9 / 12
第9話 窮地
しおりを挟む
邪気の流れを辿ること十数分。照真と斎綾は市街地を抜けて工業地帯までやってきていた。
「ここってこの前来た……」
「あぁ。もしかしたらとは思っていたけど、やっぱりあのときの邪気が関係していたか」
照真たちの目の前には、発電所がそびえたっていた。発電所の門を潜った先にある地面が裂けて大きな穴が空いている。邪気はそこから流れているようだ。
その付近には烏の嘴を持ち、烏の翼を生やした人型の祟魔が二体いた。二体とも錫杖を持っており、山伏の格好をしていることから烏天狗と見受けられる。
「君たちかい? 邪気を流し込んでるのは」
「だったらなんだ」
斎綾が烏天狗たちに近づくと、左にいる臙脂色の装束を纏った烏天狗はこれ以上進むなというように立ち塞がる。
二体の腰には刀が差されていた。穴を開けることができるのなら、きっと術も扱えるのだろう。
「いや、どうせ口で言っても聞かないだろうからね。その穴閉じさせてもらうよ」
斎綾は空いた穴から邪気が流れ出るのを見つつ、懐に手を入れる。
「玄峯様の命だ。ここは何としてでも死守する」
紺色の装束を纏った烏天狗が言い放つと、二体は空へ飛翔した。ある程度の高度まで行くと、錫杖を掲げる。直後、空中に次々と陣が展開されていく。
『僕が右の方を重点的に叩く。真くんは左の方を頼めるかい?』
『了解っす』
相手の強さは玄峯よりは下だが、いつも対峙してる祟魔よりも少し上だ。刀を差してるということは遠距離も近距離も両方こなせるということ。
今回は幸いにも斎綾のバックアップもあるため、アレは使わずに済みそうだ。
そこまで考えたところで、二体の烏天狗は烏の翼を広げて飛翔しており、展開された陣から光が放射される。
照真と斎綾は互いに散開。照真が避けながら抜刀した刃に炎を纏わせている間にも、斎綾は懐から出した札を指に挟んだ状態で拍手する。
すると、工業地帯一帯に邪気の流出を防ぐ大規模な結界が構築された。
(凄ぇ……今の一瞬でこの規模の結界を貼りやがった……)
遮蔽物を利用しながら降り注ぐ光を回避していた照真は、上空からこちらを見下ろす烏天狗たちへ立て続けに刀を振るい、炎の斬撃を飛ばす。しかし、容易に躱されてしまった。
「墜ちろ!」
斎綾が烏天狗たちに向けて言った瞬間、烏天狗たちの真上から無数の水の刃が降り注ぎ、生えていた烏の翼が削がれていく。すっかり油断していたのか、翼を失った二体の烏天狗は呆気なく地に墜ちた。
「助かります!」
「礼は良いから集中!」
「はい!」
地面を蹴り上げ、墜ちた地点へ突進する照真。手にした太刀を墜ちてきた烏天狗に向けて振りかざす。が、すんでのところで相手の錫杖でいなされる。
立て続けに太刀を振るうが、相手は烏天狗。一通りの棒術は収めているため、こちらが太刀だろうとそう簡単に攻撃は入らない。
すると、錫杖の切っ先についていた刃が脇腹を直撃し、袴に赤い染みができる。
(ま、一筋縄じゃいかないよな)
祓術で止血しながらこの状況をどう切り崩そうかと考えていたその時、烏天狗の後方から光を纏った何かが高速で迫ってきた。
『照真くん、避けて!』
斎綾からの念話を受けて、照真は咄嗟に後ろへ退く。
直後、烏天狗の身体に雷を纏った矢が刺さり、全身に雷撃が走った。斎綾が放った術に引っかかったようで、烏天狗が怯む。
照真は踏み込んで、接近。炎を纏わせた太刀で烏天狗の核のある場所を狙う。
次の瞬間、目の前にいた烏天狗が錫杖を投げると同時に姿を消した。照真はすぐさま身体を横に逸らして錫杖を躱し、飛んでいった方向を向く。
すると、後ろで支援していた斎綾が飛んできた錫杖を弾き飛ばした。と、そこへ二体の烏天狗が出現する。その手にはそれぞれ刀が握られていた。
「斎綾さん!」
駆け出そうとするが、間に合わない。焦りが照真を支配する中、斎綾は目の前の敵の刀を太刀で、背後の敵の刀を錫杖で受け止める。周囲に風圧が発生し、鍔迫り合いの音が鳴り響く。
