異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第五話

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 朝だ。
 こんなに深く眠って快適に目が覚めたのは、いつ以来だろう……。

 夢を見た。
 窓の向かいの木に止まった「鳥のような女性」が歌を聞かせてくれて、それを聞きながら微睡む夢だ。
 うなされないのは本当に久し振りだから、ちょっと幸せな気分になれた。

 起き上がっても、体に痛い所はないし、疲れも感じない。
 身支度して掃除したら、ミゲルさんにお礼を言いに行こう。

 階段を下りて行くと、ミゲルさんは朝食の準備をしていた。

「おはようございます」
「おはよう。よく眠れたかな?」

 「おかげさまで」とお礼と感想を伝え、朝食の準備を手伝った。
 ミゲルさんがスープを温めながらベーコンエッグを焼いて、僕はレタスやトマトと一緒に丸パンを皿に乗せた。

 トマトはゴージェのように、食材の呼び方は異なっていても、双方認識できた。
 食品の鮮度が良いのは、物流が優れてるからだそうだ。

 テーブルに着いて、ミゲルさんに感謝の言葉を伝えてから頂くことにした。
 食べながら、ミゲルさんが物流について教えてくれた。

 物流は「セントー」と呼ばれる部族を中心とした運輸組合が担ってるという。
 「オーグ」と一緒で、変換されずに聞き取れた。

 注意点は、女性を「セントーリス」と呼ばなければならないとのこと。
 男女で別部族と言って良いほど、それぞれの主体性が高いのだとか。
 これは重要、食べ終わったらメモしよう。

「上の連中とはを切っ掛けに拗れてしまったそうだからね……」

 上とは、ここアルティス領の北に聳えるバアアル山の七合目にある首都アルトスの事だと教わった。
 これも重要、あとでメモ。
 
 高山地帯の首都に、職場ラピがあっても、物流が弱くて不便だったら、住むのは大変そう。
 もう関係改善は望めないのかな?

「運輸組合は、気難しい人達なんですか?」
「いや、気さくで善良だよ。気持ちの良いほどね」

 ますます分からない。
 あと考えられるのは……。

「外見が……その……個性的だったりします?」
「あー、うん。いや、みな整った顔だ。髪と目の色は、ノボルに近いかな」

 そう言うミゲルさんの髪と目の色は、光の加減で紺色に見える黒だ。
 昨夜は気付かなかったけど、窓の外を見ても、この世界は「茶色」が少なく見えた。

 ランタンの明かりで暗い色に見えた、この野草茶も澄んだ青色をしてる。
 ヨモギやヤナギの枝などを煎じて作るって、さっき教わったけど、その材料自体も青っぽかった。

 地球で茶色を帯びたものが、こちらでは青系の色に置き換わった感じだ。

「今日明日くらいには、会えるかもしれないよ」

 ミゲルさんが続けていた。
 昨夜の先約はそういうことだったのか。

「それまで、ご厄介になっても構いませんか?」
「ああ、大歓迎だ。むしろ上へ行くにも、彼らの協力は欠かせないから、是非紹介させてくれ」

 僕もセントーの人達に協力を求めようと考えてた。
 紹介して貰えるなら、何かお礼を考えないと。

「お礼にできる事はありませんか?」
「娘と年が変わらないんだから気にする事はないさ。……そうだな、じゃあ、天気も良いし、一緒に洗濯しようか」

 承諾ついでに、「娘さんはご結婚を?」と聞いてみた。

「ああ……。上でな……」

 村の壊滅後、領主と話し合って、上の移住者枠に入れて貰ったそうだ。
 家族関係が良好なら、離れ離れになるのは辛いんだろうな……。

 娘さんの近況は、手紙でしか知ることができず、結婚を知ったのも、つい最近だとか。
 ミゲルさん、苦労人過ぎる……。

「娘の名前はミカルリア。旦那は……、鉱夫のバルダだったか……」

 食器を片付けながら、ミゲルさんが教えてくれた。

「もし、上で会うことがあったら、伝えることはありますか?」
「そうだね……『こっちは元気にやってるから心配するな。戻れそうならいつでも歓迎する』……そんなところかな」

