…こぼれ…ちゃ…」
与えられる刺激に体が揺れる。息が弾んで京介は呻く。
「京介はここも弱いの?」
「う…ん…」
「じゃあ、ここも触ってほしい?」
「………ん…」
どんなふうに?
微笑んで尋ねてくる伊吹が潤んだ視界に揺れる。
「もっと…きつくして…」
「こう?」
「…っ、う、ん…っ」
カップを支えて零さないようにしているから伊吹の指から逃げられない。神経の先端を集めた指が乳首を撫でて時折きつく摘んでくるのが気持ちよくて、逃げたくない。
何もかも違う。
蕩けた頭の中で京介は呟く。
大輔とも、恵子とも、全部違う。
仕掛けられてくる愛撫も、シチュエーションも、囁かれることばも、京介自身の感じ方も、今まで経験したことがない熱を体の隅々まで送り込まれて、受け取るだけで他に考えられなくなる。
「っ」
「シャワー浴びてきますね」
もう少しで駆け上がりそうなほど煽られたのに、いきなり伊吹が指を引いてしまって、無意識に閉じていた目を開いた。相手はさっさと浴室に消えたのだろう、部屋のどこにもいない。必死にコーヒーのカップを握って立ち竦んでいる自分に気付き、渇ききった喉にコーヒーを含む。
「甘い…」
苦味が消えていてたっぷり砂糖が入っている。いつもなら苦手かもしれないけれど、その甘味が舌をくすぐるようでぞくぞくする。舐めるように飲み干してテーブルに置き、ふらふらと寝室へ入っていった。
「計算、ずく…?」
これは大輔のコーヒーではない。
抱かれること、愛撫されることとコーヒーがセットになっているのはそのままだけど、今大輔の愛撫が思い出せなくなっている。
新しいシーツになっているベッドにバスタオルを巻いたまま崩れるように腰を落とした。
自分がとても敏感になっている。シーツのひやりとした肌触りがもう背筋に響く。
「コーヒー呑んだ?」
浴室から出て来た伊吹が寝室に入ってくるその動きで空気が揺れる。
「……うん…」
その瞬間、自分が貪る顔になったのを自覚した。
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