「術者だからって舐めてもらっちゃあ困るよ」
「何っ⁉」
斎綾は両者に屈することなく、それぞれ太刀と錫杖で刀をいなす。
と、その場で踏み込み、正面で体勢を崩した烏天狗の懐へ蹴りを入れ、背後にいた烏天狗と対峙する。強烈な蹴りを受けた烏天狗は迫ってくる照真目掛けて飛んでいく。
背後を捉えた照真は炎の刃で烏天狗を核ごと両断した。もう一方の烏天狗と応戦していた斎綾も水を纏わせた刀身で核を貫き、二体の烏天狗は黒い靄となって消滅する。
二体の烏天狗が祓われたことにより、邪気を放出していた穴が閉じた。
「これでよし」
「なんとか塞がったっすね」
先ほどまで穴のあった箇所を見つめる。これで邪気の流出を防ぐことができた。後に残った邪気は工業地帯全体に貼った結界が自然と浄化してくれるだろう。
「にしても、斎綾さん。その刀って……」
照真は斎綾の腰に差された太刀へ視線を落とす。
「あぁ、これかい? 普段は豊命と薙華が突っ走って前に出ちゃう分、僕は二人のサポート役として立ち回ることが多いんだけど、本当の得物はこっちなんだ」
「なるほど……」
戦闘開始直前、言葉を交わすことなく豊命と薙華は上空にいる玄峯目掛けて突っ込んでいき、斎綾に後を任せていた。それだけ付き合いが長く、互いに信頼しているのだろう。
だが、二体の烏天狗の全力攻撃をいとも簡単に防ぐことはなかなかできるものではない。どんだけ力あるんだこの人……。
「何はともあれ、これで……」
斎綾が声を発したその時、二人の視界の端に一筋の緑色の光が映った。
(何だ? 今の……)
眉を顰めた刹那、大地が揺れるほどの轟音が照真たちを襲う。咄嗟に視力を強化して音のした方を見てみれば、ビルの上階から煙が出ている。
破壊されたコンクリート壁の向こうには瓦礫に埋もれ、全身血だらけの薙華の姿があった。その光景に思わず呆気に取られる。
「照真くん!」
斎綾から名前を呼ばれたかと思えば、後ろへ突き飛ばされた。成すすべなく地面に転がった照真は、起き上がると同時に目を見開く。
照真の視界の先では、いつの間に現れたのか玄峯と斎綾が刃を交えていた。
しかし、数度撃ち合った後、斎綾は玄峯の掌底打ちを受け、吐血。建物の外壁に背中から突っ込み、頭から血が流れ出る。
「えっ……?」
一瞬のできごとに頭が追いつかず、太刀を手に硬直していると、手をぷらぷらさせてやれやれと溜息を吐く玄峯と目が合った。
「お、生きてるようでおじさん安心安心」
玄峯に微笑みかけられ、ゾッと背筋が凍る。
(駄目だ……これはまずい……)
畏怖している間にも玄峯は歩み寄ってくる。
だが、全身が冷え切って、その場から動けない。けど、戦わないと死ぬ……。
なんとか太刀を握って立ち上がろうとするが、まともに足に力が入らず立てそうにない。
顔を歪めた照真は歯を食いしばりながら、手元の太刀を睨みつける。立てよ、立たないとこのまま全員やられるぞ。そう自分を𠮟責する。
「だあああああっ!」
どこからか雄叫びが聞こえてきた。照真はふと顔を上げる。
すると、そこには玄峯に向けて大鎌を振るう豊命がいた。玄峯はスレスレで回避。地面に刺さった大鎌を引き抜き、足に力を入れ、再度振り上げる。
玄峯は手にした錫杖でそれを迎撃した。豊命は刃を手前に下げて錫杖ごと玄峯の体勢を崩し、返した柄頭で顎を撃つ。すると、玄峯の身体が仰け反る。
「はぁっ!」
空いた胴へ大鎌を横に振るも、両断する前に玄峯が後ろへ跳ぶ。豊命はすかさず玄峯に接近。目掛けて大鎌を振り下ろす。が、横に避けられる。
「しまっ――」
気づいた時には遅く、玄峯に首を絞められる。
首を絞める玄峯の手に力が入り、豊命の顔がみるみるうちに歪み、持っていた大鎌が手から抜け落ちる。だが、彼女も抵抗するべく、玄峯の腕を力いっぱい掴む。
「あんたはっ……逃げ……なさい」
苦悶に満ちた表情で言われ、照真は思わず身を固くする。
……逃げる。
言われた言葉を心の中で反芻する。確かに自分じゃ玄峯という強敵には敵わないかもしれない。
