不運な死神はへんてこ魔導具でなんとか助かる!〜パーティーの落ちこぼれリーダーは胃痛が悩み〜

藤白ぺるか

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3話 なんで反対のこと言っちゃうんだろう

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 僕はダッシュでクランに戻っていった。もちろんトイレだ。

 僕はトイレが長いで有名だ。一部ではトイレで瞑想しているのではないか、なんて言われたりもするが、単純に長いのだ。

 30分くらいの時間をかけることはよくある。だからクランのトイレは執務室のすぐ横に僕専用のトイレがある。

『ジャーゴボゴボ……』
 僕は最新の水魔法技術が付与された高級トイレでことを済ませ、魔導具部屋へと向かう。

 魔導具部屋は執務室と同じ3階。角部屋にある。

 僕が肌見放さず持っている鍵つきネックレスを服の内側から取り出し、ガチャリと扉を開ける。

 そこに広がっていたのは、壮観な景色。見ただけでは良いものかどうかなんて分かる人は少ない。なんせ見た目は古臭い骨董品に見えたり、普段遣いするものに見えたり、逆に高級そうなものもある。

「この二つ、持っていくか……!」

 掴んだのは、龍の模様が描かれている真っ赤なスカーフ。そしてもう一つはメガホンだ。

 ちょっと大きめのバッグに詰め込んで外に出る。

 既にクラン前には馬車と仲間たちにシオンが到着していた。

「ごめん、待たせた~?」

「いつものことだろ? どうせトイレなんだろ?」

 キースにはバレていた。恥ずかしい。

「今日はトイレじゃないよ! 持っていく魔導具悩んでたんだ!」

 空気を吸うように嘘をつく。

「とりあえず揃ったし、向かおう!」

 ここからモルフォレの森に到着するまで。1日近くかかる。ちょっとした旅だ。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 『ガタンガタン』と馬車に揺られながら、俺たちは移動を楽しむ。

