転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

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本編

34.狼狽

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 現在、瑛士君に背負われて移動している。放置して先に戻って良いとは言ったのだが、結局こうしてお世話になってしまった。

「ふ……不甲斐ない」
「ウケる。それ前に酔っ払った時と同じレベルな」
「あ……そうだ。エイジは世話焼きたいタイプだった」

 あまり機会はなかったが、前に少しだけ話してくれた好きな人は「つい世話を焼きたくなる人」みたいに俺の中では記憶されている。それ以上は脳が拒否したようで、詳細までは覚えていないけれど。

「おん? あー……覚えてたのか」

 部屋の前に着いたので、手が塞がってる瑛士君の代わりに開けるよう言われ、背中に乗ったまま、ういーと手を伸ばす。手ぶらで来たので部屋には何も置いてないし、鍵も開けっぱだ。

 寝台に乗っけられ、出る時は乱れてたシーツがまたピーンと伸ばされている事に気づく。あの神官さん、マメだなとシーツを撫でていた手のすぐ先に瑛士君が座った。

「好きなタイプって言うなら、フィーはモロに俺の好きなタイプだよ。あの爺さんが『ご褒美』とか言い出した時、一瞬、女神がわざわざ俺の好みの人間を創ったのかと思ったくらい」

 まぁフィーは転生者だからそれはないけど……と瑛士君は笑う。微妙に手持ち無沙汰なのか、さっきストレッチの話をしたせいか、靴を脱いで背後に回り、話を続けながら俺の肩を揉み始めた。

「俺が……タイプ……それはまた……」
「変わってるだろ? 俺も思う。でも本当。前もな、フィーに似てるヤツ好きだった……って、こういう話されんの嫌?」

 手を取られて肩をぐるぐる回される。本音を言えば、胸はチクチク痛いしあまり聞きたい話じゃないけれど、気合で首を横に振った。よく分からないが、瑛士君は俺に聞いて欲しそうだったから。

「本当たまにビックリする程、似たような事言うから……最初は何か複雑だった。でもさ、ここに来てフィーとずーっと一緒に居るだろ? そしたら……似てるとか関係なく、ただフィーの事が好きだなって思う瞬間が増えてきた」
「……似てないところが良いの?」
「いや……もしかしたら似てんのかもしれないけど、俺がフィーほど向こうの事を知らなかった。近くに居ていつも見てたから知った気になってただけで。何にも知らないんだなって気づいた」

 たぶんその気持ちは俺にも分かる。ここで瑛士君と過ごす毎日が新しい発見の連続だった。中学で一方的に見ていた時には知らなかった事ばかりだ。

 あの頃も手を伸ばせば届く距離に居たけれど、瑛士君の家族でも親しい友達でもなかった俺は学校での……それもごくごく一部しか知らない。私生活なんて以ての外。近いようで、とても遠かったのだ。

「チャンスを無駄にした俺が悪い。ずっと後悔してたけどさ、未練とか悔いとかじゃなくて教訓にするべきだと今は思ってる」

 そう思える相手に出会えたチャンスを今度は絶対に逃したくない、と瑛士君は言った。

 諦めるなんて彼には似合わないと心のどこかで思っていたけれど、前を向いて歩こうとする今の瑛士君はやっぱり俺が憧れた瑛士君だと思う。

「俺……思ってるよりずっと好かれてる?」
「は? お前……それはないだろ」
「え、ごめん。調子に乗った」
「違うわ。今の言葉があり得ねーだろ」

 律儀に背後でストレッチしてくれていた瑛士君が、俺の身体を後ろに引っ張ると、頭がぽすんと瑛士君の肩にぶつかった。

「好き。何回言えば伝わんの? フィーが言った回数?」

 不貞腐れたように言われ、じわじわ体温が上がる。

 はっ……わわ、やばい。これマジだ。うわ、うわぁぁ。分かってなかった訳じゃないのに今この瞬間ギギュンと的確に撃ち抜かれた。

 湧き上がってくる感情を押し込めようと瞼を固く閉じるけれど、そんな物でどうにかなるレベルじゃなかった。

「はー好き。やばい。好き。好き過ぎる……」

 泣き言に近い本音が垂れ流し状態になるけれど、最早止めようがない。俺の視界を閉ざしたところで、瑛士君には見られているのだが、悶える俺はそれを気にする余裕もなかった。

