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第3章
9.欲情(7)
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「京介」
「…ひ……っ」
「京介」
「く、…っ」
もうどれほどみっともなくてもいい。
京介は呼び掛ける伊吹に構わずに泣き続けた。
きっとずっと先まで初めてのベッドで泣き崩れたおかしな男と思われるのだ。でももうそんなことどうでもいい。
「は、…っ」
涙が止まらない。
京介は伊吹を失うのだ。
馬鹿馬鹿しいほどあっけない幕切れで。
こんなことなら死ねばよかった。さっさと自殺でも何でもしておけばよかった。伊吹に会う前に死んでおけば、これほど悲しくも悔しくもない。
どうして僕は未練たらしく生きてたりしたんだろう。
孝のほうがうんと賢い。
孝のほうがうんと正しい。
僕なんか生きていなくてよかったんだ。
「京介」
「っ」
ぐい、と両腕を掴んで押し退けられ、ぐすぐす泣きながら伊吹を見上げる。
「京介? 聞こえますか?」
やはり白い顔をしているままの伊吹が静かに尋ねてきて、のろのろ頷く。
「ん」
「…よかった」
どうにかなったかと思いました。
ほ、と小さく溜め息をつかれて、またじわじわと涙が零れる。
「とっくに…」
「え?」
とっくにどうにか、なってたよ。
掠れた声を絞り出して、無理矢理笑う。
「おかし…かったよ…ね?」
「はい?」
「僕……おかし…かったよね…?」
「………気分が悪いんですか?」
冷えてきましたね、と伊吹が呟いて、はいと渡してくれたのはティッシュ。そっか、そうだよね、と受け取って下半身の始末をしていると、布団を被って伊吹がころんと横に転がってくれて、ちょっと驚く。
「伊吹、さん…?」
「じゃあ、今日は諦めますね」
再び溜め息をつかれて、あれ、と思う。
「今日は?」
「……もう一度試してみる?」
「………もう一度?」
「……………無理でしょ?」
「……あの」
「はい」
「それって」
また一緒に、やってもいい、ってこと?
浮かんだ考えはあまりに都合が良すぎるような気がして、おそるおそる尋ねてみると、伊吹はひどく奇妙な顔になり、少し考えた後でぼそりと呟いた。
「すみません」
「……は?」
「ごめんなさい」
「……はい?」
「でも、京介は気持ちよさそうだったし」
「………うん」
「いいかなと思って」
「いいかな?」
「あそこ」
「あそ……」
言いかけて顔が熱くなった。
「他も十分気持ちよさそうで」
伊吹がしらっとした顔でうーんと唸ったが、何を思い出したのか、僅かに赤くなる。
「それでも十分楽しかったけど」
「……はい?」
楽しい?
「伊吹さん?」
「はい」
「楽しかった……?」
「はい」
「……何が?」
「……楽しくなかった?」
「え…?」
「今の、楽しくなかった?」
ひょっとして、本当は気持ち悪かったの?
「い、今のって」
「キスされて、胸摘まれて、脇腹撫でられて、揺さぶられて、後ろに指…」
「わあっ」
思わず伊吹の口を押さえる。
「伊吹さんっ」
「んー?」
「え?」
「んんー?」
「なに?」
そっと手を離すと、眼を細めた伊吹がくすりと笑う。
「大丈夫なんですね?」
「あ……」
「気持ちよかった?」
「……うん……」
頷いてかあっと体が熱くなった。
「でも、あれは、男、としては」
「はい?」
「男としては…」
おかしいでしょ?
思いきって尋ねてみると、きょとんとした伊吹が小さく笑った。
「おかしいんですか?」
「そうでしょ?」
「あんまり他の人と抱き合ったことはないんで」
よくわかりません。
さらっと流されて京介は唖然とする。
「や、だって」
「だって?」
「あんなこと…」
しないでしょ、普通?
「さあ」
「さあって…」
「京介は気持ち良かったんでしょ?」
「う…ん」
「じゃあ、いいです」
「じゃあいいって」
そんなの、伊吹さんはどうなるの。
ってか、男の矜持ってのはどうなっちゃうの。
ぐるぐるしながら唇を尖らせると、ちゅ、とキスしてきてくれて、どうやら嫌われても拒まれてもいないようだとようやくわかる。
「でも、僕は」
伊吹さんにも気持ちよくなってほしい。
そう訴えると、伊吹はとんでもなく妙な顔になった。
「?」
「………あのですね」
「え…?」
微妙な顔をしながら伊吹が布団の中で京介の指を握る。そのまま導かれたのは。
「……っ」
「……濡れてるでしょ?」
さすがに赤くなりながら伊吹がこそりと囁いた。
「十分気持ち良かったんです」
「え? どうして…?」
京介、色っぽいんですもん。
耳元で低く呟かれてぞくりとする。
じゃあ、伊吹さんは僕を責めながら気持ち良くなってたってこと……?
