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魔酔いの森
第一話
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ロープが切れたと思った直後に、物凄い重力が体に掛かって仰け反った。
反射的にしがみついたのは、晶洞の中心に聳える六角柱状の結晶だ。
「あっ……!」
美しい! 国内最大級!? 高さが七十センチを超えてるし、根本の太さは四十センチありそう!
下半分がインクルージョンで白濁してても、錐面は揃ってるし、表面のガラス光沢も虹色を帯びてる……。
根本から折れたそれと一緒に落ちながら、そんなことを考えていた。
未練がないと言えば嘘になるけど、あっても、このサイズなら直径二十センチと十センチの水晶玉が作れたなとか。
インクルージョン部分は、クラックド・クォーツに加工したら面白そうとか。
今日の収穫は、拳サイズの黒曜石が二つに、手のひらサイズの瑪瑙が三つ、今抱えてる水晶とは別に、ガマから取り出してリュックに詰めた幾つか……。
あああっ! なんかすごい未練でてきた!
あっ! それに、借りてた部屋の契約はどうなる!?
ちょっとずつ買い揃えた研磨機は!?
会社は不景気を理由に解雇される直前だったから良いとしても、祖母から相続したお金は口座にほとんど残ってる!
フリーフォールがトップスピードになったようだ。
「あああっ!」と叫んだ声が掻き消されてちょっと冷静なった。
……今さら焦っても、もう遅いか……。
いくら深くても、そろそろ底だろうし……。
痛くないといいな……。
地底湖に落ちて溺れるのはやだな……。
目を強くつぶって、リュックと水晶をギュッと抱え、衝撃を待っても、服のバタつく音と、風切り音しか聞こえてこない。
「…………?」
恐る恐る片目を開けて見えたのは、冬の満月の大きさになった穴だ。
どこまで落ち続けるんだろう……?
体を捩って下を見たら、青白い光が登ってきて通り過ぎていった。
ロープが切れる直前にも見たやつだ!
気の所為じゃなかった……?
更に体を捩ると、下の方に明るい場所が見えた。
「あれは……!?」
地下都市?
いや……違う。
草原だ……。
青空も見える。
そこに近づくにつれ、落下速度がゆっくりになった気がした。
「……ってことは、走馬灯……?」
ギリシャ・ローマ風の服装の女の人が十人くらいいる……。
そのまま草原に座ったり、岩に腰を掛けて……。
これって……オリンピックのイベントだったような……?
でも、髪の色とか記憶と違うし、全員の正面に浮かんでる半透明のパネルっぽい物も見たことがない……。
走馬灯の真横に差し掛かったところで、奥の方にいた長身の女性と目が合った。
その女性が僕を指差して、喋ってるっぽいけど声は聞こえない。
全員が一斉に驚いた表情を向けた。
うわぁ、みんな凄い美女!
他にどう表現できる? 端正? スレンダー? 清楚? とにかく美女だ!
何人かが、慌てた様子でパネルに向かって指を動かし始めた。
……あれ? あのパネルに映ってるのって僕じゃないか!?
他の何人かは、草原の境界に近寄って、落下中の僕と、パネルに映る僕と見比べたり、穴を見上げたりしてる。
どうやら走馬灯じゃなかったらしい……。
美女たちの足下の辺りで、僕はそう理解した。
こんな状況じゃなかったら、なんてラッキーな日なんだろうって思えたのに……。
履いてない美女たちの色違いの場所を見上げて、今日イチ胸が高鳴った。
それ故かな? また手元も見えない暗さに戻っても、もう怖く感じなくなった。
現実離れした体験で、どこか麻痺したっぽい?
電車にでも乗ってる気分だ。
次は何が見られるかちょっと楽しみ……なんて考えてる場合じゃない!
