妹に婚約者を奪われた冷たい令嬢は、辺境伯の溺愛で本当の美しさを取り戻す

丸顔ちゃん。

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第58話「兆候――王都が隠していた真実」

夜会が終わりに近づく頃。
アレクシスと私は、
王城のバルコニーで夜風に当たっていた。

王都の夜空は、
どこか重く、濁ったように見える。

「……空気が、変ですね」

私が呟くと、
アレクシスは静かに頷いた。

「王都の魔力が乱れている。
 北方の魔獣暴走と同じ“根”を感じる」

(やっぱり……)

夜会のざわつきとは違う、
もっと深い“異常”が王都全体に広がっている。

そんなとき――
背後から足音がした。

「リディア様、アレクシス様。
 お呼び立てして申し訳ありません」

現れたのは、
王都の魔術師団長・セオドア。

白髪混じりの老魔術師で、
王都の魔力を管理する立場にある人物だ。

アレクシスは眉をひそめた。

「何の用だ」

セオドアは深く頭を下げた。

「……王都の魔力異常について、
 お二人にお伝えしなければならないことがあります」




セオドアは周囲を確認し、
声を潜めた。

「王都の魔力は……
 ここ数ヶ月で急激に濁り始めました。
 原因は不明。
 しかし――」

彼は私を見た。

「リディア様が北方で覚醒した“あの光”と、
 同じ波長を感じるのです」

胸が跳ねた。

「……私の魔力と、関係が?」

「正確には、
 “リディア様の魔力が本来あるべき場所から離れた時期”と
 王都の異常が一致しているのです」

アレクシスの表情が鋭くなる。

「つまり、
 リディアを追放したせいで王都が乱れたと言いたいのか」

セオドアは苦しげに頷いた。

「……否定はできません」

(私が……王都の魔力に影響を?)

信じられない。
でも、胸の奥がざわつく。

北方で覚醒した時と同じ感覚が、
王都の空気にも漂っている。




そこへ、
王太子が現れた。

さっきまでの未練がましい表情ではなく、
どこか焦りと恐怖を滲ませている。

「セオドア……
 本当なのか……?」

セオドアは静かに頷いた。

「殿下。
 王都の魔力は限界に近い。
 このままでは……
 王都全体が魔獣の巣になる可能性すらあります」

王太子の顔が青ざめた。

「そ、そんな……
 どうすれば……」

セオドアは私を見た。

「リディア様の“光”が必要です。
 王都の魔力を浄化できるのは……
 おそらく、あなたしかいない」

アレクシスが一歩前に出た。

「リディアを危険に晒す気か」

「いえ……
 危険なのは、むしろ王都の方です」

セオドアの声は震えていた。

「リディア様が来なければ……
 王都は崩壊します」



私は深く息を吸った。

(……私が、王都を救う?)

かつて私を追放した場所。
私を侮り、傷つけた人々。

でも――
北方で得た力は、
“誰かを守るためのもの”だと感じている。

アレクシスが私の手を握った。

「リディア。
 無理をする必要はない。
 王都がどうなろうと、お前には関係ない」

その言葉は優しくて、
胸が温かくなる。

でも私は、
静かに首を振った。

「アレクシス様。
 私は……
 この力の意味を知りたいんです」

アレクシスの瞳が揺れる。

「北方を守れたのも、
 アレクシス様が支えてくれたから。
 だから今度は……
 私が“自分の意思”で動きたい」

アレクシスはしばらく黙り、
そして小さく息を吐いた。

「……分かった。
 だが絶対に一人にはしない」

私は微笑んだ。

「はい」

王太子は震えながら言った。

「リディア……
 頼む……
 王都を……救ってくれ……」

私は王太子を見た。

その瞳には、
もう“未練”ではなく
“恐怖”と“後悔”しかなかった。

(……これが、あなたの選んだ未来)

私は静かに答えた。

「私は王都のためではなく、
 “私のため”に動きます」

王太子は言葉を失った。




アレクシスは私の肩を抱き寄せ、
夜空を見上げた。

「リディア。
 王都の魔力の中心は……
 “王城の地下”だ」

私は頷いた。

「行きましょう。
 真実を確かめに」

夜会の喧騒が遠ざかる。

物語は、
ついに“王都の核心”へと踏み込んでいく。

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