「……あ」
「何?」
「………勃っちゃった…」
じゃあ、もう一度いちゃいちゃしてみましょうか。
伊吹が指を絡めてきて、京介は頷きながら急いで相手を引き寄せた。
「…ひ……っ」
「京介」
「く、…っ」
もうどれほどみっともなくてもいい。
京介は呼び掛ける伊吹に構わずに泣き続けた。
きっとずっと先まで初めてのベッドで泣き崩れたおかしな男と思われるのだ。でももうそんなことどうでもいい。
「は、…っ」
涙が止まらない。
京介は伊吹を失うのだ。
馬鹿馬鹿しいほどあっけない幕切れで。
こんなことなら死ねばよかった。さっさと自殺でも何でもしておけばよかった。伊吹に会う前に死んでおけば、これほど悲しくも悔しくもない。
どうして僕は未練たらしく生きてたりしたんだろう。
孝のほうがうんと賢い。
孝のほうがうんと正しい。
僕なんか生きていなくてよかったんだ。
「京介」
「っ」
ぐい、と両腕を掴んで押し退けられ、ぐすぐす泣きながら伊吹を見上げる。
「京介? 聞こえますか?」
やはり白い顔をしているままの伊吹が静かに尋ねてきて、のろのろ頷く。
「ん」
「…よかった」
どうにかなったかと思いました。
ほ、と小さく溜め息をつかれて、またじわじわと涙が零れる。
「とっくに…」
「え?」
とっくにどうにか、なってたよ。
掠れた声を絞り出して、無理矢理笑う。
「おかし…かったよ…ね?」
「はい?」
「僕……おかし…かったよね…?」
「………気分が悪いんですか?」
冷えてきましたね、と伊吹が呟いて、はいと渡してくれたのはティッシュ。そっか、そうだよね、と受け取って下半身の始末をしていると、布団を被って伊吹がころんと横に転がってくれて、ちょっと驚く。
「伊吹、さん…?」
「じゃあ、今日は諦めますね」
再び溜め息をつかれて、あれ、と思う。
「今日は?」
「……もう一度試してみる?」
「………もう一度?」
「……………無理でしょ?」
「……あの」
「はい」
「それって」
また一緒に、やってもいい、ってこと?
浮かんだ考えはあまりに都合が良すぎるような気がして、おそるおそる尋ねてみると、伊吹はひどく奇妙な顔になり、少し考えた後でぼそりと呟いた。
「すみません」
「……は?」
「ごめんなさい」
「……はい?」
「でも、京介は気持ちよさそうだったし」
「………うん」
「いいかなと思って」
「いいかな?」
「あそこ」
「あそ……」
言いかけて顔が熱くなった。
「他も十分気持ちよさそうで」
伊吹がしらっとした顔でうーんと唸ったが、何を思い出したのか、僅かに赤くなる。
「それでも十分楽しかったけど」
「……はい?」
楽しい?
「伊吹さん?」
「はい」
「楽しかった……?」
「はい」
「……何が?」
「……楽しくなかった?」
「え…?」
「今の、楽しくなかった?」
ひょっとして、本当は気持ち悪かったの?
「い、今のって」
「キスされて、胸摘まれて、脇腹撫でられて、揺さぶられて、後ろに指…」
「わあっ」
思わず伊吹の口を押さえる。
「伊吹さんっ」
「んー?」
「え?」
「んんー?」
「なに?」
そっと手を離すと、眼を細めた伊吹がくすりと笑う。
「大丈夫なんですね?」
「あ……」
「気持ちよかった?」
「……うん……」
頷いてかあっと体が熱くなった。
「でも、あれは、男、としては」
「はい?」
「男としては…」
おかしいでしょ?
思いきって尋ねてみると、きょとんとした伊吹が小さく笑った。
「おかしいんですか?」
「そうでしょ?」
「あんまり他の人と抱き合ったことはないんで」
よくわかりません。
さらっと流されて京介は唖然とする。
「や、だって」
「だって?」
「あんなこと…」
しないでしょ、普通?
「さあ」
「さあって…」
「京介は気持ち良かったんでしょ?」
「う…ん」
「じゃあ、いいです」
「じゃあいいって」
そんなの、伊吹さんはどうなるの。
ってか、男の矜持ってのはどうなっちゃうの。
ぐるぐるしながら唇を尖らせると、ちゅ、とキスしてきてくれて、どうやら嫌われても拒まれてもいないようだとようやくわかる。
「でも、僕は」
伊吹さんにも気持ちよくなってほしい。
そう訴えると、伊吹はとんでもなく妙な顔になった。
「?」
「………あのですね」
「え…?」
微妙な顔をしながら伊吹が布団の中で京介の指を握る。そのまま導かれたのは。
「……っ」
「……濡れてるでしょ?」
さすがに赤くなりながら伊吹がこそりと囁いた。
「十分気持ち良かったんです」
「え? どうして…?」
京介、色っぽいんですもん。
耳元で低く呟かれてぞくりとする。
じゃあ、伊吹さんは僕を責めながら気持ち良くなってたってこと……?
「……あ」
「何?」
「………勃っちゃった…」
じゃあ、もう一度いちゃいちゃしてみましょうか。
伊吹が指を絡めてきて、京介は頷きながら急いで相手を引き寄せた。
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