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炎の神編
心世一体
しおりを挟む「ジル王子!」
ジル王子に吹き飛ばされたジャンは起き上がり再び武器を構えた。だがモロにクロエ、シルヴィ、ジル王子の魔法を食らったせいか先程までよりも弱っているように見える。
「てめぇ……邪魔すんじゃねぇ!」
ジャンは目にも止まらぬ速度でジル王子たちの目の前へ行き剣を振りぬいた。
「……!」
だが剣がジル王子たちの喉元まで届くことはなかった。
「驚いたみたいだね。君のように自分より強い相手と対峙した時のために生み出した光の防御結界だ。獣人の族長を基準に作った結界だ、そう簡単には壊せないよ。ヤンくん!二人ことは心配いらない。その男は君に任せた!」
「ジル王子にはバレてたのか……コナー、君の剣を僕に貸してくれないか?」
「いいけど……何か考えがあるのか?」
「ありがとう。この日のために修行してきた、とっておきをアイツにぶつける。」
「とっておき……まさか……!ヤン!」
「まだ俺には一分が限界だから、もし倒しきれなかったら後のことは任せた。」
ヤンはコナーの静止を無視し、両手に剣を握りジャンへ向かい歩き始めた。
「二人でダメだったのに、一人で勝てると思ってるのか?」
ヤンは深く、深く呼吸をした。呼吸は次第に小さくなっていき、ヤンは世界と一つになった。
「……なんだ……俺が震えてる?」
それは魔人になったジャンにとって初めての経験だった。生き物としての生存本能が目の前の敵から逃げろと警告していた。
「おもしれぇ、かかってこ……!!」
気づくとジャンの体は大木にめり込んでいた。ジャンの体は何とか剣で防いだようで、切り傷は見当たらない。
「いてぇじゃねぇか……これは俺も本気でやらねぇと不味そうだな!」
そう言った、ジャンの体はみるみると変化していき異様な姿へと変貌した。
「さぁ!楽しもうぜ!」
次の瞬間、金属のぶつかる音だけがコナーたちの耳に響いた。魔力循環で視力も強化されているコナーを含め、その場にいる全員が二人の動きを目で追うことはできなかった。
「……グッ!!」
事態が動いたのはヤンが心世一体を使ってから三十秒が経った頃だった。ジャンの体からは大量の血液が流れでている。どうやらヤンの攻撃が先に相手を捉えたようだ。
「ヤン!」
ヤンの体に起きた異変に初めに気づいたのはコナーだった。普通なら即座に敵を詰めてとどめを刺す場面だが、ヤンはその場に立ち尽くし動かなかった。
「ヤン!どうしたんだ!ヤン!」
コナーはすぐにヤンの元に駆けつけ正気に戻そうと顔を叩いた。
「コナー・エイベル。」
気づくとジャンはコナーの背後をとっており、コナーは死を覚悟した。
「そこをどけ、俺がそいつを起こしてやる。」
コナーはジャンを信用してその場を譲った。盲目的に信用したのではない。今までの会話と数度の剣のぶつかりあいでジャンの素直さがわかったから信用した。
ジャンはヤンの胸手の平を当て意識を集中させた。
「っけほ!……はぁ……はぁ……」
次の瞬間ヤンは目を覚ました。
「……かなり危険な技だな。魔力が漏れないための蓋が完全に外れていた。あのまま放置していたら間違いなく死んでいただろう。」
「どうして……俺を助けたんですか?」
「お前に今死なれたら困るからだ。今回は俺の負けだ……だが次会う時は必ず俺が勝ってみせる。」
そう言い残すと、ジャンは満足そうな顔でその場を去っていった。
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