花と札束

ねおきてる

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なんでもない朝だった。

知らせはえらく急に入った。

それぞれの国で決まった時刻に政府が重大発表をするとのことだった。

テレビで姿が映される前、汗をふきふき政治家がカメラの前に座っていた。

乾いた咳を数回して、これから読み上げるだろう原稿を覚束ない視線で確認した。

ピッタリ長針が上に上った。

緊張した顔の政治家はうそくさい笑顔に切り替えた。

「国民の皆様。」

わざとらしいほど通る声で彼らはそう呼びかけた。

顔も声も、弾んでいたが、原稿を持つ手は震えていた。

口上もつらつら読み上げて、まっすぐ視線をこちらに投げた。

「今後、紙の紙幣を全て無効なものといたします。」

 世界がしん、と静まり返った。

窓の外も、道路も、公園もぴったり音が無くなった。

けれど、やっぱりすぐあたりがガヤガヤ騒がしくなりだした。

「ペーパーレスの時代です。紙の金銭での決済から全て電子決済に切り替えます。」

周りが騒がしくなっていく。

政治家は気づかぬふりでどんどん言葉を連ねていった。

「また、札束出産が主流な昨今、未来の労働力となる子供は、どんどん少なくなっております。」

原稿を持つ手は震えている。

苦情の電話は鳴りやまない。

そんな中も、政治家は笑顔はめっきりはがれても、震える声で言葉を続けた。

「そのため、今後「札束出産」を行った者からは、罰金を徴収します。」

泳いだ視線で、流ちょうな言葉はどんどん流れていく。

「また、今後、人間の子供がいる家庭には給付金を配ります!」

ぷつっと突然テレビが切れた。

次から次から政治家に誹謗中傷の言葉で紡ぐ電話や、メールが飛び交って、無理やりテレビ局が放送を辞めさせた為だった。

その後、各国の政治家もこの流れを見越してか妻に愛人に人の子を生ませようとしたことが次々明るみになっていった。

人の不満はピークに達し、デモ隊が町を行きかった。

「人の子を産むことが本当に幸せなのでしょうか?」

そう、道の真ん中で声を上げるのは、紛れもない婦人だった。

「「札束出産」でどれだけの人が幸せになったでしょう?お金、そうお金が全てです。人の子一人生んだって、誰も守ってくれないのですから。」
 
わっ、と群衆が歓声を上げた。

拍手溢れる花道に、次の選挙で立候補すると彼女は声高に宣言した。

割れる拍手。

やまない声援。

そうだ、お金、お金が全てだ。

人々は騒ぎ出す。

白い歯を出し笑う彼女に、人は感嘆の声を上げた。

変わり行こうとする時勢に、一抹の不安を感じながら。
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