不運な死神はへんてこ魔導具でなんとか助かる!〜パーティーの落ちこぼれリーダーは胃痛が悩み〜

藤白ぺるか

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14話 メガネとベルト

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 リタの勝手な判断により、僕もなぜか模擬戦に参加することになった。
 相手はシオンの元パーティーであり『豪炎の魔手ボルカ・マギス』というパーティー名らしい。

 しかも食堂で大声で叫んでいたおかげで、周囲の生徒たちがこの話を大ごとにした。賭け事すら行われる始末。めんどくさいことになったなぁ……。

 正直もうシオン一人でなんとかなりそうなイメージなんだけどなぁ。リタの速さについていけるとも思えないし。

 しょうがない。何が起きるかわからないから、『碧熱メガネ』と『筋トリベルト』は一応に身につけておくか。

 1時間後に闘技場ということで、正直時間はない。なので聞くべきことは聞いておこう。

「え、えーとぉ。作戦会議でもしておく?」

 とりあえず僕から切り出してみる。

「リーダぁ!! それなら私とシオンがズドドンとやって、あとはリーダぁがズババンとトドメを刺せば終わりです!! ねぇシオンちゃん!?」

「えっ、えっ……あぁ、はいっ!!」

 シオン、勢いに押されるな。リタはおそらく人に教えるのが下手なタイプだぞ。擬音ばっかりで何を言いたいのか全く伝わってこない。
 そもそも僕がトドメを刺した展開ってこれまでにそんなあったっけ?

「わかった。じゃあ大まかに決めとこっか。リタは後衛狙いで適当にかき回して、シオンは前衛狙いで遠くから弓で攻撃しよう」

「わかりましたぁっ、リーダぁ!!」

「わかりましたっ!!」

 意見はないようだ。ただ、これも一応だけど聞いておこう。

「シオン、相手はどんな戦いをする感じなの?」

「豪炎の魔手は、遠距離からのイートさんの火魔法を中心に、ランドさんが剣で突っ込んでくる感じです。近距離はシーフのキョウさんも素早い動きで迫ってきて、こちらになにか仕掛けてくると思います。あとはタンクのグリッチさんは、特に後衛を守るタイプで前には出ません。僧侶のフェルズさんは補助魔法で援護する感じだと思います。」

 聞く限りはある程度バランスが取れていそうなパーティーだ。ただ、攻撃がランド頼りな感じがする。遠距離からの魔法にどれだけ威力があるかも関係してるけど。

「なら、そのシーフの動きもシオンに任せよう。いける?」

「任せてくださいっ! グレンさんに傷一つつけさせません!」

 良い返事だ。頼むよ~、僕攻撃できないんだからさ。

「グ、グレンさん。一つだけいいですか? そのメガネ、なんですか?」

 まあ、気にするな。シオン。

 そして、模擬戦の時間がやってくる。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 1時間が経過し、学園にいた時もほとんど来たことがない闘技場にきた。

