瞼を捲る者

顎(あご)

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瞼を捲る者

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 母親に付き添われながら、彼女は診察室に入ってきた。
 不服そうに椅子に腰かけたのは、まだ面影に幼さを残す若い女性だった。可愛らしいアーモンド型の瞳は、痛々しいほど大きな隈で縁取られている。
 明らかに健全な状態でないということは、たとえ私が医者でなくとも一目瞭然だろう。
 私は、手元の問診票に視線を落とした。
 
 秋山あきやま りん
 20歳 女性 県内の大学に通う2年生。
 既往歴なし、精神科の受診は今回が初めて。
 幼少期に知的、発達の遅れを指摘されたことはなく、活発な子供時代を過ごしていた。
 主訴は不眠……。

 私は素早く問診表に目を通すと、患者へ向き直った。
「初めまして秋山さん、このクリニックで精神科医をしています、たきと言います。よろしくお願いします」
 私は胸の名札を見せながら自己紹介した。
 しかし彼女は、不機嫌そうにそっぽを向いたまま、こちらを見ようともしなかった。
「すいません、いつもはもっと明るい子なんですが……」
 深く溜め息を吐く母の表情には、疲労の影が見えていた。だいぶ憔悴しているようだ。
「秋山さん、今日はどうされましたか?」
 私は患者へ視線を移すと、穏やかな声で尋ねた。
 彼女は口を開かなかった。顔を背けて何処か一点を注視している。端から私など存在していないかのように、完璧に無視されているのが分かった。

「この子、ここ二三日まともに眠ってないようなんです」
 見かねた母が、代わりに答えた。
「大学から、講義にもサークルにも顔を出してないって連絡が来て。急いで地元から様子を見に来たんですよ」
「なるほど、鈴さんは一人暮らしされてたんですね。お母様が訪問した際はどんな状態でした?」
「凄くやつれてました。ご飯もあまり食べてないみたいですし、そのせいか生理も遅れてるみたいなんです」
 言いながら不安になったのか、母の声が上ずる。
 過度なストレスによる不眠症か、不安神経症だろうか。しかし後者にしてはどこか冷静さを保っているように感じる。どちらにせよ、今は情報が少ない。
「最近何か変わったことはありましたか? 例えば、大学で試験があったとか新しいサークルに入ったとか」
「それが、事情を聞いても訳の分からないことを言うばかりで……」
「訳の分からないこととは?」
 
 一瞬の逡巡の後、母は声をひそめて話しはじめた。
「その……私が私で無くなるとか、世界が消えるとか、波導関数が収縮するとか、とにかく私には理解出来ない内容です」
 私は、その言葉を聞いて身構えた。
 滅裂思考、観念奔出ほんしゅつ、世界没落体験を示唆する症状だ。単なる不眠症ではなく、統合失調症の併発症である可能性が出てきた。幻聴、幻覚などの異常体験が彼女の中に内在しており、それらに指示されて眠ることが出来ないでいるのかもしれない。
「鈴さん、何か声が聴こえてきたり、あるはずのない物が見えたりはしませんか?」
 私はもう一度、彼女に話かけた。

「……私は精神病なんかじゃないわ。眠れないんじゃなくて、自分で眠らないようにしているの」
 ここに来て初めて彼女が声を出した。
「まだ病気と決まった訳じゃないわ。でもどうして眠ろうとしないの?」

 彼女はゆっくりと頭を動かし、私の顔を真正面から見据えた。その瞳は、澄んだ湖面のような平静さと知性を湛えている。
 それが逆に、名状し難い違和感を私の中に出現させた。
 
「先生は夜ベッドに入る前の自分と、朝目覚めてベッドから降りる自分が同一人物だと証明出来ますか?」 

「えっ?」
 突然の質問に、私は不覚にも声を出してしまった。
「昨日の自分と今日の自分が、果たして同質であると証明できるのかと聞いているんです」
「こら鈴!」
 叱責する母を、私は片手で制止した。  
 正直彼女の言っていることはさっぱり解らなかったが、診断の手掛かりになるかもしれないからだ。
「ごめんなさいね、もう一度私にも分かるように説明してくれる?」
 私は彼女に促した。
「先生はシュレディンガーの猫をご存知ですか?」
「ええ、たしか思考実験の一つでしたっけ」
 そういえば、昔父に聞かされたことがある。適当に聞き流していたので、詳しくはもう忘れてしまったが。