現に薙華や斎綾がやられ、豊命まで危機的状況に陥っているのだから、逃げるしかないのかもしれない。でも、それでも……。
「――悪いけど、それはできないっす」
絞り出すような声で言うとともに照真は自らの拳を握りしめる。
「何っ……言って……」
息も満足にできない中、豊命は逃げないと言う照真を睨みつける。その目には今すぐ逃げないと殺すというように殺気が溢れていた。だが、それでも照真は臆することなく、足に力を入れて立ち上がる。
「もう目の前で誰かを失うのはごめんでしてね。それにあの時、殺されそうになったところをあんたに助けられた」
九年前のあの日。この人は災禍から、家族と故郷を失い、絶望して、もう死んでも良い……そう思っていたところを救ってくれた。
すべてを失くした自分に生きる意味を与えてくれた。微笑んでくれた笑顔がこの上ないほどに眩しくて、頭を撫でられた手が温かかった。
ここでこの人を、豊命を……みんなを失う訳にはいかない。だから……。
「――今度は俺があんたを助ける番だ」
照真はまっすぐ顔を上げる。そして、持っていた太刀を納刀し、右手を前にし、虚空へと翳す。
すると、空間から徐々に棒状の光が現れた。それは徐々に形を成し、やがて一振りの剣となる。
銘を禍祓剣。かつて籠神社に奉納されていた退魔の剣。
千年以上前に、眞名井原で暴れ回っていた悪龍を二枚の銅鏡に封じるまでに至らしめた宝剣だ。
その力の強さ故に養父からこの剣は、使わないと勝てないその時が来るまで絶対に抜くな。そう言われてきた。
だが、明らかに人ではない者たちが玄峯相手に戦って瀕している。これを使わないときっと勝てないどころか全滅するだろう。まさに今がその時だ。
意を決した照真は、手にした剣を水平に構えて地面を蹴り上げた。
―――――――
【次回予告】
玄峯との激戦を繰り広げる照真。無事に勝つことはできるのか!?
読んで面白いと思ったら、お気に入り登録、♡をよろしくお願いいたします!
「ここってこの前来た……」
「あぁ。もしかしたらとは思っていたけど、やっぱりあのときの邪気が関係していたか」
照真たちの目の前には、発電所がそびえたっていた。発電所の門を潜った先にある地面が裂けて大きな穴が空いている。邪気はそこから流れているようだ。
その付近には烏の嘴を持ち、烏の翼を生やした人型の祟魔が二体いた。二体とも錫杖を持っており、山伏の格好をしていることから烏天狗と見受けられる。
「君たちかい? 邪気を流し込んでるのは」
「だったらなんだ」
斎綾が烏天狗たちに近づくと、左にいる臙脂色の装束を纏った烏天狗はこれ以上進むなというように立ち塞がる。
二体の腰には刀が差されていた。穴を開けることができるのなら、きっと術も扱えるのだろう。
「いや、どうせ口で言っても聞かないだろうからね。その穴閉じさせてもらうよ」
斎綾は空いた穴から邪気が流れ出るのを見つつ、懐に手を入れる。
「玄峯様の命だ。ここは何としてでも死守する」
紺色の装束を纏った烏天狗が言い放つと、二体は空へ飛翔した。ある程度の高度まで行くと、錫杖を掲げる。直後、空中に次々と陣が展開されていく。
『僕が右の方を重点的に叩く。真くんは左の方を頼めるかい?』
『了解っす』
相手の強さは玄峯よりは下だが、いつも対峙してる祟魔よりも少し上だ。刀を差してるということは遠距離も近距離も両方こなせるということ。
今回は幸いにも斎綾のバックアップもあるため、アレは使わずに済みそうだ。
そこまで考えたところで、二体の烏天狗は烏の翼を広げて飛翔しており、展開された陣から光が放射される。
照真と斎綾は互いに散開。照真が避けながら抜刀した刃に炎を纏わせている間にも、斎綾は懐から出した札を指に挟んだ状態で拍手する。
すると、工業地帯一帯に邪気の流出を防ぐ大規模な結界が構築された。
(凄ぇ……今の一瞬でこの規模の結界を貼りやがった……)
