妹に婚約者を奪われた冷たい令嬢は、辺境伯の溺愛で本当の美しさを取り戻す

丸顔ちゃん。

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第29話「胸のざわめき――初めての嫉妬」

北方の朝は冷たい。
けれど、胸の奥はそれ以上にざわついていた。

(……どうして、こんな気持ちになるの)

理由は分かっている。
でも認めたくない。




薬草庫の整理を終え、
廊下を歩いていると――

「辺境伯様、肩の傷はもう大丈夫なのですか?」

柔らかい声が聞こえた。

振り向くと、
アレクシスの側に立っていたのは
北方の戦士・エリナ。

長い金髪、しなやかな体つき。
北方でも有名な女戦士。

彼女はアレクシスの腕にそっと触れた。

「無理をなさらないでくださいね。
 あなたが倒れたら、北方は終わりですから」

アレクシスは淡々と答える。

「心配はいらん。
 リディアが手当てしてくれた」

その言葉に、
胸がきゅっと締めつけられた。

(……私の名前を出した)

エリナの表情が一瞬だけ曇る。

「……そう、ですか」

アレクシスは気づかずに続ける。

「彼女の手当ては正確だ。
 王都で学んだらしい」

エリナは無理に笑った。

「……辺境伯様は、あの方を随分と信頼しているのですね」

アレクシスは即答した。

「当然だ。
 彼女は俺の妻だ」

胸が跳ねた。

でも――
エリナの視線が痛い。

(……嫌だ)

自分でも驚くほど、
胸の奥がざわついた。




その場から離れ、
中庭のベンチに座った。

冷たい風が頬を撫でる。

(どうして……こんなに苦しいの)

アレクシスが誰かと話しているだけなのに。
触れられているだけなのに。

胸が痛い。

(これって……嫉妬?)

王都では、
誰かを好きになる余裕なんてなかった。

でも今は――
アレクシスが誰かに奪われるような気がして、
息が苦しくなる。




「……リディア?」

振り向くと、
アレクシスが立っていた。

「顔色が悪い。
 寒いのか?」

「い、いえ……」

アレクシスは私の手を取った。

「冷たい。
 部屋に戻るぞ」

その手は大きくて、温かい。

(……この手を、離したくない)

でも言えない。

アレクシスは歩きながら言った。

「エリナが話しかけてきたが……
 お前、見ていたな?」

「っ……!」

アレクシスは立ち止まり、
私の顔を覗き込んだ。

「……嫉妬したのか?」

「ち、違います……!」

アレクシスはわずかに目を細めた。

「なら、なぜそんな顔をする」

胸が跳ねる。

(言えない……言えるわけがない)

アレクシスは静かに言った。

「……俺は誰にも触れさせない。
 お前が嫌がるなら、なおさらだ」

「え……?」

「俺の妻は、お前だけだ」

その言葉は、
胸の奥に深く染み込んだ。

(……どうしてこんなに優しいの)

アレクシスは続ける。

「嫉妬するなら、堂々としろ。
 俺はそれを否定しない」

胸が熱くなる。

(……この人のことを)

まだ言葉にはできない。
でも確かに、何かが動き始めていた。


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