「そうです。密閉された箱に、生きた猫と放射性元素、ガイガーカウンター、そして毒ガス発生装置を入れるんです」
 彼女は先程とはうって変わり、饒舌に語りだした。

「箱の中の放射性元素は、一時間後に、50%の確率で放射壊変し放射線を出します。それをガイガーカウンターが検知すると、毒ガス発生装置が作動し、猫は死にます。では一時間後、箱の中の猫はどうなっているのか」
「どうって、死んだ猫か生きた猫、どちらかが二分の一の確率で入ってるんじゃない?」
 私は彼女の話にしばらく付き合ってみることにした。

「それが、そうは考えない人もいます。一時間後の原子の状態は、原子の状態=放射線を放出した+放射線を放出していない、のそれぞれ50%の重ね合わせです。なので猫の状態も生存+死亡の50%の重ね合わせになり猫の生死は決定していないことになります」
 私は頭が痛くなってきた。この話は不眠症とは全く関係無いように思える。やはり精神疾患による一種のそう状態なのだろうか。

「つまり、猫の状態は箱を開けない限り分からないってことね。 じゃあ、開ける前の猫はどんな状態なの?」

「猫は生と死の両方が重なりあった状態で存在しているのです。そして、人間のような意思を持つ存在に認識されることによって初めて事象が収縮し現実が決定するんです」

「箱を開けなくても、揺すったり叩いたりしたらいいんじゃないですか? 生きてるなら鳴くなり暴れるなりするでしょう」

「その場合は箱を揺すったり叩いたりした時点で観測したことになり、その瞬間事象が収縮します」
 何故だろう……。彼女の話は突飛なようで、どこか理路整然としている気がする……。

「でも、それと眠らないこととどう関係があるの?」
「解りませんか? 認識しない限り事象が決定しないなら、私が認識していない間の世界は存在しないことになります」
 彼女は鬼気迫る表情で私に訴えた。

「私が診察室に入る前、先生は確かにここに存在しましたか? 先生が私を見る前に、私はこの世に存在しましたか?」
「当たり前じゃないですか……」
「ではそれをどう証明しますか?」
 彼女は食い下がった。かなり強い妄想だ。
「いや……それは……」
 私はいい淀んだ。これ以上の傾聴は、彼女の妄想を増強させるかもしれない。

「とりあえず、実際に数日眠れていないのは事実です。それに、私から見ても、今のあなたは健康的とは言えません」
「……そうですか。やはり分かってくれませんか」
 彼女は肩を落とし、また私から顔を背けてしまった。そして、それは再び私の元へ戻って来ることは無かった。
 その後は、何を聞いても無言が続き、結局は母親が横から代わりに答弁するような診察になってしまった。
 
 先ほどの奇妙な話が、統合失調症エピソードであるかはまだ断定出来ない、単なる心因性の不眠症の可能性もある。
 私は敢えて、まだ病名は断定しないことにした。
 軽い睡眠導入剤と頓服薬を処方し、今日のところは帰宅して様子を見てもらうよう母親に伝えた。母親は「わかりました……」と力なく頷き、娘を連れて帰っていった。
 二人が診察室を出た後、私は深い溜め息を吐いて天井を見上げた。
 何だかどっと疲れた気がする。久しぶりに難しい患者を相手にしたからだろうか。それに、内服薬を渡すだけでこれと言った治療もしてあげられないのが歯痒い。
「私もまだまだ修行不足ね……」
 私は蛍光灯の灯りを数秒眺めてから、デスクに向かう。
「先生、次の患者様をお連れしても?」
 看護師からの催促に、私は再び気を引き締め直すのだった。

 
 その日の晩、私は久しぶりに父に連絡をとってみることにした。
 これといって用事が有るわけではないが、地元に残って一人で診療所をやっている老人を、たまには労ってやるのも悪くない。それに、聞きたいこともある。
 私はスマホを耳に当てながら、父が出るのを待った。

