弱小種族の冒険譚

わっしー

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第二章

29.魔族

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その男は僕とミネアさんを見て笑っていた。
「自己紹介が遅れましたね・・・。私はボロス。魔神軍幹部の一人です。」
「魔神軍幹部!?」
ミネアさんが驚いた様子でボロスを見る。
「しかし、私の作った狂気の宝石もまだまだですね・・・。このゴブリンの女の理性を破壊することが出来ませんでした。まだまだ改良の余地はありそうです。」
「・・・お前がモリナさんを?」
「ええ。せっかくの実験体を逃がしたので代わりに彼女に実験体になってもらいました。」
「・・・そうか。」
僕は「ウインド」を発動させて地面を蹴る。そして、ボロスの顔に膝蹴りを繰り出そうとしたがそれをボロスは片手で受け止めた。
「ほう・・・。チビット族のくせに風の魔法を使うことが出来るとは驚きですね。」
僕は空中で反転してそのままの勢いでボロスの側頭を狙う。しかし、ボロスはその蹴りを難なく受け止め僕の脚を掴む。
「無駄ですよ。チビット族で多少強いからと言って私に勝てる道理はありませんからね。」
そう言ってボロスは僕をミネアさんに向けて投げつける。
「ポムさん!」
ミネアさんが何とかキャッチするが勢いを殺すことが出来ずそのまま尻もちをついてしまう。
「・・・大丈夫ですか?」
「はい・・・なんとか・・・。」
僕はミネアさんから降りて拳を構える。
「こいつ、強い・・・。」
「そうね。ここは逃げるしかないわね。」
そう言ってミネアさんはモリナさんを抱える。
「おやおや、会ってすぐにお別れというのは寂しいじゃないですか・・・。もっと遊びましょうよ。」
そう言ってボロスは右手に魔力を集める。その魔力は何とも禍々しいものだった。
「「ヘルフレア」」
ボロスが右手の魔力を開放すると僕たちの後方で黒い炎が上がる。
「くっ!」
僕達は退路をふさがれてしまう。
「さて、始めましょう。楽しい楽しい戦いの時間を!」
そう言ってボロスは一瞬で僕のそばまで飛んでくる。
「早い!?」
僕はとっさに防御の構えを取る。ボロスはその防御の上から強力な右ストレートを放つ。
「ぐっ!」
僕は「ウインド」を発動して勢いを殺して一回転し距離を取る。しかし、ボロスはその距離をすぐに詰めてくる。
「逃がしませんよ?」
そう言ってボロスは拳を繰り出す。連続で防御の上から何度も何度も・・・。
「くっ!」
僕の小手にひびが入る。しかし、ボロスはそんなものお構いなしにラッシュを続ける。
「「アクアランス」!」
次の瞬間、ボロスに水の槍が飛来する。ボロスはそれを避けるために僕に繰り出していたラッシュを中断する。僕はその隙に距離を取る。
「ミネアさん、ありがとうございます。」
「ええ。しかし、わたくしの「アクアランス」を簡単に避けますわね、あの魔族。」
そう話しているとボロスは服に着いたホコリを払う。
「ほう・・・。その魔法かなりの威力があるみたいですね。私でもそれを食らえば痛いでしょうね。」
「痛いで済んでしまうのですね・・・。」
ミネアさんはそう返す。
「お嬢様、ご無事ですか!?」
そこにアランさん達が駆けつけた。アランさん達はボロスを見るとすぐに武器を構える。
「貴様、何者だ!?」
「おや?ゴブリンたちはどうしたのですか?」
「それなら、ワイたちが片づけたわい!あとはお前さんだけや!」
そう言ってドロンさんが斧をボロスに突きつける。
「ドロン、気を付けろ。コイツ、強いぞ・・・。」
アランさんは剣を構えながらドロンさんに警告する。
「わかっとる・・・。ワイだってアイツのヤバさは十分に理解でき取るわい。」
ドロンさんは斧をきつく握りしめる。
「エレナ、私と合わせなさい!」
「わかりました!エレナ様!」
そう言ってミネアさんは魔法をエレナさんは矢を放つ。
「「アクアランス」」
「「土弓」」
水の槍と土の矢がボロスに放たれた。
「「ヘルフレア」」
ボロスは自身の前に黒い炎の壁を作り出す。その黒い炎に水の槍と土の矢が当たり炎に包まれ消失した。
「おらぁ!」
「はぁ!」
ドロンさんとアランさんが両側からボロスに切りかかる。
「おやおや・・・。忙しいですね・・・。」
そう言ってボロスは両手を広げる。次の瞬間ボロスの両手に剣が握られて二人の斬撃を受け止める。
「くっ!?コイツ、どこから剣を!?」
「弱い・・・弱いですね・・・。」
そう言ってボロスはアランさんとドロンさんの剣を弾きその勢いのまま二人に切りかかった。
「ドロン!」
「アラン!!」
ミネアさんとエレナさんが同時に二人の名前を呼ぶ。二人は何とか踏みとどまったが立っているのがやっとのようだ。
「よくも!!」
僕はボロスに突っ込む。
「チビット族ごときが突っ込んだところでどうにかなると思うのか?」
そう言ってボロスは僕を蹴り飛ばした。
「ぐはっ!?」
「お前は殺さない。私の実験に必要だからな・・・。だが、そうだな・・・。他の奴らはいらないからこいつに処分してもらおうか。」
そう言ってボロスは指を鳴らす。するとボロスの前に紫の魔法陣が出現した。そこから現れたのは・・・。
「ゴブリンキング・・・。」
そこには禍々しい斧を持ったゴブリンキングがいた。
「さて・・・。働いてもらいますよ、長殿。」
そう言った瞬間ゴブリンキングは咆哮する。
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