 闘技場はぐるっと円で囲むように観客席があり、中心に土の地面になっている広場があった。
 かなりの広さに見える。100mくらいの広さはあるだろうか。

 移動途中、用事が終わったアリアと合流したが、今回はとりあえず見ていてもらうことになった。
 アリアがいたら正直一瞬で終わると思う。

 賭け事が行われているうようなので、一応、アリアに掛け金を渡して僕たちに賭けるようお願いしておいた。


「おうおうっ。シオン、逃げ出さずに来たじゃねーか!! ワッハッハッハ」

 よくわらう奴だ。

「ランドさん。私はもうあなた達に負けません!!」

 シオンは吹っ切れたようだった。最初は凄いビクついた表情だったのに、今は絶対に倒すという気迫を感じる。

「よく言うぜ。後ろのガキと青年はよく分からねえが、お前の仲間なら大したことはないだろう。せいぜい楽しませてくれよ?」

 とことん煽る人のようだ。これでまたリタが怒るかと思えばそうではなかった。

「ふっ、強者によく喋るやつがいないのは知らないようだなぁ……?」

 静かなる煽り返しで、ニチャアと邪悪な笑みを見せるリタ。

「まぁいい、やればわかることだ。なあお前ら!!」

 ランドの声でそれぞれ頷く豪炎の魔手。

 通常模擬戦は審判がつくようだが、急遽だったので、審判などいない。自分たちで勝ち負けを判断しなくてはいけないようだ。

「一応勝ち負けの基準を決めておこうか。どちらかが降参と言うか、全員倒れて動けなくなるか。もしくは全員死ぬかだ。いいな?」

「ああ、それでいい」

 ランドの言葉にリタは短めに答える。


 俺たちは十分に離れていた。距離は30mほどあるだろうか。


「では行くぞ!!! 模擬戦スタートだ!!!」

 ランドが開始を宣言し、それぞれ動き出す。


『ハイ・ガーディアン!!』

 僧侶のフェルズの防御バフ中級魔法だ。パーティーメンバーの耐久力を上げたようだ。


 その間にシーフのキョウが一気に走り出す。ダガーナイフを持って東方の忍者のような動きで迫ってきた。

「させませんっ!!」

 シオンが、弓を連射してキョウが真っ直ぐに来れないように牽制する。しかし、弓を避けたあとは、大きく回り込んでこちらに迫ってきた。

 一方、リタは既に姿が見えなかった。素早さ全振りしてる僕よりリタの方が全然速い。
 いつの間にかタンクのグリッチに肉薄していた。大盾と分厚いアーマーを着ている。

 リタは身長の差が30cmはあるだろうという体格差で、拳のグローブに力を込める。
 すると、黄色っぽい光が拳に溜まる。そして、リタの腕の筋肉が突如盛り上がり……。

『マグナ・クラァァァック!!!!』

 土魔法を込めた鉄拳がグリッチの盾に襲いかかる。

『ドガァァァァン!!!!』

 大盾にひびが入ると、そのままでかい体ごと、魔術師と僧侶よりも後方まで吹っ飛んだ。


「なっ、なにぃぃぃ!?」

 ランドが驚いていた。


『ハリケーン・バーストォォォ!!!』

 すると後ろを振り返って驚いていたランドに、シオンの中級魔法の弓が襲いかかった。

「うおぉぉっ!?」

 ランドは間一髪で避けるも、鎧がひび割れ、横腹の筋肉が露わになっていた。

「き、貴様ァァァ!!! イート! ぶっ放せ!!! あの弱そうなの狙え!!」

「はいっ! 行きますよっ!!」

 後方の魔術師が魔法を放つようだ。弱そうなのって……僕?


『フレイム・ストリーッッム!!!』


 すると、目の前にいたリタの真上を通って、火柱が弧を描いて僕に向かって飛んでくる。
 火柱はかなり広範囲の大きさだ。これは焼け死んじゃうかもしれない……。



『ジュワッ……』



 僕の目の前で火柱が突如消失した。


「はぁっ!? どうなってるんだよっ!! 中級魔法だぞ!! お前!! 何をした!!」


『バタン……バタン……』


 ランドが喚いている隙に魔術師と僧侶がリタにやられていた。
 後方までぶっ飛んでいたタンクも結局動けずに戦闘不能になっているようだ。


『ハリケーン・バーストォォォ!!!』

 さらにシオンが、シーフを狙って矢を放ち続けていた。ただ、まだ当たっていなかった。

「くそっ、まだ速さについていけないのか、私はっ!!」

 攻撃力が上がっているようだが、動く相手への命中度は少しまだ足りていないようだった。

「行きますよッ! シオン!! 覚悟っ!」

 シーフのキョウが、ポニーテールの髪を揺らしながら、一気にシオンまで近づく。

「それならっ!!!」

『エアロッ・ウェーブッ!!!』

 シオンがジャンプして、地面に矢を放つ。すると地面に刺さった矢が風の衝撃波を起こす。

『ブオンッッッッ!!!!!』

「キャアっ!!」

 その衝撃波で吹っ飛んだキョウ。尻もちをついてしまうと、そのタイミングで、シオンが目の前まで来ていた。矢を構えて、キョウに降参を命じる。
 キョウは両手を上げていた。

