物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。

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公爵家に来てから、
セレナの世界は静かに広がっていた。

朝の光は柔らかく、
空気は澄んでいて、
屋敷の人々は皆、優しかった。

(……わたし……
 本当にここにいていいのかな……)

そんな不安がまだ胸の奥に残っていた。



廊下を歩いていると、
若い侍女が慌てて駆け寄ってきた。

「セレナ様!
 昨日いただいたハンカチ……
 本当に嬉しかったです!」

セレナは目を丸くする。

「え……
 あれは……
 ただ余っていた布で……」

「いえ!
 あんなに丁寧に縫われたもの、
 もらったの初めてで……!」

侍女は頬を赤くして笑った。

「セレナ様は……
 本当に優しい方ですね」

セレナは胸が温かくなる。

(……わたしの小さなことが……
 誰かを喜ばせてる……?)

その様子を見ていた執事が、
静かに近づいてきた。

「セレナ様。
 この屋敷の者たちは皆、
 あなたを尊敬しております」

「そ、尊敬……?」

「はい。
 “奥方様にふさわしい方だ”と
 皆が口を揃えて申しております」

セレナは言葉を失った。

(……わたしが……
 ふさわしい……?)






庭園では、
セレナが花に水をやっていた。

風に揺れる髪。
柔らかい表情。
小さな花を大切に扱う手。

レオンは少し離れた場所から、
その姿を見つめていた。

(……綺麗だ……)

ただの美しさではない。
“心がほどけていく”その瞬間が、
レオンには何より愛おしかった。

セレナが気づいて振り返る。

「レオン様……?
 どうかしました……?」

レオンは少しだけ視線を逸らした。

「いや……
 あなたが……
 楽しそうで良かった」

セレナは微笑む。

「この花……
 わたしが来た時は枯れかけていたんです。
 でも……
 少しずつ元気になってきて……」

レオンは静かに言った。

「それは……
 あなたが優しく世話をしたからだ」

セレナは照れたように笑う。

レオンは胸の奥で思う。

(……あなたも同じだ。
 枯れかけていた心が……
 少しずつ戻ってきている)





その夜。
セレナは眠りの中でうなされていた。

「……やめて……
 ごめんなさい……
 痛い……」

苦しそうな声。
震える手。

レオンはすぐに駆けつけ、
セレナの手をそっと握った。

「セレナ……
 大丈夫だ。
 ここにいる」

セレナは目を開け、
涙を流しながらレオンを見た。

「……レオン様……
 怖い夢を……
 見て……」

レオンは優しく抱き寄せた。

「もう大丈夫。
 あなたを傷つけるものは……
 もう何もない」

セレナは震える声で言った。

「……わたし……
 強くなりたい……
 レオン様の隣に……
 胸を張って立てるように……」

レオンは微笑む。

「あなたはもう十分強い。
 あとは……
 自分でそれを信じるだけだ」

セレナの涙は、
悲しみではなく“回復の涙”だった。
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