幽現界の番人~死後の世界に迷い込んだ祓術師はそこでも怪異を退治する~

桜月零歌

文字の大きさ
3 / 12

第3話 統轄管理室へようこそ

しおりを挟む
 廊下を進み、設置されたエレベーターに乗ると豊命が話し始めた。
 
「まず、私たち調冥者は幽現界の均衡を保つことを役目としているの。大きく分けて仕事内容は二つ。一つ目は幽現界に住む人たちが快適に過ごせるようあらゆる手を使ってサポートすることよ」
 
 先ほどの受付対応もそれに当たるらしく、やってくるお客さんがストレスフリーに過ごせるように日々業務に励んでいるのだそう。逆に即倒するぐらいの負荷を来客たちにかけている気がしなくもないが。
 
 目的の階に着いたようで、照真と豊命はエレベーターを降りて歩き出す。
 
「それで、二つ目は?」
「話したいところだけど、もう着くからまたその時が来たら教えるわ」
 
 豊命に言われて前を見ると、統轄管理室と書かれた扉があった。職場に着き、豊命が扉を開ける。彼女に続いて入った照真は、来て早々、目の前の光景に唖然とする。

 配置されたデスクにはところ狭しと山積みにされた書類があり、栄養ドリンクらしきものが置かれている。働いている職員は皆、げっそりとした様子で液晶パネルに付属されたキーボードを高速連打していた。
 
「ほ、豊命さん……ここは?」
 
 照真は恐る恐る隣の豊命へ声をかける。
 
「ここは統轄管理室。冥路閣にいる調冥者を取り纏めると同時に、人手の足りていない部署の手伝いをしたり、他の調冥者には手に負えない事案を解決するのが仕事よ」
 
 豊命は笑顔を貼りつけた状態で簡潔に説明しているが、いかんせん目が笑っていない。まるでブラック企業の一角を絵に描いたような状態だ。

 一週間だけとはいえ、今日からここで働くのかと思うとゾッとする。
 
「か、帰って良いすか?」
「駄目に決まってるでしょ。大体、審査も受けてない今の貴方じゃ帰るに帰れないわよ」
「っすよね……」
 
 仕方なく豊命の後に続いて中に入ってみれば、各所から職員の呻き声が聞こえてきた。思わずここは祟魔の巣窟かと勘違いしそうになる。
 
「ほーら二人とも。新入り連れて来たわよ。しゃきっとしなさい」
 
 豊命は鬱蒼とした空気を変えようと、職員たちに向けて言った。
 
「気が弱くて体力ない奴ならこの部署には要らないから、お断りよー」
 
 仮眠を取っていたのか、若草色の髪をポニーテルで纏めた女性がソファから身じろぎしながら言ってくる。
 
「初っ端からそれは酷いんじゃないかな……。けど、新入りなんて本当に珍しいね。何かあったのかい?」
 
 やつれた声で話す男性はだいぶお疲れのようで、椅子から立った拍子に首元で一つに纏められた菫色の長髪がだらんと力なく椅子から落ちた。
 
「あー、それがね」
 
 二人とも重い足取りで豊命の元にやってきたところで、彼女は事情を説明し始めた。

 豊命が話している最中、二人が照真の方をじっと見るので、何かあるのかと訊いてみる。どうやら二人には照真が生きている人間だと分かるらしい。
 
「なるほど、迷い込んじゃったのか。それはまた難儀なことになったね」
「生きてようが死んでようが仕事できるやつなら大歓迎よ」
 
 男性が同情するような目で見てくるのに対し、女性は勝気な笑みを浮かべながらきっぱりとそう告げた。
 
「どうも、度会照真っす」
「僕は斎綾さいりょう。よろしくね」
「あたしは薙華ていか。期待してるわよ」
「うっす。よろしくお願いします」
 
 自己紹介を終え、二人とも悪い人ではなさそうだ。問題は仕事内容なのだが、どのぐらいハードなのだろうか。そう不安に思っていると、豊命がパンッと両手を叩いた。
 
「一通り説明したところで、私はちょっと出るから。二人とも後はよろしくね」
「えっ、あ、ちょっと!?」
 
 豊命は言うだけ言って、部屋から出て行く。置いていかれそうになった照真は、引き留めようと後を追いかける。

 だが、逃げ足が速いのか、既に彼女の姿はなくなっていた。
 
「あー、どうしましょう……」
 
 照真は困惑しながら、斎綾さいりょう薙華ていかの方を振り返る。突然、丸投げではなく後を任せられたことにより、二人も困惑している様子だ。
 
「あたし、今日のところは事務仕事だから手伝ってもらうこととかあんまりないのよね……」
「となると、僕か。んー、そうだなぁ……」
 
 斎綾は唸りながら考え始める。急に振られても困るだろうし、新人の俺に手伝えることなんて早々ないだろうなと感じながら彼の回答を待つ。
 
「あ、そうだ。ついさっき入ってきた案件があったんだった。ちょうど良いから、照真くんにも手伝ってもらおうかな」
「うっす。自分にできることであれば」
「なら行こうか」
 
 斎綾はそのまま管理室を後にする。照真も今度こそ置いて行かれないように後を追うのだった。



―――――――
【次回予告】
照真は斎綾に連れられて依頼のあった発電所へと向かうことになる。

読んで面白いと思ったら、お気に入り登録、♡をよろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...