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第48話
ミリアの部屋は、
昼間だというのに薄暗かった。
カーテンは閉ざされ、
空気は重く、
鏡だけがぼんやりと光を反射している。
ミリアは鏡の前に座り、
自分の顔を見つめていた。
涙の跡が乾き、
目は赤く腫れている。
(……わたくし……
どうして……
こんなに惨めなの……?)
鏡の中の自分が、
ふと別人のように見えた。
――惨めなのは、あなたのせいじゃない。
ミリアは息を呑む。
「……誰……?」
――あなたは“奪われた側”。
――悪いのは、奪った人。
ミリアの胸がざわつく。
(……奪った……?
誰が……?)
鏡の中の声は、
甘く、静かに囁く。
――エリシア様。
ミリアの瞳が揺れた。
「……エリシア……様……?」
――レオン様の心も。
――殿下の視線も。
――侍従たちの好意も。
――全部、彼女が持っていった。
ミリアは、
震える手で胸を押さえた。
(……そう……
わたくしは……
いつも……
エリシア様の“影”だった……)
鏡の中の声は続ける。
――影で終わりたい?
ミリアは、
ゆっくりと首を振った。
「……いや……
いやです……
わたくしだって……
誰かに……
必要とされたい……」
――なら、奪い返せばいい。
ミリアの呼吸が止まる。
「……奪い……返す……?」
――エリシア様の“居場所”を。
ミリアの瞳に、
静かな狂気が宿った。
(……わたくしにも……
居場所が欲しい……
誰かに必要とされたい……
だったら……)
鏡の中の自分が微笑む。
――エリシア様を“消せば”、あなたが残る。
ミリアは、
その言葉に震えた。
「……消す……?」
――そう。
――あなたが“代わり”じゃなくなる方法。
ミリアの胸に、
黒い影が落ちた。
第一王子専属区画。
エリシアは、
まだ少し弱い呼吸で
アルベルトの隣に座っていた。
アルベルトは、
彼女の手を優しく包み込む。
「エリシア。
今日はもう休んでいい。
君の体はまだ完全じゃない」
エリシアは微笑んだ。
「……殿下がそばにいてくださるなら……
安心して眠れます……」
アルベルトの胸が熱くなる。
「君がそう言ってくれるなら……
僕はずっとそばにいる」
精霊たちが嬉しそうに舞う。
――エリシア。
――殿下の光、強くなってる。
――あなたの光も。
エリシアは、
アルベルトの肩にそっと頭を預けた。
(……殿下……
あたたかい……
この人の隣にいたい……
ずっと……)
二人の世界は、
穏やかで優しい。
だが――
その外側で、
静かに影が動き始めていた。
夜。
ミリアは、
ゆっくりと部屋の扉を開けた。
その瞳は、
もう以前のミリアではなかった。
(……わたくしは……
奪われた側……
だから……
取り返す……)
彼女は、
静かに歩き出した。
向かう先は――
第一王子専属区画。
精霊たちが遠くで震える。
――エリシア。
――影が来る。
――気をつけて。
だが、
エリシアはまだ知らない。
ミリアの心が、
静かに、確実に“闇”へと傾き始めたことを。
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