 プルルル……プルルル……ガチャ

「しつこいぞっ! あんなバカ高い検査機器は買わんと何べん言わせるんじゃ! だいたいウチは小さな町医者で…… 」

 久々に聞く父の声が怒声とは……。
 私は耳を押さえながら父の怒鳴り声をやり過ごした。
「お父さん? 私だけど」
「……えっ! なんじゃ小夜子か。すまん、てっきり昼間のセールスかと……」
 やれやれ、早とちりなところは昔から全く変わらないな……。

「こっちじゃなくて携帯にかけてくれりゃよかったのに」
「携帯にかけたって出ないでしょ? だから診療所に直接かけたのよ」
 父は携帯を携帯しないタイプの老人だ。それどころか、自宅の固定電話の隣を携帯の定位置としているのだから、もはや持っている意味すら怪しい。
「にしても、こんな時間に珍しいな。何かあったのか?」
「ちょっと様子見がてらにね……聞きたいこともあるし」
「なんじゃ? 藪から棒に」
「実は今日、妙な患者がクリニックに来てね……シュレディンガーの猫って話、昔お父さんがしてくれたでしょ? その話を突然し始めたのよ」
 私は、秋山鈴さんのことをそのまま父に話した。父はそれを、黙って聞いていてくれた。

「なるほど、お前は統合失調症の前駆状態を疑っておるわけじゃな? じゃが、彼女の話はどこか理にかなっているようにも感じるな」
 父は言った。
「そうでしょ? でも彼女の話がどこまで本気なのか、あるいは全て病的妄想なのか、判断に困ってて……」
「どうした? 精神疾患はわしよりお前の方がプロじゃないか」
「だって、いきなりシュレディンガーの猫なんて小難しい話を始めるんだから驚いちゃって」
 私は素直に打ち明けた。

「シュレディンガーの猫自体はそこまで難しい話ではないぞ。あれは量子力学での確率解釈を、猫の生死というマクロな現象で説明した例え話みたいなもんじゃ」

「……え? なんて?」
 父の言葉が一瞬、なにかの呪文のように聞こえた。
「しかしその女の子は、どちらかと言うと哲学的な解釈をしているようじゃな。観測するまで事象が決定しないなら、存在も決定していない。わしらは何者かに観測されなければ存在も出来ないということか……」
「ちょっと、勝手に一人で納得しないでよ」
 
「すまんすまん。つまり、我々も我々の住む世界も、観測されて初めて存在できると言うことじゃ。何者にも認知されていない時、私達の存在は消えてしまう。その子が懸念しているのはそういう事じゃろう」
「まぁ杞憂じゃがな」父はそう付け足した。

「じゃあ、私が電話をかけるまで父さんは存在していなかったし、父さんから見て私も存在していなかったってこと?」

「まぁそういうことじゃ」
「それってあり得ないわ」
「じゃが、自らの存在を証明するのは難しいじゃろ?」
 私はハッとした。
「そんなこと無いわ。私が存在したと言うことは、私自身が記憶しているもの」
「人間の記憶など曖昧なものじゃよ。脳外科医なんかしとると特にそう感じる」
「なら、あの患者の言うことが正しいというの?」
「まさか。言ったじゃろ? 杞憂だと。第一、観測した瞬間に状態が決定するなら、あらゆる原子が光速を超えて移動した事になる。それこそあり得んよ」
 父は笑ってそう言った。私は納得したような、し損ねたような複雑な気分のまま、その日は父との会話を終えた。

 部屋の灯りを消し、ベッドに入る。
 白い天井が、今はぼんやりと暗闇に覆われている。その闇の中から、あの患者の声が聴こえてきた気がした。

 
 “先生は夜ベッドに入る前の自分と、朝目覚めてベッドから降りる自分が同一人物だと証明出来ますか?”
 
