『祝福の子は二人いる──本物は孤児院育ちの私でした』

丸顔ちゃん。

文字の大きさ
52 / 56

第52話 闇の中で

エルステッド家が断罪されてから数週間。
ラヴィーナは王宮の地下牢に拘束されていた。

石造りの冷たい部屋。
窓はなく、光も差し込まない。

しかし──
彼女は光を求めていなかった。

むしろ、
光を恐れていた。



ラヴィーナの腕に刻まれた黒い痣は、
日に日に広がっていた。

光が近づくと、
痣が焼けるように痛む。

牢の前を通る衛兵が持つランプの灯りでさえ、
ラヴィーナは悲鳴を上げた。

「やめて……!
 光を……近づけないで……!」

衛兵は眉をひそめる。

「光が怖いとは……皮肉なものだな」

ラヴィーナは震えながら壁に背を押しつけた。

(どうして……
 どうして光が……こんなに痛いの……)

それは禁術の代償。
“光を奪おうとした者”が受ける、
逃れられない罰だった。


取り調べが始まっても、
ラヴィーナはまともに答えられなかった。

「禁術を行ったのは誰だ」

「……わからない……
 わたしじゃない……
 でも……わたし……?」

「祝福候補者の失踪について話せ」

「知らない……
 知らないはずなのに……
 どうして……血が……」

記憶が曖昧になり、
現実と幻覚の境界が崩れていく。

禁術の反動は、
彼女の精神を少しずつ蝕んでいた。


ある日、取り調べ官が言った。

「ルーチェ様の証言によれば──」

その名を聞いた瞬間、
ラヴィーナは耳を塞ぎ、
床に崩れ落ちた。

「やめて……!
 その名前を言わないで……!」

「ルーチェ……
 光……
 光が……来る……!」

彼女の瞳は恐怖で見開かれ、
何かを見ているようだった。

(光が……
 わたしを……焼く……)

それは罪悪感ではなく、
禁術が生み出した“闇の呪い”だった。


エルステッド侯爵夫妻は、
禁術への関与が認められ、
爵位を剥奪されたまま地方へ流刑。

ラヴィーナのことを案じる余裕もなく、
家は完全に崩壊した。

ラヴィーナは、
家族からも国からも見放された。



ある日、
牢の前にレオンハルトが現れた。

ラヴィーナは怯えたように後ずさる。

「ひっ……殿下……
 光を……近づけないで……!」

レオンハルトは静かに言った。

「光を恐れるのは、
 君が光を奪おうとしたからだ」

ラヴィーナは震えながら叫ぶ。

「違う……!
 わたしは……祝福の子……
 殿下の隣に立つはずだった……!」

レオンハルトは首を振った。

「祝福の子はルーチェだ。
 君は……
 自分の欲望のために闇に堕ちた」

ラヴィーナの瞳から、
涙がこぼれた。

「……どうして……
 どうしてあの子ばかり……
 光に愛されるの……」

レオンハルトは答えなかった。

ただ静かに、
牢を後にした。


その後、
ラヴィーナは禁術の反動で
徐々に魔力を失い、
光に触れることすらできなくなった。

最後は、
自分の名を呼ぶこともできず、
ただ暗闇の中で震えていた。

光を奪おうとした者が、
光を永遠に失うという
皮肉な結末。

それが──
ラヴィーナの“その後”だった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