 今俺たちがやっているのは、トランプだ。僕は遊びが好きだからね。道中も楽しまなきゃ。

「はい上がり~!」

「グレンちゃん強い~~」

 ルゥルーがぶーたれる。僕はなぜか大抵のゲームは強い。運が良いのか実力なのか。 

 『デスアウト』というトランプの中の死神カードを最後まで持っていた人が負けというゲームだ。

 僕は早々と一番にカードを揃えて手札がなくなり、上がった。

「こういうゲーム持っていく冒険者さん初めてみました……」

 シオンは驚いたようだった。

「まぁ、うちは他とか違うからな~! 特にグレンには気をつけたほういいぞ~。こんな腑抜けた顔してるくせに一番ヤバいやつだからな」

「えっ、グレンさんが?」

「ちょっとキース、シオンの前で変なこと言うのやめてよ~」

「ホントのことだろうが。今回も巻き込まれて誰か死人が出なきゃいいけどね……」

 不穏なことを言うキース。シオンの顔が少しばかり、青ざめる。

「ま、まあ大丈夫だって! みんなついてるし。死ぬことはないだろうね!」

「リ、リーダぁ。死ぬことはないかもですが、死にかけることは……」

 さらにシオンと一緒にリタも青ざめる。

 さっきまでノリノリで依頼受けるテンションだったくせに。僕を何だと思ってるんだ。

「サイクロプスだけなら、大丈夫だって。サイクロプスだけならね……」

 そうやってゲームや会話をしていく内に、夕暮れに差し掛かり、夕食の時間に。

「なっ、なんですかこれぇぇ!!!!!」

 今までにない大声を出すシオン。その特徴的な耳をパタパタさせる。

 平原に馬車を止めて、火を起こしてレジャーシートを敷く。

 目の前に広がっていたのは、豪華絢爛な料理の数々だった。

「野菜たっぷりのシチューに焼き立てのパン。ボアステーキに卵料理、そしてお茶まで……」

 旅の途中で食べるにはありえない豪華な食事に、シオンの目と口は大きく開かれていた。

 ついでによだれも。

「だから言ったろ? 一番ヤバいやつだって。これもグレンのおかげだぜ?」

「僕というか魔導具なんだけどさ。昔ダンジョンで見つけてね。時空収納的なやつ? 中にご飯とかなんでも入れられて、時間経過せず保存できるんだよ。凄いよねこれ」

「グレンさん……すごすぎます。わ、私も食べていいのでしょうか?」

「当たり前だよ。どんどん食べて! まだまだあるからさ。好きなだけね」

 シオンはガツガツと食事をし始めた。

「うっうっ、、、」

 ガツガツしながら、涙も流し始める。

「わ、わたし、、こんなに美味しい食事をしたのは、どれくらいぶりか……」

「冒険者って学園時代も大変だもんね。プロと同じようにダンジョンに行ったり旅したりする時もあるしね」

 夜が更けていく。

「じゃあ、みんな寝ようか。3時間ごとに見張りは交代にしよう」

 そうして、僕は飴玉のようなサイズの三角のモチーフを取り出す。それを天に投げる。

『ガッシャン!!』

 少し音を立てて出てきたのは、テントだった。

「最初の見張りは俺やるよ」

 キースが声にだし、他の面々は次々とテントの中に入る。

「えっ、、、あっ、、、?」

 呆然とするシオン。

「あれ、みんな一緒に寝る感じですか? 地べたよりも全然嬉しいんですけど……」

 さすがに男の僕と同じテントで寝ることは気が引けるらしい。ちょっと悲しい。

「まあまあ大丈夫。中に入ってみなよ。意味わかるから」

 恐る恐るシオンはテントの中に足を踏み入れる。

「え、えぇぇぇぇぇ!?!?」

 テントの中に広がっていたのは、小さいテントの大きさからは想像できない空間だった。

 10人分ほどのベッドがあり、そこは天幕で仕切られており。さらにはテーブルやソファ、キッチンや調理器具まであった。

 一番凄いのは、奥に水魔法が付与されてるであろうシャワー室のようなものがあったことだ。

「これも魔導具なんだけどね。と言ってもこれは僕の仲間の一人に作ってもらったんだ。凄いよね。だからベッドもちゃんと仕切られてるから、気にせず寝てね」

「は、はぃぃぃぃ」

 気が抜けた声を出して、トボトボとベッドへ向かっていくシオン。

「じゃあみんなおやすみ~」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 何事もなく朝を迎え、朝食を済ませるといざ出発。