 残るはランドだけだった。

「くそぉっ!! どうなってんだ!! でも色メガネ野郎だけでも絶対に仕留めるっ!!!」

 するとランドの手に赤い光が灯っていく。

「この近距離じゃかわせねえだろ。いくぞ!!!」


『バーン・ストライクッ!!!!』


 戦士だがランドも火魔法を使えるらしい。僕の目の前に火球を飛ばし、燃やそうとしてきた。




『ジュワッ……』




 またもや僕の目の前で火球が消失した。

 『碧熱メガネ』の効果だ。炎や熱波を全て冷やす効果がある。どこまでの魔法を冷やせるのかはわからないが、今やられた魔法は大丈夫だったようだ。
 この眼鏡をつけていると常に装着者の周囲が20度くらいに保たれる。なので、火球など100度を超えるようなものでも20度に設定され、その勢いも消される。熱い夏に必須のアイテムだ。


「くっ、クソっ!! 意味が分からねぇ!!! それならっ!!!」


 大剣で斬りかかってくるランド。僕に向かって大柄な体でそれを振り下ろす。



『バシャァァンッ!!!』



 僕が右腕につけている腕輪<防魔鈴>の効果だ。見えないバリアに阻まれ、ランドの大剣はそのまま後ろに弾かれる。防魔鈴の5つのストックの内、1つ減った。


「あっ……」


 ちょっと怖かったので、後ろに下がってみると、小石に躓いて、尻もちをついてしまう。


『カチっ』


「あっ……」


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!」


 跳んだ。跳んだというか、飛んだ。そのまま真っ直ぐに上空へ。
 


 『筋トリベルト』だ。王都から冒険者学園に出発する時、勝手に腹筋が鍛えられるベルトだと思って装着していた。寝る時とご飯を食べる時は、ボタンでスイッチを切っていたが、基本的には常に起動させていた。

 5段階調整ができ、高い設定はつらいので、1にしていた。なので微弱振動で僕の腹筋はずっと鍛えられていたわけだ。

 しかし、なぜか今飛んでいると僕の筋肉が一気に奪われる感覚に陥る。いつもと違ったのは、小石に躓いて尻もちをついた瞬間に、いつも起動するベルト中央のボタンではない、ベルト横のボタンが押されたことだった。

 上空高く空を飛んだ僕は、一瞬お腹を見てみると、鳥の羽のようなものがお腹から出ていた。
 こっ、これすげぇぇぇぇ!! でも意味分からない。

 かなり高くまで飛んだと思ったら、急に鳥の羽が消えた。


「え……」


 急降下し始めた。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!」


 僕は叫んだ。


 一方ランドは、防魔鈴のバリアの衝撃で後ろにふっとばされ、尻もちをついていた。


「クソっ!! どういうことだよっ!! って……あいつはどこだ?」


 ランドは左右に首を振るも、メガネ野郎はどこにもいなかった。しかし、近くにいたシオンがなぜか上を見ていた事に気がついた。

 ランドも上を見てみる。すると太陽の光に混じってなにかが、急速に落ちてきていることだけはわかった。


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!」


 その落ちてきている何かから、音が聞こえてきた。
 ちょっと太陽に被ってよく見えない。それがよくなかった。



『ズドォォォォォォンンッッ!!!!!!!』



 轟音を撒き散らし、ランドの上に僕が落ちた。その瞬間、防魔鈴のバリアが発動されると、空から落ちてきた勢いは消えず、その勢いだけが、バリアに押されてランドに襲いかかった。

 舞い上がる土煙。その土煙が少しずつ晴れていく。
 そこには巨大なクレーターができていた。白目を剥いたランドを中心に。


「あぁ~~~死ぬかと思ったぁ~~~」


 いきなり上空に飛ばされて、受け身すらとれない状況。防魔鈴あってよかったぁ。
 てかなんだよこの『筋トリベルト』!! 『トリ』って『鳥』なの? そもそも『筋トレ』ではなかったの?