「ちょ……待っ……! ぶっ、ぶつかる!」
また青白い光かと思ったら、穴と同じ大きさに広がり、留まってたそれは、幾何学のような、ペイズリーのような禍々しい模様を描いてた。
「あああああ!」
ホラーゲーム? 映画? 謎のレーザー光線でバラバラになるイメージが浮かんだ。
怖いというより「なんでー!?」って感じで、成す術もなく落ちていくと、意外にも青白い光に硬さはなく、却って柔らかく包むように纏わりついて、細かく切れるように消えていった。
「蜘蛛の巣……!?」
心拍数がピークに達すると、心臓の鼓動と手の震えは同期するらしい。
放心状態で心音を聞いてたら、また下の方が明るくなった。
「まっ……また……!?」
「怖いもの見たさ」は、回避できない理不尽な状況でも発動するようだ。
気づいたら、首だけ捻ってチラ見していた。
蜘蛛の巣じゃない……! 今度は面だ! 真ん中に文字っぽいのが見えた!
あああ! 今度こそ潰れる! トマト云々って何の話だっけ!?
何の準備も覚悟もなく、光の面に激突した。
軽い衝撃と、「バリッ!」とも「ビリッ!」ともつかない音を立てて破れたそれを上に見てるってことは、まだ死んでない……?
体に痛いところはないし、抓れば痛いから大丈夫!
次の青白い光は水面に見えるけど、きっと大丈夫!
よく見れば、細かい模様や、文字っぽい何かで満たされた水のようなものだ。
「ドボン!」とさながらの音を立てても、服が濡れる訳じゃないし、呼吸もできた。
ただ変なのは、沈むんじゃなくて、浮上する感覚があるところだ。
もう驚くのにも慣れてきた。
落ち着いてる様子を水面に例える言葉があったような……?
もう、通り過ぎた水面を上に見てるのか、下に見てるのか分からないけど、次は氷っぽい。
青白く光る半透明の表面が鏡面反射して見えるから。
よし! 今度は何の模様も描いてないぞ!
リュックを抱えて落ちて行く僕が映ってるだけだ……。
……落ちて行く僕? あれ……? 鏡面反射じゃない!?
強い衝撃に続いて、「ガシャン!」と派手な音が聞こえたところで、僕は意識を失った……。
反射的にしがみついたのは、晶洞の中心に聳える六角柱状の結晶だ。
「あっ……!」
美しい! 国内最大級!? 高さが七十センチを超えてるし、根本の太さは四十センチありそう!
下半分がインクルージョンで白濁してても、錐面は揃ってるし、表面のガラス光沢も虹色を帯びてる……。
根本から折れたそれと一緒に落ちながら、そんなことを考えていた。
未練がないと言えば嘘になるけど、あっても、このサイズなら直径二十センチと十センチの水晶玉が作れたなとか。
インクルージョン部分は、クラックド・クォーツに加工したら面白そうとか。
今日の収穫は、拳サイズの黒曜石が二つに、手のひらサイズの瑪瑙が三つ、今抱えてる水晶とは別に、ガマから取り出してリュックに詰めた幾つか……。
あああっ! なんかすごい未練でてきた!
あっ! それに、借りてた部屋の契約はどうなる!?
ちょっとずつ買い揃えた研磨機は!?
会社は不景気を理由に解雇される直前だったから良いとしても、祖母から相続したお金は口座にほとんど残ってる!
フリーフォールがトップスピードになったようだ。
「あああっ!」と叫んだ声が掻き消されてちょっと冷静なった。
……今さら焦っても、もう遅いか……。
いくら深くても、そろそろ底だろうし……。
痛くないといいな……。
地底湖に落ちて溺れるのはやだな……。
目を強くつぶって、リュックと水晶をギュッと抱え、衝撃を待っても、服のバタつく音と、風切り音しか聞こえてこない。
「…………?」
恐る恐る片目を開けて見えたのは、冬の満月の大きさになった穴だ。
どこまで落ち続けるんだろう……?
体を捩って下を見たら、青白い光が登ってきて通り過ぎていった。
ロープが切れる直前にも見たやつだ!
気の所為じゃなかった……?
更に体を捩ると、下の方に明るい場所が見えた。
「あれは……!?」
地下都市?
