転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

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番外編

1.女子(1)

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 うちのクラスに居る、二人の男子の話をしよう。

 一人はクラスどころか学校中の有名人――瑛士君。非の打ち所が無いというのは彼のような人だと思う。顔が良い、スタイルが良い。性格だって良い。そりゃ苦手な事もあるようだけれど、彼の場合は苦手すらマイナスにならない。

 小テストの結果が少々悪かったところで、照れくさそうに笑っているだけで大半の女子が「教えてあげたい!」って気持ちになるだけだ。むしろモテている。

 一年の時から頻繁に話題に上がる人だったけれど、二年、三年となれば知名度はもっと高まり、そんな人と中学の最終学年を同じクラスで過ごせた私はかなりの幸運の持ち主だった。男も女も関係なく、学校中の生徒から羨ましがってくれる。

 クラス替えから気合い入れてオシャレしたし、何なら年間計画まで立てた。この一年で必ず仲良くなって、高校でも親しく連絡取り合うような間柄になるんだって張り切っていた。

 私は可愛い。すごくすごく可愛い。学年で一番だとまで言われる事はないけれど、クラス内では一番じゃないかなって思う。頭の先から足の先まで話し方や仕草にだって気を使って、私が一番頑張ってるんだもん。当然だ。

「――あ。山田さん、おはよ」
「田中君、おはよ。今日バス混んでるねーちょっと暗記しときたかったのになぁ」
「ここ座る? 足元荷物置いたままだけど」

 そして、もう一人がこの田中君だ。混雑する通学バスで、わざわざ彼を見つけて声を掛けたら思惑通り席を譲ってくれた。さすが田中君。お礼に一番可愛い笑顔を向けてあげた。だけど――。

「山田さんじゃなくてリイナって呼んでね」

 何度も言ってるのに頑なに呼ばないから腹が立つ。私は名字で呼ばれるのが好きじゃない。みんなは私が名前で呼んでって頼んだら、めちゃくちゃ喜ぶのに。田中君には今日も笑って受け流された。何なの、この人。

 田中君は別の意味で有名人だ。教室に居ると、しょっちゅう名前を耳にする。初めて同じクラスになった私は最初はそれが心底不思議だったけれど、それが何故かはすぐに分かった。

 面倒な事は田中君に頼めば大抵やってくれる。無害でお人好し。いつもヘラヘラ笑ってて、怒った所を見た事がない。皆のパシリかといえば、それもちょっと違う。本人に陰気な印象が全くないからか、微妙に可愛がられているのだ。地味キャラの癖に。

「――あ、田中だ。つか寝癖すご!」

 バスが同じでも登校は当然別だ。私の少し前を歩いていた田中君に、偶然通りがかった瑛士君が話しかけていた。二人は去年も同じクラスだったようで、優しい瑛士君はいつも田中君を何かと気にかけてあげている。

「すごいかな。でも放っといたら勝手に戻るんだよ、これ」
「癖あるけど柔こいもんな、田中の髪……」

 興味がなさすぎて私はちっとも気づかなかった。田中君の寝癖で跳ねた髪を、瑛士君は楽しげに指先でぴょこぴょこ揺らす。正直言って羨ましい。こっちを見てよ。私の髪の方が絶対に手触り良いから触ってみて欲しい。男だからって田中君だけずるい。

「なぁ、教室行ったら直してやろっか? 秒で直るぞ」
「いやいやいや! 大丈夫! 別に誰も見てないから」
「見るだろ。少なくとも俺は気になって仕方ない」

 言われれば確かにすごい寝癖だった。けれど、わざわざ瑛士君が直してあげるなんて贅沢過ぎないだろうか……と思っていたら、似たような事を口にして、田中君が慌てて走り去って行った。瑛士君のせっかくの親切を無駄にして、と今度はそっちにムカッとした。田中の癖に……なんて思ってしまう。

 ててっと走って、私も瑛士君に挨拶してみたけれど、普通に挨拶されて終わってしまった。でも笑顔だし格好良いから全然嬉しい。

「――田中君、お願いあるんだけど」

 放課後、田中君を捕まえてその顔をじっと見つめた。可愛い私の潤ませた瞳は同情や庇護欲を誘う事を知っている。常に良い子を演じている私なら同性にだって有効的な手段なのだ。

「申し訳ないんだけど……掃除当番、代わってくれないかな。今日はどうしても早めに塾行きたいの、お願い」

 それは真っ赤な嘘だったけれど、やりたくないから頼みたい。田中君はよく代わってやっているし、誰かがこんなに真摯に頼んでいる所も見た事ない。今朝のちょっとした仕返しだ。