 適当に気分で選んだから持ってきたけど、とんだ魔導具だった……。



「おいアンタ。これでおしまいでいいよな?」


 リタが怖い顔で言う。唯一意識があるシーフの子が、コクコクと頭を振っていた。
 僕らが勝利した。半分はリタが倒してたけど、


「やっっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 とびきりの笑顔を見せて、シオンが飛び跳ねていた。


「グレンさ~~~んっ!!!」


『ボフっ』



 僕に抱きついてきた。シオンってこんなキャラだったっけ?


「グレンさん!! グレンさん!! 私、グレンさんのお陰で本当に人生変わりましたっ!! ほんとにありがとうございますっ!!」

 綺麗な顔が近い。きめ細やかな白い肌に、エルフ特有の長い耳をピクピク動かし、大きな目に長いまつげ。
 やはりシオンは可愛い。


「うんうん。よかったよかった。今日もよくやったよシオン」

 僕はとりあえず、シオンの頭を撫ででおく。


「へへぇ~~~」


 シオンがだらしのない顔になっていた。


「ちょっとちょっとリーダぁ!!! ずるいです!!! 私にもっ!! 一番活躍しましたよね!? 3人倒しました!!! あとやっぱり最後はリーダぁが決めてくれましたねっ」

「うんうん、そうだね。リタすごいっ。今日も偉いぞ」

 リタが頭を差し出してきたので、撫でておく。
 こういうリタも可愛い。さっきまでの相手を煽るリタは怖い。
 確かに最後は僕が決めたけどさぁ。たまたまだからね。


「おいおい、豪炎の魔手が負けやがったぞ!!!!」

「おれの全財産~~~~!!!!」

「なんだよ、あの青グラサンのやつ!! ランドの攻撃を一度も受けなかったぞ! 最後飛んだのはよくわからなかったけど」

「いやいや、一番やばいのは、素手で3人も倒したあのモンクの子だろ! 遠くでよくわからないけど、よく見たら可愛いし!」

「何いってんだよ! シオンだろ! 少し前まではあんなじゃなかっただろ! どういうことだよ! ランドの鎧を一瞬で破壊してたぞ! あれモロに喰らってみろ! ただじゃ済まねえぞ!」

「おれの全財産~~~~!!!!」


 観客たちは色々な感想を言い合っているようだ。ひとまず勝ててよかった。


 ランドたちの後始末はシーフの子に任せると、学校関係者たちが医務室へ運んでいくようだ。


「ふふっ。グレン、見ていたぞ」

 闘技場の出口に行くと、そこにはニヤニヤしたアリアが待っていた。

「まあ、あの程度にグレンが負けるわけがないけどな」

 最後のアレは納得したの? 飛んで落ちただけなんだけど。

「上空からの正確なコントロールダイブ。さすがグレンだ。全て計算されつくしたものなんだろう? 恐れ入ったよ。あんな戦い初めてみた」

 ……僕も初めてみました。

「あっ、アリアそれ……」

 アリアは、手元にパンパンに膨れた袋を持っていた。

「お前達に賭けといたからな! 大儲けだ!」

「よっしゃあ! 打ち上げだぁ!!! アリアありがとう!」

 と言っても、学園には、それほど娯楽がない。個人的にはお洒落なカフェで甘いものとコーヒーが飲みたいのだが、残念ながらここにはない。
 打ち上げをしようとするなら、学食で色々買ってどこかに集まるしかない。一応お酒もある。


 ひとまず体を休めるために、僕らは学園の中へと戻っていった。



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