ひこうき雲

みどり

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ゆいの帰国⑨大好きのハグ

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飛行機は大阪から東京に着いて

乗客は降りる時間になった。


機内放送後


ゆいは離陸前に髪のピン留めをくれた2人の女の子たち

ひとりひとりに航空会社のグッズと一緒に

手紙を渡していた。


女の子たちはすぐ手紙を開封していた。


白い封筒と白い便箋に青色のペンで

1~2行の文章と飛行機と

航空会社の制服を着たゆいと女の子たちの

イラストが描いてあった。


女の子たちは興奮気味に後ろの席の大人たちに

手紙を見せていたので

ホソカワやカズキたちからも何となく内容はわかった。



その後


ゆいは座席上の荷物入れを開けながら機内後方に

歩いてきた。


ケーサツ官たちがゆいに声をかけた。

「おい、よかったらこれから焼肉にでも行かないか?」

「ありがとうございます。でも、この飛行機はすぐ大阪に

折り返すんですよ。ごめんなさい。」

「そうか。忙しそうだな。体に気をつけて頑張れよ。」


ゆいは中国人の団体客が席を離れるのを後方からじっと見ていた。

彼らが席を離れると、各座席をすぐ見て回った。


そのうち、何か手に持って前方に声をかけながら歩いて行った。

やがて忘れ物をしたと思われる男性が振り向いてそれを受け取っていた。


「スマホ忘れている人いませんか~?」

「あ、オレだ。すまん。すまん。」

「もぉ~外国で忘れ物したら大変なことになりますよ~。」

「いやぁ、助かったよ。じゃ、記念に1枚。」

「なんのこっちゃ。」

ホソカワと隣席の男が前方の様子を見ながらアテレコしていた。



ホソカワとカズキたちはC席側の通路から乗降口へ向かった。

ソウタ母子はまだ1番前の席に座っていた。


カズキが乗降口に来た時

マダムKたちがゆいにだけ大好きのハグをしていた。

気のせいか、ゆいの目も潤んでいるように見えた。


ソウタ母と目が合ったカズキは

「お先にどうぞ」と手で合図した。


ソウタはゆいの前に来ると

「ゆい、ボクにもハグして。」と言った。


ゆいはソウタと同じ目線になると

「いいよ。普通のハグと大好きのハグがあるけど

どっちがいい?」と聞いた。

ソウタは迷わず「大好きのハグ!」と言った。


「ソウちゃん大好き。ギュ~。」

ゆいはソウタに大好きのハグをした。


「ボ、ボクは大きくなったらゆいと結婚する。」

ソウタは真っ赤な顔で酔っ払いのようにフラフラした。


「もう、何言ってるの。ソウちゃん、行くわよ!」

ソウタ母は乗務員たちと挨拶を交わすと

ソウタの手を引いて降りていった。


ゆいは立ち上がると

「さぁ、次のハグは誰かな?」

ホソカワたちに向かって両腕を広げた。


「オマエとハグしたらアホがうつるわ!」

「アホちゃいまっせ~。てか、誰がアホやねん!」

ホソカワたちは笑ったが

「ちょっと、あなた、お客さまになんてこと言ってるの。」

お姉さんスタッフに注意されて、ゆいは乗務員の列に戻った。


「あの、一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

カズキは勇気を出してゆいに声をかけた。

本当はツーショット写真がよかったのだが

ホソカワたちも一緒に写ることになり

スタッフが撮った9人の集合写真となってしまった。

しかも、同僚たちがふざけて変なポーズをしていた。


「じゃ、後でな。」

ホソカワたちは飛行機を降りた。


「ありがとう。中国からの団体さまがいらしたから

何かあった時のために乗ってもらったけど、助かったわ。

折り返しは他のスタッフが来てくれることになったから大丈夫。

もう、帰っていいわよ。良い休暇を!」

お姉さんスタッフにそう言われて、ゆいも飛行機を後にした。



ホソカワたちがロビーまで来ると

見覚えのある人物が立っていた。


「あれ、ユウキじゃね?」

「オレ忘れてたわ!」

「なるほどね。そういうことね。」

機内でカズキの前に座っていた4人は何かピンときたようだった。


立っている彼を、通行人が振り返ったりチラチラ見ていた。

ホソカワたちはその人物に近づいて行った。


「やっぱり。ユウキじゃねーか。久しぶり。」

「お疲れさまです。ホソカワさん、みなさんも。お仕事ですか?」

「あぁ。大阪から帰って来たとこさ。そういえば、機内でゆいに会ったぞ。」

「そうですか。」

「じゃ、オレたちは次の仕事があるから。ここで。」

「わかりました。お疲れさまです。お気をつけて。」

ユウキはペコリと頭を下げた。


ホソカワたちは駐車場に向かって歩き出した。


「え、あの、ちょっと。ゆいちゃんと待ち合わせは?」

「何言ってんだよ。さぁ、オレたちは帰るぞ。」

「オレの恋の始まりは?」

「人生諦めが肝心だぞ。」

「まぁ、相手が悪かったな。すぐ忘れろ!」

「ユウキはずっと待ってたんだ。この時がくるのを。」

「今日はオレたちが何か美味いもん食わせてやるから。」

「え~。そんなぁ。」

カズキは男たちに両肩を組まれて駐車場へと向かった。


しばらくして


ユウキはポケットのスマホを見た。


「この後、ゆいと飯食いに行く約束してたんだけど。

オレたちは行けなくなったと言っといてくれ。

じゃあな💖上手くやれよ💖」


ホソカワからのハート付きメッセージを見たユウキは

吹き出しそうになるのを堪えて

スマホをまたポケットにしまった。






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