 これは忘れずに書き留める。
 あと、「ミゲルさんの奥さんとお父さんの行方を探す」も書き加えよう。

「それには、ノボルが上に行けるかが先なんだから、気負わなくていいさ」

 食器洗いを手伝い終えて、「洗濯はどこで?」と尋ねたら裏庭でやるそうだ。

「ノボルの服も持って来るといい。準備ができたら裏庭においで」

 二階の部屋で歯磨きを済ませてから、スケッチブックに覚え書き。
 荷物をまとめ、リュックごと持って行くことにした。
 キッチン側のドアから出ると、日当たりの良い裏庭に、物干し場とテーブルセットが見えた。

 ミゲルさんは、家の横を流れる用水路を見ていた。
 厳密には、その手前の溝のようなものだ。

 声を掛けて近付いて見ると、溝は、石組みで作られた擂鉢すりばち状になっていた。
 それに沿って、少し長めの木板が放射線状に設置されてる。

 その中をぐるぐる回ってるのが洗濯物のようだ。
 機械じゃない洗濯機! 凄い!

 仕組みはこんな感じかな?
 一、家から斜めに突き出た給水口から、お湯が勢い良く溝に注がれる。
 二、お湯と洗濯物が、斜めの板に沿って溝の中を回転する。
 三、汚れたお湯が、板の間から排水され、洗濯物が綺麗になる。

「洗濯と言っても、見てるだけなんだけどね。……そろそろいいかな。これを引き上げたら、ノボルのを入れるといい」

 リュックから服を取り出しながら、汚れが酷いものは、予め擦り洗いかなと考えてたら、ミゲルさんが戻って来た。

「昨夜も思ったが、変わった服だね……」

 ちょっとずつ服を投入しながら、合成繊維と織機について話すも、上手く伝えられなかった。
 機械だけじゃなく、科学の知識も乏しい僕に、説明できる自信はない。

「私だって、このお湯が出る仕組みを説明できないから、気に病むことはないさ。それでもね。この給湯器は、最先端の輸入品なんだよ」

 物凄く高価な設備で、ログハウスと上下水道を含めれば、沿岸の寒村を丸ごと買える値段なのだとか。
 ミゲルさんは良い人な上に、お金持ちらしい。

 村の跡地を植林からやり直し、西海岸の「フィシキ」族と商談をまとめ、その利益で購入したそうだ。
 同時に、セントーと共に輸送ルートを確保したことも評価され、住民一人でも村の存続が許されたという。

「評価や許可は、領主が行うんですか?」
「いや、王様だよ」

 正確には、現在代行している王女が、引き継ぎ中に発生した混乱を詫びる形で、国内全域から知識と技術を総動員して復興事業を行い、その成果をモデルケースとしたのだとか。
 高齢の王様に代わって、現場を切り盛りする妙齢のお姫様って、ちょっと良いかも。

「すごい女性ですね」
「……女性? ああ、ノボルは人の姿を思い浮かべたんだね?」

 そう確認したって事は、この国の王族は人じゃないらしい。
 女神に斬り殺される可能性もあった僕は、もう驚かない。

「そう思いました。違うとするなら、王族は天使だったりしますか?」
「天使か。確かに、神話は、『天の神より遣わされし』で始まるから、そう言えなくもないが……」

 少し間を明けてから、「竜だよ」と教えてくれた。
 「人は基本的に拝謁できないから、実際は分からない」と前置きして、神話の一部を聞かせてくれた。

「天の神より遣わされしかくなる竜。裂かれし地より灼泥しゃくでいと共に顕れぬ。焦熱が沼を赤嶽せきがくと為し、あふる血川を嶺と為す……」
 (ここは、後日、『降竜記――地湧の章――』から書き写した)

 難しい言葉が多くて、良く理解できなかったけど、噴火の例え話に思えた。
 考え込んでた僕に、ミゲルさんが、「洗濯物を干してから続きを話そう」と言った。
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