 とても無様な姿を晒しながら、瑛士君にゆさゆさ揺らされる。今は呼吸もままならないのだ、ちょっと待って欲しい。

「何なの、お前……マジでさぁ……もうキスしてい?」
「んううー」
「ちょっとは聞けよ。今すぐ目開けないと本気でやるからな」

 聞こえてないようで、ちゃっかり聞いているのか、かなりの時間差で聞き逃がせない言葉を聞いた気がした。

「――っえ?」

 咄嗟にパチ、と目を開けたら、瑛士君の顔がゆっくり近づいてきていた。俺、目開けたけど。ずっと見てたのか瑛士君ともバッチリ目が合ったのに、止まる気配がない。

 え、するの? 本当に? 今?

 嫌なら全然逃げられるけれど、抵抗する気はちっとも起きない。嫌な訳ないのだ。だからもう完全にお任せします状態で待ち構えている。

 あと十センチの所で息を止めて、あと五センチの所でギュッと目を閉じて歯を食いしばる。瑛士君が緩く瞼を伏せる瞬間までよく見えた。

 ふに、と唇に温かくて柔らかい物が当たった。上唇を挟むように優しくくっついて離れていく。無意識に目が離れていく唇を追った。唇の感触はまだ消えず、瑛士君のやはり美しい鼻が触れ合った感触までリアルに肌に残っている。ほうっと息を吐いた。

 魂吸い取られたみたいな放心状態で、ゆるっと見上げたら、瑛士君としっかり目が合った。

「――っ、」

 パッと瑛士君が肘の内側で顔を覆い、横を向いてしまう。背中を預けて身体を支えてもらってる俺もその巻き添えで、瑛士君の腕に視界を覆われてしまった。何も見えない。

 とりあえず重いから退かないと、と思い、身を起こして……瑛士君を避けながら改めてベッドにパタリと倒れ込む。

 ………………いや。何か違うな。

 肘をついて半端に身体を起こして瑛士君を見ると、いつの間にか顔を深く伏せて体育座りになってしまっていた。全く顔が見えない。

「……俺いま何してた?」

 それは自分への問いかけだったけれど、瑛士君が大きく肩を揺らした。キスした? キスした。うん、した。そこに居る瑛士君とした――

「っわ! わ、わ、」

 反応が鈍すぎて自分でも驚くが、キスしたと理解したら何だかじっとしていられなくて意味もなくキョロキョロ辺りを見回した。とにかく身体がソワソワするのだ。部屋を歩き回りたい衝動に駆られ、改めてしっかり身を起こす。

 瑛士君がパッと立ち上がろうとした俺の手首を取った。掴まれた手が火傷しそうなくらいに、指先まですごく熱くてビクッとした。

「――待って。ほんと、ちょっとだけ」

 瑛士君がずっと隠していた顔は真っ赤に染まっていた。よほど見られたくないのか、すぐに反対の手で半分位隠されてしまったけれど。でも赤い。

「今ちょっと俺もいっぱいいっぱいで。待って、落ち着くから。はー、マジでなんだこれ……だっせ」

 いっぱいいっぱい、というのは本当なのだろう。明らかに狼狽している様子が珍しくて、貧乏ゆすりしながらも必死に目に焼き付ける。俺も俺でいっぱいいっぱいなのだ。でもどうしても見たい。

 頑張って平常心を取り戻そうと励む瑛士君をガン見しながら待つ。

「……もーあんま見んなよ」
「一回手を離してくれたら、ちょっと走り回ってから戻ってくるけど」

 チラとこっちを見てきたので、正直に言う。走り回りたいし、部屋を転げまわりたい。そこにある枕を意味もなく殴りたいし、壁に頭を打ち付けたい。じっとしていると、頭がパァーンとなりそうで。

 だが、瑛士君は俺の要望を溜息ひとつで吹き飛ばした。

「やだ。無理。居て、そこ座ってて」
「……うん」
「もう大丈夫、切り替える。恥だわ、なんかすげー嬉しくて、表情管理無理だった。忘れて」

 まだ少し照れ臭そうに言われ、とりあえず頷いておくが、忘れるのは無理だ。今日のこんな……こんなにも可愛い瑛士君の姿は今日しか見れないというのに。

 ――俺は人生初体験となるキスよりも、その後の瑛士君の可愛さが鮮明に記憶に残っている。
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