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10.アシャの封印(9)
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(ユーノ)
あの洞窟で、ユーノが傷を裂かれて気を失った時、アシャの内側で『封印』が簡単に溶け落ちた。激情に消え失せた『封印』は、アシャを一瞬さえ食い止めなかった。
(挙句が、瀕死のユーノと…平手打ち…だ)
体が自由になると、アシャは急ぎ『泥土』から『氷の双宮』に向かい、『太皇(スーグ)』に新たな『封印』を願い出た。
幼い頃とは違い、今度はアシャも『封印』の難しさと必要性を十分に理解している。抵抗はしないし、むしろ協力できるはず、『太皇(スーグ)』とて世界を破壊しかねない『魔物(パルーク)』を野放しにはしたくないだろう。
なのに。
「……なぜですか」
アシャは冷たく滑り落ちるような感覚に我に返って繰り返した。
「今の私は世界にとって危険な存在では?」
「星が告げたのはただ一度の『封印』のみじゃ、その後、魔となろうと光となろうと、全てそなたに任せよと」
「『太皇(スーグ)』…」
アシャは呆然とした。
制御できる自信などさらさらなかった。特にユーノなどと言うはねっかえりがいる限り、アシャは彼女の危機に身が細る思いをし続けるだろう。もし万が一、彼女が死ぬようなことがあれば、今のアシャは世界を火の海にしても相手に報復するに違いない。
「それは」
「もし」
静かな声がアシャを制する。
「『氷の双宮』が滅ぶようなことがあれば、そなたは一体、何に『封印』を頼る気なのじゃ」
アシャはぎくりとした。
「ラズーンは激動の世に没するかも知れぬ。あるいは形骸になって残るやも知れぬ。未来を語れる者は誰もおらぬ、たとえ星でさえも、な」
「……」
アシャは唇を噛んだ。もし今回のように暴走して、ユーノを自ら傷つけてしまったのなら。傷つけるだけではなく、我を失ったアシャ自身が、彼女を屠ってしまったとしたら。
恐怖に震える。
「アシャよ、我が息子よ」
『太皇(スーグ)』は白い髪と眉、豊かな髭の中から、憐れみと慈愛を浮かべた表情でアシャを見つめた。
「そなたはもう知っておるはずじゃ、我と我が力を制する術を。幼い頃に失ったものと、この先失うかも知れぬもの、重ね合わせれば、自ずと答えは出ておる。すでにそなたは」
鋭い瞳が打ち据えてくる。
「制御できぬ力が、あの娘に何をもたらしたのか、知っておろう」
一言も、なかった。
『太皇(スーグ)』のことばは全て、理にかなっていた。
(ユーノを……あいつを…失う…? …この手で…?)
体を起こし、手を広げる。力を放つつもりがないのに、僅かに金の光を帯びて、明るく浮かぶように見えている。『泥土』からこちら、制御しきれない力が、淡い金色の膜となってアシャを包んでいるままだ。
こんな視察官(オペ)などいない。ユーノは聡い。遅かれ早かれ、アシャの変化に気づくだろう。
(制御しきれるか、この力を…)
そっと手を握り締める。
(守りきれるか……あいつの命を)
もし、ユーノがアシャの力を知ったら。
いや、それだけではない。
アシャが『運命(リマイン)』と同じく、世の理から外れた、再生装置から生まれた命、この世界において破滅をもたらすしかできない『魔』と呼ばれても仕方がない存在だと見切られたら。
ぞわりと皮膚が寒さに震え、毛が逆立つ。
「ユー…」
顔が歪む。
(それでもあいつは、俺の腕の中で眠るだろうか?)
あの洞窟で、ユーノが傷を裂かれて気を失った時、アシャの内側で『封印』が簡単に溶け落ちた。激情に消え失せた『封印』は、アシャを一瞬さえ食い止めなかった。
(挙句が、瀕死のユーノと…平手打ち…だ)
体が自由になると、アシャは急ぎ『泥土』から『氷の双宮』に向かい、『太皇(スーグ)』に新たな『封印』を願い出た。
幼い頃とは違い、今度はアシャも『封印』の難しさと必要性を十分に理解している。抵抗はしないし、むしろ協力できるはず、『太皇(スーグ)』とて世界を破壊しかねない『魔物(パルーク)』を野放しにはしたくないだろう。
なのに。
「……なぜですか」
アシャは冷たく滑り落ちるような感覚に我に返って繰り返した。
「今の私は世界にとって危険な存在では?」
「星が告げたのはただ一度の『封印』のみじゃ、その後、魔となろうと光となろうと、全てそなたに任せよと」
「『太皇(スーグ)』…」
アシャは呆然とした。
制御できる自信などさらさらなかった。特にユーノなどと言うはねっかえりがいる限り、アシャは彼女の危機に身が細る思いをし続けるだろう。もし万が一、彼女が死ぬようなことがあれば、今のアシャは世界を火の海にしても相手に報復するに違いない。
「それは」
「もし」
静かな声がアシャを制する。
「『氷の双宮』が滅ぶようなことがあれば、そなたは一体、何に『封印』を頼る気なのじゃ」
アシャはぎくりとした。
「ラズーンは激動の世に没するかも知れぬ。あるいは形骸になって残るやも知れぬ。未来を語れる者は誰もおらぬ、たとえ星でさえも、な」
「……」
アシャは唇を噛んだ。もし今回のように暴走して、ユーノを自ら傷つけてしまったのなら。傷つけるだけではなく、我を失ったアシャ自身が、彼女を屠ってしまったとしたら。
恐怖に震える。
「アシャよ、我が息子よ」
『太皇(スーグ)』は白い髪と眉、豊かな髭の中から、憐れみと慈愛を浮かべた表情でアシャを見つめた。
「そなたはもう知っておるはずじゃ、我と我が力を制する術を。幼い頃に失ったものと、この先失うかも知れぬもの、重ね合わせれば、自ずと答えは出ておる。すでにそなたは」
鋭い瞳が打ち据えてくる。
「制御できぬ力が、あの娘に何をもたらしたのか、知っておろう」
一言も、なかった。
『太皇(スーグ)』のことばは全て、理にかなっていた。
(ユーノを……あいつを…失う…? …この手で…?)
体を起こし、手を広げる。力を放つつもりがないのに、僅かに金の光を帯びて、明るく浮かぶように見えている。『泥土』からこちら、制御しきれない力が、淡い金色の膜となってアシャを包んでいるままだ。
こんな視察官(オペ)などいない。ユーノは聡い。遅かれ早かれ、アシャの変化に気づくだろう。
(制御しきれるか、この力を…)
そっと手を握り締める。
(守りきれるか……あいつの命を)
もし、ユーノがアシャの力を知ったら。
いや、それだけではない。
アシャが『運命(リマイン)』と同じく、世の理から外れた、再生装置から生まれた命、この世界において破滅をもたらすしかできない『魔』と呼ばれても仕方がない存在だと見切られたら。
ぞわりと皮膚が寒さに震え、毛が逆立つ。
「ユー…」
顔が歪む。
(それでもあいつは、俺の腕の中で眠るだろうか?)
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