遮蔽物を利用しながら降り注ぐ光を回避していた照真は、上空からこちらを見下ろす烏天狗たちへ立て続けに刀を振るい、炎の斬撃を飛ばす。しかし、容易に躱されてしまった。
「墜ちろ!」
斎綾が烏天狗たちに向けて言った瞬間、烏天狗たちの真上から無数の水の刃が降り注ぎ、生えていた烏の翼が削がれていく。すっかり油断していたのか、翼を失った二体の烏天狗は呆気なく地に墜ちた。
「助かります!」
「礼は良いから集中!」
「はい!」
地面を蹴り上げ、墜ちた地点へ突進する照真。手にした太刀を墜ちてきた烏天狗に向けて振りかざす。が、すんでのところで相手の錫杖でいなされる。
立て続けに太刀を振るうが、相手は烏天狗。一通りの棒術は収めているため、こちらが太刀だろうとそう簡単に攻撃は入らない。
すると、錫杖の切っ先についていた刃が脇腹を直撃し、袴に赤い染みができる。
(ま、一筋縄じゃいかないよな)
祓術で止血しながらこの状況をどう切り崩そうかと考えていたその時、烏天狗の後方から光を纏った何かが高速で迫ってきた。
『照真くん、避けて!』
斎綾からの念話を受けて、照真は咄嗟に後ろへ退く。
直後、烏天狗の身体に雷を纏った矢が刺さり、全身に雷撃が走った。斎綾が放った術に引っかかったようで、烏天狗が怯む。
照真は踏み込んで、接近。炎を纏わせた太刀で烏天狗の核のある場所を狙う。
次の瞬間、目の前にいた烏天狗が錫杖を投げると同時に姿を消した。照真はすぐさま身体を横に逸らして錫杖を躱し、飛んでいった方向を向く。
すると、後ろで支援していた斎綾が飛んできた錫杖を弾き飛ばした。と、そこへ二体の烏天狗が出現する。その手にはそれぞれ刀が握られていた。
「斎綾さん!」
駆け出そうとするが、間に合わない。焦りが照真を支配する中、斎綾は目の前の敵の刀を太刀で、背後の敵の刀を錫杖で受け止める。周囲に風圧が発生し、鍔迫り合いの音が鳴り響く。
「術者だからって舐めてもらっちゃあ困るよ」
「何っ⁉」
斎綾は両者に屈することなく、それぞれ太刀と錫杖で刀をいなす。
と、その場で踏み込み、正面で体勢を崩した烏天狗の懐へ蹴りを入れ、背後にいた烏天狗と対峙する。強烈な蹴りを受けた烏天狗は迫ってくる照真目掛けて飛んでいく。
背後を捉えた照真は炎の刃で烏天狗を核ごと両断した。もう一方の烏天狗と応戦していた斎綾も水を纏わせた刀身で核を貫き、二体の烏天狗は黒い靄となって消滅する。
二体の烏天狗が祓われたことにより、邪気を放出していた穴が閉じた。
「これでよし」
「なんとか塞がったっすね」
先ほどまで穴のあった箇所を見つめる。これで邪気の流出を防ぐことができた。後に残った邪気は工業地帯全体に貼った結界が自然と浄化してくれるだろう。
「にしても、斎綾さん。その刀って……」
照真は斎綾の腰に差された太刀へ視線を落とす。
「あぁ、これかい? 普段は豊命と薙華が突っ走って前に出ちゃう分、僕は二人のサポート役として立ち回ることが多いんだけど、本当の得物はこっちなんだ」
「なるほど……」
戦闘開始直前、言葉を交わすことなく豊命と薙華は上空にいる玄峯目掛けて突っ込んでいき、斎綾に後を任せていた。それだけ付き合いが長く、互いに信頼しているのだろう。
だが、二体の烏天狗の全力攻撃をいとも簡単に防ぐことはなかなかできるものではない。どんだけ力あるんだこの人……。
「何はともあれ、これで……」
斎綾が声を発したその時、二人の視界の端に一筋の緑色の光が映った。
(何だ? 今の……)
眉を顰めた刹那、大地が揺れるほどの轟音が照真たちを襲う。咄嗟に視力を強化して音のした方を見てみれば、ビルの上階から煙が出ている。
破壊されたコンクリート壁の向こうには瓦礫に埋もれ、全身血だらけの薙華の姿があった。その光景に思わず呆気に取られる。
「照真くん!」
斎綾から名前を呼ばれたかと思えば、後ろへ突き飛ばされた。成すすべなく地面に転がった照真は、起き上がると同時に目を見開く。
照真の視界の先では、いつの間に現れたのか玄峯と斎綾が刃を交えていた。