 不意に現れたそれを、私は無意識に頭から追い出した。
 そう、彼女は患者なのだ。健康である私は何も心配する必要は無い。
 まぶたを閉じると、完全な無の世界が訪れる。
 そして、程なくしてやって来た睡魔に、私は身をゆだねるのだった。



 あれから二週間程経った。初診以降、あの女の子は診察には来なかった。
 私は一抹の不安を感じながらも、日々の診察に追われていた。
 頓服は十分な量処方していたし、案外すぐに症状が良くなったのかも。あるいは、違う精神科を受診して上手くいったのかもしれない……。
 私は次第に、楽観的に考えるようになった。今思うと、ただそう思い込みたかっただけだったのかもしれない。
 
 
 ある日、彼女は再びクリニックに来た。
 診察が午前で終わり、静かにカルテを入力していた時だ。

「滝先生は居られますか!? うちの子を直ぐに診てほしいんです!」
 男の悲痛な声が、待合室に響いた。
 私は何事かと急いで待合室に向かった。
 そこには、彼女に良く似た端正な顔の男が、息も絶え絶えになりながら彼女の腕を掴み、立っていた。その背後には、あの母親の姿もあった。
 父親に、半ば引きずられるように待合室に入って来た彼女を見て、私は言葉を失った。

 皮脂で黒光りしている髪の毛は乱れ放題。衣服も、赤黒い汚れが至るところに付着していて、何日も着替えていないのが見てとれる。
 そこから伸びる手足は、以前よりさらに痩せ細っていて、まるで地獄の餓鬼のようだった。
 手足には爪で引っ掻いたような傷が無数にあり、そこで衣服の汚れは血液なのだと気が付いた。
 そして何より異様だったのは……。

「鈴っ! いい加減やめなさい!」父が叱咤する。
 彼女は自らの両のまぶたを指でつまみ上げ、めくるようにして眼球を剥き出しにしていた。
 その目は虚空の一点を注視しており、爛々と輝く瞳は、明らかに正気を失っている。

「一体どうしたんですか!?」
「それはこっちが聞きたいですよ! 鈴は単なる不眠症ではなかったのですか!? 」
 父親は語気を荒げて言った。
「あなたやめて! 先生が悪い訳じゃないわ!」泣きながら母親が割って入る。
  
 騒動を聞き付け、残っていた看護師達がドヤドヤと待合に駆け付けた。
「先生。こ、これは……」
 精神科に勤める歴戦の看護師と言えど、彼女の異様さには言葉が出ないようだった。

「鈴さん、一体何があったの? 私に話せる?」
 私は彼女に問い掛ける。
 彼女の乾いた眼球が、ぎょろりとこちらを捉えた。

「白痴の王が目覚めてしまう……」
「どういう意味なの……、 白痴の王って?」

「うえてかじりつづける……あえてそのなをくちにしたものとておらぬ……はてしなきまおう……ふんぐるい! むぐるうなふ!!」

 彼女は奇声をあげた。唾液が飛び父親の顔面にかかる。
 今彼女との意思疎通は不可能だ。
「お父様、お母様。彼女に何があったかお答え願えますか?」
「どうもこうも無いですよ。内服薬もちゃんと飲んでいましたし、家内が付きっきりで看病してくれて本人も眠れるようになったと話していました」父親が答える。
「ではなぜ……」

「私がいけないんです……」母親が涙を溢しながら言った。
「鈴がもう良くなったよと、晴れやかに言うものだから、安心して暫く地元に帰ったのです。そして昨日、久しぶりに様子を見に行ったら……こんな状態で」
 母親はその場に崩れ落ちた。愛娘の現状があまりにも受け入れ難いのだろう。

「しかも、鈴は私たちの前でだけ寝たふりをしていたみたいで、実際は一睡もしていないようなんです」
「それは事実ですか!?」
「鈴がそう言っていました。私が駆け付けた当初はまだ少し会話ができたので……」
 にわかには信じがたいが、彼女の言うことが本当なら、もう20日以上眠っていないことになる。
 確か、不眠時間のギネスって11日間くらいじゃなかったかしら……。彼女はそれ以上眠らずに過ごしてたってこと?