いや……違う。
草原だ……。
青空も見える。
そこに近づくにつれ、落下速度がゆっくりになった気がした。
「……ってことは、走馬灯……?」
ギリシャ・ローマ風の服装の女の人が十人くらいいる……。
そのまま草原に座ったり、岩に腰を掛けて……。
これって……オリンピックのイベントだったような……?
でも、髪の色とか記憶と違うし、全員の正面に浮かんでる半透明のパネルっぽい物も見たことがない……。
走馬灯の真横に差し掛かったところで、奥の方にいた長身の女性と目が合った。
その女性が僕を指差して、喋ってるっぽいけど声は聞こえない。
全員が一斉に驚いた表情を向けた。
うわぁ、みんな凄い美女!
他にどう表現できる? 端正? スレンダー? 清楚? とにかく美女だ!
何人かが、慌てた様子でパネルに向かって指を動かし始めた。
……あれ? あのパネルに映ってるのって僕じゃないか!?
他の何人かは、草原の境界に近寄って、落下中の僕と、パネルに映る僕と見比べたり、穴を見上げたりしてる。
どうやら走馬灯じゃなかったらしい……。
美女たちの足下の辺りで、僕はそう理解した。
こんな状況じゃなかったら、なんてラッキーな日なんだろうって思えたのに……。
履いてない美女たちの色違いの場所を見上げて、今日イチ胸が高鳴った。
それ故かな? また手元も見えない暗さに戻っても、もう怖く感じなくなった。
現実離れした体験で、どこか麻痺したっぽい?
電車にでも乗ってる気分だ。
次は何が見られるかちょっと楽しみ……なんて考えてる場合じゃない!
「ちょ……待っ……! ぶっ、ぶつかる!」
また青白い光かと思ったら、穴と同じ大きさに広がり、留まってたそれは、幾何学のような、ペイズリーのような禍々しい模様を描いてた。
「あああああ!」
ホラーゲーム? 映画? 謎のレーザー光線でバラバラになるイメージが浮かんだ。
怖いというより「なんでー!?」って感じで、成す術もなく落ちていくと、意外にも青白い光に硬さはなく、却って柔らかく包むように纏わりついて、細かく切れるように消えていった。
「蜘蛛の巣……!?」
心拍数がピークに達すると、心臓の鼓動と手の震えは同期するらしい。
放心状態で心音を聞いてたら、また下の方が明るくなった。
「まっ……また……!?」
「怖いもの見たさ」は、回避できない理不尽な状況でも発動するようだ。
気づいたら、首だけ捻ってチラ見していた。
蜘蛛の巣じゃない……! 今度は面だ! 真ん中に文字っぽいのが見えた!
あああ! 今度こそ潰れる! トマト云々って何の話だっけ!?
何の準備も覚悟もなく、光の面に激突した。
軽い衝撃と、「バリッ!」とも「ビリッ!」ともつかない音を立てて破れたそれを上に見てるってことは、まだ死んでない……?
体に痛いところはないし、抓れば痛いから大丈夫!
次の青白い光は水面に見えるけど、きっと大丈夫!
よく見れば、細かい模様や、文字っぽい何かで満たされた水のようなものだ。
「ドボン!」とさながらの音を立てても、服が濡れる訳じゃないし、呼吸もできた。
ただ変なのは、沈むんじゃなくて、浮上する感覚があるところだ。
もう驚くのにも慣れてきた。
落ち着いてる様子を水面に例える言葉があったような……?
もう、通り過ぎた水面を上に見てるのか、下に見てるのか分からないけど、次は氷っぽい。
青白く光る半透明の表面が鏡面反射して見えるから。
よし! 今度は何の模様も描いてないぞ!
リュックを抱えて落ちて行く僕が映ってるだけだ……。
……落ちて行く僕? あれ……? 鏡面反射じゃない!?
強い衝撃に続いて、「ガシャン!」と派手な音が聞こえたところで、僕は意識を失った……。
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