しかし、数度撃ち合った後、斎綾は玄峯の掌底打ちを受け、吐血。建物の外壁に背中から突っ込み、頭から血が流れ出る。
「えっ……?」
一瞬のできごとに頭が追いつかず、太刀を手に硬直していると、手をぷらぷらさせてやれやれと溜息を吐く玄峯と目が合った。
「お、生きてるようでおじさん安心安心」
玄峯に微笑みかけられ、ゾッと背筋が凍る。
(駄目だ……これはまずい……)
畏怖している間にも玄峯は歩み寄ってくる。
だが、全身が冷え切って、その場から動けない。けど、戦わないと死ぬ……。
なんとか太刀を握って立ち上がろうとするが、まともに足に力が入らず立てそうにない。
顔を歪めた照真は歯を食いしばりながら、手元の太刀を睨みつける。立てよ、立たないとこのまま全員やられるぞ。そう自分を𠮟責する。
「だあああああっ!」
どこからか雄叫びが聞こえてきた。照真はふと顔を上げる。
すると、そこには玄峯に向けて大鎌を振るう豊命がいた。玄峯はスレスレで回避。地面に刺さった大鎌を引き抜き、足に力を入れ、再度振り上げる。
玄峯は手にした錫杖でそれを迎撃した。豊命は刃を手前に下げて錫杖ごと玄峯の体勢を崩し、返した柄頭で顎を撃つ。すると、玄峯の身体が仰け反る。
「はぁっ!」
空いた胴へ大鎌を横に振るも、両断する前に玄峯が後ろへ跳ぶ。豊命はすかさず玄峯に接近。目掛けて大鎌を振り下ろす。が、横に避けられる。
「しまっ――」
気づいた時には遅く、玄峯に首を絞められる。
首を絞める玄峯の手に力が入り、豊命の顔がみるみるうちに歪み、持っていた大鎌が手から抜け落ちる。だが、彼女も抵抗するべく、玄峯の腕を力いっぱい掴む。
「あんたはっ……逃げ……なさい」
苦悶に満ちた表情で言われ、照真は思わず身を固くする。
……逃げる。
言われた言葉を心の中で反芻する。確かに自分じゃ玄峯という強敵には敵わないかもしれない。
現に薙華や斎綾がやられ、豊命まで危機的状況に陥っているのだから、逃げるしかないのかもしれない。でも、それでも……。
「――悪いけど、それはできないっす」
絞り出すような声で言うとともに照真は自らの拳を握りしめる。
「何っ……言って……」
息も満足にできない中、豊命は逃げないと言う照真を睨みつける。その目には今すぐ逃げないと殺すというように殺気が溢れていた。だが、それでも照真は臆することなく、足に力を入れて立ち上がる。
「もう目の前で誰かを失うのはごめんでしてね。それにあの時、殺されそうになったところをあんたに助けられた」
九年前のあの日。この人は災禍から、家族と故郷を失い、絶望して、もう死んでも良い……そう思っていたところを救ってくれた。
すべてを失くした自分に生きる意味を与えてくれた。微笑んでくれた笑顔がこの上ないほどに眩しくて、頭を撫でられた手が温かかった。
ここでこの人を、豊命を……みんなを失う訳にはいかない。だから……。
「――今度は俺があんたを助ける番だ」
照真はまっすぐ顔を上げる。そして、持っていた太刀を納刀し、右手を前にし、虚空へと翳す。
すると、空間から徐々に棒状の光が現れた。それは徐々に形を成し、やがて一振りの剣となる。
銘を禍祓剣。かつて籠神社に奉納されていた退魔の剣。
千年以上前に、眞名井原で暴れ回っていた悪龍を二枚の銅鏡に封じるまでに至らしめた宝剣だ。
その力の強さ故に養父からこの剣は、使わないと勝てないその時が来るまで絶対に抜くな。そう言われてきた。
だが、明らかに人ではない者たちが玄峯相手に戦って瀕している。これを使わないときっと勝てないどころか全滅するだろう。まさに今がその時だ。
意を決した照真は、手にした剣を水平に構えて地面を蹴り上げた。
―――――――
【次回予告】
玄峯との激戦を繰り広げる照真。無事に勝つことはできるのか!?
読んで面白いと思ったら、お気に入り登録、♡をよろしくお願いいたします!
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる