ひこうき雲

みどり

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時を経て みんなの体操着

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ゆいは運動神経がよかったので

大学受験はスポーツ推薦で受けることにした。


だが、試験前日からインフルエンザになり

受験日当日は受験校に行けなかった。


結果、不合格だった。

救済措置はなかった。

本命しか考えていなかったため慌てて

進学先を考え直さなければならなくなった。


ロクに勉強もせず、推薦で大学に入ろうとしていたと

ゆいのことをよく思っていなかったクラスメイトから

「ざまぁみろ」と言われたりもした。


本人は、なるようになる、くらいに思っていた。


そして、とある私立の女子大学の2次募集で合格した。

そこはレースフラワー女子学園という幼稚園から大学まで

一貫教育している学校であった。

歴史あるお嬢様学校でもあった。


ゆいがその学校に合格すると

両親や祖父母をはじめ祖父母宅の飼いネコたちまでもが

少しは女の子らしくなるだろうと期待した。



ゆいは保育士になりたかったので

教育学部の中にある保育科へ進学した。

保育科は2クラスあった。


入学して間もなく

体育の授業で各々の体力測定が行われた。


最後に担当のアブラヤ准教授が

「この中にバック転など出来る人はいますか」

と言ったので、ゆいは挙手し皆の前で披露した。

できたのは、ゆいひとりだけだった。

授業は何事も無く終わった。



放課後、ゆいはアブラヤ准教授の元に呼び出された。

アブラヤは、ボランティア部の顧問だった。

毎年学園祭で教育学部の学生が体育館のステージで歌って踊って

チャリティーライブを行っていた。

メンバー募集しても集まらないので

アブラヤ風、体力測定という名のオーディションであった。


何も知らずにやって来たゆいは

アブラヤと上級生たちに囲まれ、断り切れず

入部することになってしまう。

新入生はゆいひとりだけだった。


秋の学園祭当日に向けて

春からずっと練習することになる。



ライブでは

来場者はお金を払ってチケットを買うのではなく

使わなくなったエンピツや消しゴムなど1個からでいいので

持参してそれを入場券とする。

教育実習の一環として、対象者(お客さん)は子どもたち。

当日は外部から誰でも会場に入れる。


学園祭当日はそれぞれの会場で色々な催し物が行われ

たくさんの人が学園にやって来る。


アブラヤの部は通称アブラゼミと呼ばれていた。

集客は見込めないので、敷地の外れ

誰も来ないような第5体育館が専用会場だった。



ダンスメンバーはゆいを入れても5人。他には裏方スタッフが数名いた。

全員上級生たちだ。


「バックバンドでもいれば少しはハクが付くのにな。」

リーダーのピロコのひと言に、ゆいは

「イトコの兄ちゃんたちがバンドやってる。ヒマだと思うから呼ぼうか?」

と言い、男子禁制だが前日の予行演習だけ学園長から許可が降りた。


ゆいは興味がなかったため知らなかったが

イトコの兄ちゃんたちは人気急上昇のバンドとなっていた。


そんなイトコの兄ちゃんたちが打ち合わせで来校しただけで

女子たちは大騒ぎした。


ライブは大盛況となり

文房具もたくさん集まった。


集まった文房具は、主に外国の

学校に行きたくても行けない子どもたちに

届けられた。


そんな中

文房具に混じって

カバンや靴、体操着などもあった。



「自分は不登校だったけど、必要とされている子に使ってもらいたい。

この子たち(体操着たち)はそのために生まれてきたんだから。」

そう言われ部員は預かった。

中には新品同様のものもあった。


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