 御者の役目も交代で仲間で回していく。

 そして、ついにモルフォレの森に到着した。

 入口を見ると、冒険者が入ったであろう足跡くらいしか痕跡はなかった。

 戦ったとしても森の奥だろう。

「僕たちも中に入ろうか」

「おっしゃあ行くぜ! 待ってろサイクロプス!」

 馬車を森の外に停めて、僕たちは森に進んでいった。

 30分ほど森の中を進んでいくと、何か物音、いや、声が聞こえてきた。

「・・・・・」

 まだ声の主からは遠いようだ。

 もう少し近づいていく。

「おいっ! 下がれ! 今は逃げろっ!!」

「いや! ここは俺に任せろっ! お前たちだけでもっ!!!」

 何やらどこかのパーティーが魔物と戦っているのか、逃げる途中なのか。そんな怒号が聞こえてきた。

『ドスンっ! ドスンっ!』

 大きな足音と共に。

 僕たち5人がその場所へ足を踏み入れると、いたのはサイクロプス。冒険者4人組を襲っているようだった。

 ただ一人が殿を務めて、他の3人を逃がそうとしているような感じだった。

「よし、加勢しよう! キース、ルゥルー、リタ! 頼んだ! とりあえずシオン。僕らはここで待とう」

『グオォォォォ!!!』

 目の前にいるサイクロプスは体長15mほどだ。個体差はあるが、まぁ大きな方だろう。

「いくぜっ!! おらぁ!!!!」

 キースは背中の大剣を構え、サイクロプスの足に狙いを定めてぶった斬る。

 サイクロプスは足幅もデカいので、一発では刈り取ることができなかった。しかし十分だ。

 木も斧で半分も切れば、倒れるものだ。

「うーん。このままだとシオンの出番が。どうしよう」

 倒れかけているサイクロプスに、ルゥルーが短剣で斬りつけ、リタが力を溜めた拳をぶちかます。

 キースとは別の足を2人で狙うとサイクロプスは両足が使い物にならなくなる。

『ドスンっ!!』

 サイクロプスが苦悶の表情を浮かべながら、周囲の木々を巻き込んで倒れ込む。

「シオン! 目を狙ってみてくれるか??」

「わ、わかりましたっ!!!」

『シュッ』

 シオンは狙いを定めて、倒れたサイクロプスの目を射抜く。

『バシュッ』

『グギャァァァァァ!』

 間近ででかい声を挙げられると耳が痛い。

「シオン! 畳み掛けてくれ!」

「シュバババッ」

 シオンはその細腕からは想像もできないような速度で弓矢を連射する。

 それを見る限り、全然パーティーを外されたような実力ではないように見える。なぜシオンはパーティーから外されてしまったのか疑問が残る。

『グルゥゥゥゥゥ……』

 サイクロプスの一つ目からは、大量の血が流れ出る。もう息も絶え絶えだ。

「じゃあっなっ!!!」

 大きくジャンプしたキースが、大剣を天に掲げてサイクロプスの首目掛けて振り下ろす。

『ズドンッ』

 と大きな音を立てて、サイクロプスの首を叩き切る。足ほど筋肉がついていないので、首はいともたやすくぶった切られた。

 討伐完了。あれ、終わっちゃった?

 これで、シオンの成果ってことで、サイクロプスの一部を持っていけばいいのかな。

 なんか誘っておいて、物足りなさを感じる。

 そもそも、ソロでサイクロプスを倒すって学園でなかなか信じてもらえないよね。

 でも、コネも成果だし。

「これで終わりかぁ~~。なんかあっけなかったね」

「リーダぁ。これで終わりですか?」

 ルゥルーもリタも一度しか攻撃していない。満足していない様子が見て取れる。

 そんな時、誰かが声を挙げた。

「お、おまえらあああ!!! まだ終わりじゃねええ!!!」

 逃げていた冒険者の一人が大声で叫んだ。

「サイクロプスだけじゃねえんだ!! 早くここからっ!!!」

『ズシン……! ズシン……!』

 どこからか、サイクロプス以上の足音を轟かせて、何かがやってきた。

「俺達が、逃げてきたのはサイクロプスじゃねえんだ!!」

「あ、あれだっ!!!」

『グゴォォォォォォォ!!!!』

 とんでもない雄叫びをあげ、出てきた存在。サイクロプスの体長は15mだが、その3倍ほどはあるだろうか。

 大木を一気になぎ倒してきた漆黒の巨体。鋼鉄のように光を反射する鱗。その翼、その顎。

「こ、こくりゅぅぅぅぅぅ!?!?!?」

 シオンは、僕の隣で大絶叫をあげる。

 サイクロプスじゃなかったのかよ。黒竜って。しかもこの大きさなら討伐ランクは7つ星だろ? こりゃ大変だ。

 他の冒険者達は全員死んでいてもおかしくないだろう。

 僕らのパーティーは7つ星だ。討伐ランク7つ星と言えば、僕らのパーティーと同等だ。

 でも今は仲間は3人しかいない。普通に考えて僕らには手に負えないはずだ。

 さてと、逃げる準備を始めるか。

「燃えてきたぜええええ!!!!」

「グレンちゃん、いいよね!? いいよね!?」

「リーダぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 一人は討伐に燃え、一人はまだかまだかと興奮し、一人は涙目で訴えてきて。

 ちょっとお腹が痛くなってきた。

「えーと。とりあえず、やってみる?」

 なんでいつもこうなんだ。僕はいつも心で思っていることと反対のことを言ってしまう。

「ギュ、ギュレンしゃあぁぁぁぁぁぁんんん!!!」

 隣にいるシオンは、もう僕の名前すらちゃんと発せないようだった。

 僕が誘ったばかりにこんなことに巻き込まれてしまって。

 仲間は近接前衛。ゲストは学生。周囲には逃げてきた冒険者。

 黒竜は既に目の前にいる。ここから逃げることさえ、できるかどうかの瀬戸際まで来ていた。


 ーーここに黒竜討伐戦が始まった。



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