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第二章

25話

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その日の夜、村人の悲鳴で目を覚ます。
「な・・・なんだ!?」
僕は急いで戦闘準備を整え外に出た。
すると、そこには・・・。
「そんな・・・!?ゴブリンが・・・!」
村には数えきれないほどのゴブリンが村人を襲っていた。
「ぎゃあ!」
近くでゴブリンに首を斬りつけられた男性の悲鳴が聞こえてきた。
「・・・この!」
僕は男性に再度斬りつけようとしたゴブリンに向かってナイフを投擲する。
「ギギ!?」
ナイフはゴブリンの額に突き刺さり何度か痙攣した後動かなくなった。
「大丈夫ですか!?」
僕は男性に駆け寄る。
男性の首からは夥しい血が流れていた。
「ギギ!」
その時、後ろから別のゴブリンが現れた。
(しまった!?)
僕は反応が遅れてしまい肩から血を流してしまう。
「くそ!」
僕は持っていた盾でゴブリンを殴り倒した。
「ギギャ!?」
「調子に乗るな!」
ゴブリンの手からナイフを奪い取り首に刺す。
「・・・!」
ゴブリンは僕の手を爪で引掻く。
手に痛みが走るが僕はさらに深くまで突き刺す。
「・・・。」
ゴブリンの身体から力が抜け動かなくなった。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
僕はナイフから手を離して男性に近づく。
しかし、男性はすでに息絶えていた。
「・・・くそ!」
僕は痛む肩を抑えながら苛立ちを吐き出す。
「何が・・・何が起こっているんだ!」
そのまま村の中心に向かう。
すると、そこには村人たちの骸が転がっていた。
「そんな・・・。」
僕はその光景に言葉が出なかった。
「・・・た・・け・・。」
その時、声が聞こえたのでその方向に向かうとそこには村長が横たわっていた。
「村長!なにが起こったんですか!?」
僕は村長を抱き起す。
「ぼ・・・冒険者・・殿・・・。」
村長は僕の姿を認めると話し始める。
「い・・・いきなりゴブリンたちが・・・。儂らは抵抗したのじゃが・・・どうすることも・・・。」
「そんな・・・。」
「村の男どもは皆、ころさ・・・れ・・・。女たちは・・・。」
村長は村の外を指さす。
「女たちは・・・奴らの巣穴に・・・。」
「わかりました!僕が必ず!」
「たのみ・・・ました・・・。」
その言葉を最後に村長は事切れた。
「・・・。」
僕は村長をそっと地面に横たえて立ち上がる。
「早く、皆を助けに行かないと・・・。」
「待て。」
その時、声を掛けてきたのはアンヤさんだった。
「アンヤさん・・・。無事だったんですか?」
「ああ・・・。ちょうど、彼女の護衛をしていてな・・・。」
そう言うアンヤさんの隣にはマーサさんが怯えたように立っていた。
「マーサさん・・・。」
「あの・・・私、隣の村まで届け物を・・・でも、村に戻ると村が・・・。」
「俺が来た頃にはもうゴブリンたちは数匹残して去った後だった。」
「とにかく、二人が無事でよかった!」
僕は安堵のため息を吐く。
「なら、アンヤさんはマーサさんを隣の村までそのまま護衛して下さい。」
「お前はどうするんだ?」
「僕はこのままゴブリンの巣穴に潜入します。村長の話では村の女性たちが連れ去られたみたいですから・・・。」
「・・・その怪我で何が出来る?」
アンヤさんは僕の肩の傷を見て言う。
「大丈夫です!さっきは不覚を取りましたが今度は・・・。」
「止めておけ。死に行くようなものだ。」
アンヤさんは僕の言葉を遮り言う。
「村を壊滅させるほどのゴブリンとなれば数は最低でも50・・・。そして、そのリーダーを務めているのはきっとゴブリンエリート以上の大物だ。」
「ゴブリンエリート・・・。」
ゴブリンエリートは討伐ランクC相当の魔物だ。
僕の力ではどうすることも出来ない・・・。
「・・・それでも僕は!」
「馬鹿なことを考えるな。冒険者なら感情よりも勝算があるか考えるんだ。」
「でも!」
「それにもう手遅れだろう・・・。女どもはきっとゴブリンに孕ませ袋にされている最中だ。」
「孕ませ袋・・・。」
ゴブリンにはメスが居ない。
そのため、繁殖のために他種族の女性を攫ってきて孕ませる。
「奴らの精液には催淫効果があるんだ。奴らの精液を口に含んだりすれば手遅れだ・・・。」
「そんな・・・。」
つまり、奴らに捕まって行為に及んでしまえば終わりということだ。
「治す方法はないんですか?」
「・・・あるがそれも現実的ではないな。」
「方法があるなら教えてください!」
「これを使う。」
そう言ってアンヤさんが取りだしたのは一つの瓶だった。
「これは?」
「ゴブリンの体液を無効化する薬だ。だが、これ一つで数万リルはする。」
「数万!?」
「しかも、これが効くのはゴブリンの子を孕む前の者に限る。ゴブリンの子を一度孕んでしまえばもう人としては生きてはいけない・・・。」
「わかりました。なら、その薬を買います!いくつ持っていますか!」
「・・・なぜ、そこまでする?」
アンヤさんは不思議そうに僕を見る。
「今から頑張ってもお前の仕事は失敗だ。なら、気持ちを切り替えて新しい仕事をした方がよくないか?」
「助けを待っている人が居るのに見捨てることは出来ません!」
「赤の他人でもか?」
「はい!」
僕はアンヤさんを見る。
「・・・わかった。金は要らない。」
そう言ってアンヤさんは薬をしまう。
「俺も手伝おう。」
「アンヤさん?」
「今回だけ手伝ってやる。行くぞ。」
「・・・はい!」
こうして僕たちはゴブリンの巣に向かうのだった。
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