「先生、鈴をどうにか治してください! お願いします!」
 母親が頭を下げる。
「分かりました、しかし、この状況は既にクリニックで対処できるものではありません。すぐに専門の大病院に入院する必要があるでしょう」
 私は看護師に指示し、直ぐに受け入れ先の確保を行った。
 
 幸いにも、近くの精神病院が受け入れてくれることになった。
 あれよあれよいう間に、救急車が到着し、彼女とその両親を連れて走り去って行った。
 彼女の姿を初めて見た救急隊員の顔は、今でも忘れられない。

 彼女が去った後、クリニックは一気に静寂に包まれた。まるで嵐が過ぎ去った後のように、私も看護師達も疲れきっていた。
 
 私は対応してくれたスタッフたちに労いの言葉をかけ、早々と帰宅させた。

 最後に残った私は、一人パソコンに向かい、入院先の病院に送る紹介状を作成していた。とは言っても、私は彼女を一度診察しただけの医者だ。紹介も何も、書けることは少ない。
 私は懸命に初診のことを思い出しながら、文章と睨めっこしていた。
 
いつの間にか、睡魔が私を襲ってきた。まぶたがついつい落ちそうになる。
 
 きっと疲れているんだわ……

 私は微睡まどろみの甘い誘惑に耐えながら、なんとか紹介状を書き上げることができた。
 
よかった、なんとか間に合ったわ。早いとこ送らないと。
 既に時刻は19時をまわろうとしていた。

 ふと、誰かが私を呼んでいるような気がした。
 反射的に後ろを振り向く。当たり前だが、そこには誰も居ない。
 それどころか、クリニックは今、私以外居ないはずだ。

 気のせいだろうか……。

 私は再びデスクへ向き直った。

「先生……私の言ったこと。理解してくれましたか?」

 私はイスから飛び起きて、周りを見渡した。
 
 今、確かに声が聴こえた……。
 
 部屋には誰も居ない。私は診察室から出て、待合室から玄関口まで見て回った。
 やはり誰も居ない。念のため、戸締まりも確認する。鍵はしっかりと施錠されていた。

 今度は窓から外の様子を伺う。誰かがイタズラしているのかもしれない。
 窓の外は、沈み行く太陽が見えるだけだった。

「まだ分かりませんか? この世界の真実が」

 また声が聴こえた。その声は、なぜかあの患者の声にそっくりだった。

 そんなはずないわ、少し疲れているだけよ。私の心は正常なはず。
 私は必死に自分に言い聞かせ、平常心を保とうとした。

「目を背けるつもりですか? でも無意味ですよ? この世のことわりを受け入れるしかないんです。私のように」

 秋山鈴の声が私の頭の中に響く。
 あり得ない、こんなことは。一体何が起きているの?
 それとも、私は本当におかしくなってしまったの?
 
 私は恐ろしくなって、外に出ようと窓に手を掛けた。
 
 あれ? もう日が暮れそうだったのに……いつの間にか太陽が高く登っている。
 私は目を擦って、その情景をまじまじと見た。

 天空に輝く太陽はメラメラと燃えている。なのに何故か、周囲は夜のように暗い。

 どこからともなく、くぐもったフルートの様な音色が聴こえてくる。
 蠍座とオリオン座が夜空に同時に輝き、赤く明滅するアンタレスの周りでは、異形の者達が知性の無い踊りを舞っている。

 三角錐の頭を持つ不定形の怪物が、何か冒涜的な言葉を吐きながらゲラゲラと笑っていた。

 何が起きようとしているの?

「魔王が目覚めるのです」

 目覚めるとどうなるの?

「事象が発散するのです。そしてまた集束する」

 世界が終わってしまうの?

「そうです。でも安心して、魔王はまた眠りにつく」
 
 その魔王の名は?

「盲目白痴にして全知全能……その名は……」












「あっ……いけない。私寝落ちちゃってた!?」
 私は飛び起きて、診察室の時計を確認した。
 時計の針は、ちょうど19時をまわろうとしていた。
 
 いけない、私としたことが仕事中に寝ちゃうなんて。よほど今日のことが堪えたんだわ。
 私は自分の頬をペチペチと叩く。そうすると幾分いくぶん眠気が晴れた気がした。

「さて、早いとこ終わらせなくちゃ」

 私は気を取り直して、書きかけの紹介状を作り始めた。






 





 

 

 
 
 




 





    
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