 絶対に代わってもらえると信じていたのに、田中君は特に悪びれもせずに「ごめん、今日は無理」なんて言われて絶句する。

「……は?」

 これには思わず素が出た。

「家帰んなきゃいけなくて。急いでるからごめん」
「え、待って。田中君しか頼れないのに……」
「皆優しいから。頼めば聞いてくれるよ」

 この私が頼んでやっているというのに、田中君は全く折れる気配がない。急いでいるのか私のことをアッサリ見捨てて、本当に帰ってしまうから信じられない。最後に「ごめんね、山田さん」なんてトドメの一言まで残して行く……断られた恥とのコンボで私の頭は沸騰寸前だった。

 とっ捕まえて物陰に連れ込んで、自分の立場ってものを教えこんでやりたい所だけれど、周りの視線を感じてしまい、唇を強く噛んでやり過ごす。周りというより瑛士君の視線が気になった。

 人気者の瑛士君の周囲には人がたくさん居た。けれど、集団の中に居ても紛れる事のない、強い視線を向けられている。いつから見ていたのか……分からないけど、変な姿は見せられないと思った。田中君への苛立ちは心に秘めておこう。

 賢い私は知っている。人を貶めると自分の価値が下がる。どんなに上手く隠しても結局バレるものだ。根っこの部分で私は人を信用してないのかもしれない。

 だからどんなにムカついても田中君にも誰にも悟られないように隠して生活を続けた。しかし、よくよく観察してみると、田中君がちっともお人好しではない事が分かる。

 私ばかりではなく、たまにザックリ断っているし、さり気なく見返りを要求したりもしていた。絶対分かっていて空気を読まない発言をする事だってあるのに、皆揃って「まぁ……田中だしな」なんてどこか好意的に受け入れられてしまう。田中君はずるい。

「……私の方が頑張ってるのに」

 可愛くて良い子をずっと演じ続けている。もちろん効果はある。クラスの男子の大半はきっと私の事が好きだ。女子からの支持も篤い。だけど、何も頑張らずに受け入れられる田中君の姿を見ていると少し虚しくなるのだ。

 本当は今日の掃除当番はしたくなかった。天気悪いし、外掃除だし。皆嫌がる場所だから公平にじゃんけんで区域を割り振ったのだ……そこは嫌なんて言ったら印象は最悪だっただろう。代わってくれそうな男子は居たけれど、頼んだらきっと女子からの反感を買う。良い子は中々辛い。

「山田さん。掃除、俺やっとくよ」

 そんな時、何故か田中君がやって来た。

「……なに。いいよ、適当にやるから」
「俺、外掃除のが好き。今度、中の掃除の時に代わってくれたら嬉しい」
「……こないだは代わってくれなかった癖に」

 誰も居なかったから、というのもあるけれど、田中君の申し出に必要以上に苛ついてつい口に出してしまった。驚かれて、ハッとなったがもう遅い。

「ごめんね。前の時はうちの妹が早帰りしてくる日で、早く帰らなきゃって焦ってたから」

 見るからに萎縮して言われ、断った事を田中君が気にしていた事に気づいた。そこで止めておけば良いのに、一度表に出してしまった苛立ちが口をついて出てしまう。

「……今日はその埋め合わせ? 随分遅くない?」
「えっいや、ごめん。全然違う。今日なんか山田さん朝からずっと爪見てたから……気に入ってるのかなと思って」
「……田中君、見てたの」

 気づくようなタイプには見えないのに。というか、誰も気づいてくれなかった。今日のネイルはものすごく綺麗に仕上がって、自分でも惚れ惚れしていたのだが、ただの自己満足だ。

 田中君は私が強く握りしめていた竹箒を手に取って、手の先を興味深げにマジマジと見つめてくる。

「綺麗だなーって思った。傷が出来ちゃうの勿体ないよ」

 私に好かれたいとか、恩を売りたいとか、そんな気持ちが田中君にはないのだと、屈託ない純粋な笑顔を向けられて気づく。特に自覚もなしに「綺麗だからよく見てる」「指が細くて爪の形まで綺麗だよね」とか口説いてる時のような台詞を次から次に重ねられた。

「本当良いから帰って。また明日ね――山田さん」

 ちょっとだけ、ほんの少しだけ田中君に対して好意が生まれかけたのに、最後の最後にやってくれる。やっぱり田中君は好きじゃない。


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