ひこうき雲

みどり

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さるの頼まれごと

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ある田舎の村に

好奇心旺盛な少年がいました。


学校の勉強はあまりできませんでしたが

運動神経のよい笑顔の素敵な少年でした。


身軽な痩せっぽちな少年のことを

村の大人たちは、さると呼んで可愛がっていました。


さるの住む村は山と海が近くにありました。

さるは山の上にある木に登り

海を行き交う船をよく見ていました。


大きくなったら

いつかあの海の向こうに行ってみたいと

思っていました。


さるは村の学校を卒業すると東京に出て行きました。


知っている人もいない

言葉もなんだか違います。

そこはまるで知らない世界でした。


さるの幼なじみジロウもまた東京にいました。

ジロウは頭もよく裕福な家庭の子だったので

東京の大学を出て警察官になりました。


ジロウが学校に行っている間

さるは働いていました。

色々な仕事をしました。


そんな中

ひょんなことからトラック野郎のおじさんに

拾われます。


トラックの助手席に座り

色々な所へ連れて行ってもらいました。

なによりおじさんがカッコよく見えて

おじさんの働く会社でお世話になることにしました。


そこの

社長は皆に「親分」と呼ばれていました。

親分の家には女学校に通う娘がいました。

ひとり娘の彼女はおしとやかな女の子でした。

街で評判のお嬢さんでした。

が、さるの前でだけ

さるに劣らずおてんばな女の子でした。


ある日


さるは親分の部屋に呼ばれます。


「ワシは病気でこの先長くは生きられない。

 世間から鼻つまみ者とされていたうちの若い衆のことが

 いちばん気がかりだ。アイツらだって立派な人間だ。

 ワシはオマエにこの会社のことを頼みたい。

 それから、トミのことも。」


親分の隣でトミも微笑んでいました。



こうして

さるの波瀾万丈な冒険はまだまだ続くのでした。



幼い孫娘・ゆいを乗せて

平次の運転するトラックは今日も安全運転で走っています。


「おじいちゃん、社長って偉いの?」


「社長は偉くないよ。うちで働いてくれているみんなが楽しく

 仕事ができるようにするのが社長の仕事だよ。」


「ママがね、パパとママはパパとママって呼んでもいいけど

 おじいちゃんとおばあちゃんには『お』をつけなさい、って言ったよ。

 丁寧な言い方になるの?『お』付けると。」


「そうか。ママはそんなこと言ってたか。」


「社長の仕事ってやっぱりゆいにはわかんないや。

 おじいちゃんはおじいちゃんだから。」


「それでいいじゃないか。ゆいのおじいちゃんなんだから。

 社長の仕事はただひとつ。何かあった時に責任を取るだけさ。」


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